第三十五話「可能性」


「手強い!」


「猛さん!」


「中々やるではないか地球人よ」


 天照学園の運動場でのガニメスと猛と春歌の戦いは熾烈を極めていた。

 ガニメスは遠距離では目からの光学兵器、しかも拡散放射も可能――や角からの電撃を放ってくる。

 その上、三m近くの巨体を俊敏に使った攻撃も可能。

 装甲も固く、フレイムフォームの剣では浅く傷付ける事しか出来ない。

 春歌も必殺技を決めようとするが相手の動きが想像以上に速いので下手をすると校舎を傷付けてしまう。


 猛は攻撃力に特化したライトニングフォームも考えたが、そうするとスピードで負けてしまう。

 ブラックスカルを倒したあの禁断のフォームならば倒せるかも知れないが敵の総戦力は目に映る範囲で終わりではないだろう。スグにガニメスに変わる新しい戦士を送り込まれたら苦しい状態になる。


 それに戦闘員もまだ倒しきれたわけではない。

 舞と沙耶の二人は敵の航空戦力の相手で手一杯だ。

 戦う場所を移す事も考えたが敵の目的は人間の拉致も含まれている。生徒が拉致されるのは避けねばならなかった。

 八方塞がりである。


(どうにかして速く倒したいけど――) 


 そう言ってガニメスに果敢に接近戦を挑む。

 パワーもあるのでフレイムフォームでは押しまける。

 春歌の桜レヴァイザーも同じ結果になるだろう――


「猛さん、体育館が!!」


「クッ!!」


 敵の宇宙服風の外見をした戦闘員が体育館に集まり始めた。

 慌てて猛は其方に向かおうとするがガニメスに阻まれる。


「此処から先はいかさんぞ」


「!!」


 しかしガニメスに阻まれる。


「春歌ちゃんは体育館の方へ」


「でも――」


「急いで!」


「は、はい!」


 そう言って体育館の方に向かおうとしたが――


「おっとそうは行かん」


 ガニメスの角から放たれた電気放射が春歌の周辺に襲い掛かる。


「キャアアアアアアアア!?」


「春歌ちゃん!?」


 次々と雷が春歌に直撃し、スーツに火花が舞い散る。


「いやぁ!? ああ、あああああああ!? ああああああああああああ!?」


 苦悶の声が響き渡り、スーツが小爆発を起こしながら吹き飛ばされた。


「春歌ちゃん!?」


「他人を心配している暇があるのか!?」


「!?」


 注意が逸れた隙を突かれて巨大なハサミで殴り飛ばされる。


「ガハ!?」


 猛は吹き飛び、校舎の壁に叩き付けられた。


「ククク、さて――連れて行くとしようか――」


 そう言ってガニメスも体育館へと向かう。

 不味い。

 体育館には避難民が大勢いる。

 もしも連れ去られたら――


(出し惜しみしている場合じゃない!)


 あの銀色のレヴァイザーになる決意をする。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


「ん、何だ!? この波動は!?」


 レヴァイザーの色が銀色に変わる。

 赤いオーラがジェットエンジンの様な勢いで周囲に吹き上がる。

 体が軋み上がる。


「スグに決着をつける!!」


 そう言って――レヴァイザーの姿が消えた。


「何だ?!」


 ガニメスは何が起きたか分からなかった。

 しかし体育館に集めた戦闘員が次々と上空に舞っている。

 ソニックブームが巻き起こり、その衝撃波だけで次々と倒されていっているのだ。

 あっと言う間に体育館周辺の戦闘員は蹴散らされた。


 そして銀色のレヴァイザーはガニメスにも迫り来る。


「ダダダダダダダダダダ!!」


「ぬぉおおおおおおおおおおお!?」


 強固な装甲の体が次々と打ち砕かれていく。

 ガニメスの体は地球の戦車砲程度なら軽々と弾き飛ばすが、今のレヴァイザーの拳はそれを遥かに上回っていた。

 体をバラバラに砕かれて行きながら吹き飛ばされる。


「ば、バ、ばかナァ――」


 体から爆発を巻き起こしながら上空に吹き飛んで行く。

 上空にいた大型の円盤の外兵器を突き破り、そして内部から破裂するように一際大きな大爆発を起こし、黒煙を挙げながら大型円盤が墜落する。


「はあ・・・・・・はあ・・・・・・はあ・・・・・・」


 銀色のレヴァイザーは通常の水色の姿に戻る。

 上空の戦闘機の役割を持つ円盤も引いて行ったようだ。

 だがスグに別の大型円盤がやって来る。


「あ、あらて?」


 息もたえたえになりながら猛は不味いと思う。

 新しい敵が戦闘員達と一緒に舞い降りて来た。

 他の方面に居た連中だろう。

 追加で護衛の円盤もやって来る。 


『我が名はスティンゼル!! ブレンの偉大なる戦士の一人!!』


 大型円盤から新たな敵が現れる。


 灰色のスティンゼルと名乗るロボット戦士。

 背後から反り上がるようにして頭上に伸びる尻尾が特徴だ。

 サソリを二足歩行にさせて二m近くにした巨体。

 三本の爪の両腕のクロ―アーム。 

 大きな足が特徴だった。


『よくぞ我が戦士を倒したと褒めてやろう! だがもう死に体のようだな――ここまで頑張って褒美として貴様をブレン様の元に連れて行ってやろう。あのピンク色の戦士と一緒にな』


「なに!?」


『光栄に思うが良い地球の戦士よ! そして我がブレン様の、暗黒の神の為の礎となるがいい! フーハッハッハッハッハッ!』


「そんな事――誰がなるもんか!」


『その体で何が出来る。もうボロボロではないか!』


「まだだ、まだ――倒れるわけにはいかない! ここで倒れたら、何の為に戦ったのか分からない!」


『まだ戦うか! 少々痛い目を見ないと分からんらしいな! ふん!!』


 そして両腕がロケットパンチの様にして飛んで来る。

 それを天野 猛は諸に受けてしまう。


「ガハ!?」


 校舎の壁を突き破り、そのまま倒れ込んでしまう。


『さて、トドメを刺すか――』


「待ちなさい!」


 スティンゼルの体に火花が散る。

 だが大したダメージは負ってない。

 振り向くとそこには小型拳銃型の武器、ハートブラスターを構えた春歌がいた。

 ヘルメットが破損し、衣装に焦げ目が破れがあった。


「こ、ここからは私が相手です!!」


『死に急ぐか小娘が!』


「春歌ちゃん・・・・・・」


「もう決めたんです! 私は逃げません! 猛君だけに痛い思いはさせたくないんです!」


『ワケの分からん事を! ふん!!』


 尻尾からレーザーを照射する。

 レーザーの散弾。

 雨の様に降り注ぐ。 


「あぁ! あああああぁあああ!!」


 春歌は悲鳴が上がる。

 再びスーツが、小爆発を引き起こした。

 その間にスティンゼルは両腕のクローアームを引き戻す。

 そして地面を滑空しながら巨体に見合わないスピードで距離を詰め、クローアームで引き裂く。

 一度や二度ではない。何度も何度も引き裂き、その度に春歌の悲鳴が響き渡った。


 それを見て猛はキレた。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 金色の波動が竜巻の様に吹き荒れる。

 レヴァイザーの色が黒色化する。

 凄まじいエネルギーの嵐だった。


『な、何だこの力は――』


 春歌を蹴り飛ばし、エネルギーの測定に入る。

 エネルギーの量が信じられない勢いでドンドン上昇していく。


『グォ!?』


 体内に内蔵していたエネルギーを測定する関係機器が全て吹き飛んだ。

 ありえない。

 こんな化け物が地球に存在したとは――


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 この力なら全てを破壊できる。 

 例え相手が何であろうと。

 そうして相手を叩き潰すために歩んで――



 気が付いたら何時の間にか宇宙空間で寝そべっていた。


「僕は一体?」


 キョロキョロと周囲を見渡す。

 遠くにキラキラと星々が輝いている。

 真下には青い地球が光っていた。

 月や太陽――教科書で見た太陽系の天体も見える。


 ここは何処なのだろうか?


「君が求めている力はなんなのかな?」


「君は?」


 眼前に少年が現れた。

 天照学園と天野 猛と同じ制服を着ている。

 同じく金髪で、顔は暗くて見えないが自分と同じ緑色の瞳をしていた。


「君は何を求めて力を求めているのかな?」


「それは――」


「今君は怒りに任せてデタラメに力を求めている。それでは何時か本当に守りたい者をも破壊してしまう」


「え?」


「本当に大切な人を守りたいなら――ただ破壊の力に身を任せるだけじゃなく、もう一つの可能性を選べる筈だよ」


「もう一つの可能性?」


「まだそれにも至れないと思う。けど――キッカケなら与えられる――」


「キッカケ?」


 先程から何を言っているのかサッパリだった。

 だが不思議と信じられた。

 それにこの声も聞き覚えがある。

 と言うか聞き間違えようが無い。


 何故なら相手は自分と同じ――  


「そっちの世界の春歌ちゃんもよろしくね?」


 それが別れの言葉だった。





「何が起きたの?」


 エネルギーの暴風が収まった。

 天野 猛はワケが分からなかった。

 体の疲れも取れている。

 いや、それ以上の力が溢れ出ている。 


『な、何だ? エネルギーが収まった?』


 スティンゼルも同じだった。

 一体何が起きたのだろうか?


『退け、スティンゼル。お前では奴に敵わん』


『ぶ、ブレン様!?』


 脳内に直接語りかけている。

 先程までの光景を見ていたのだろう。

 自分達の主、神の遣いであるブレンが直接問い掛けて来たのだ。

 これにはスティンゼルも困惑する。


『二度も言わせるな。配下を捨て駒にして離脱しろ』


『しかし――今の奴なら仕留める事が――』


 緑色のオーラを吹き荒らしながらレヴァイザーは突っ込んで来る。

 口元が閉じて胴体部の球体の出っ張りが開き、そこが緑に輝いている。

 慌てて左腕で防ぐが――


『ナニィ!?』


 爆発。

 腕が砕かれた。

 慌てて距離を取ろうとする。

 しかし離れない。

 次々と拳が暴風の様に襲い掛かる。

 体が砕かれ、穿たれ、抉れ・・・・・・一方的な戦いだった。


 その様子を舞と沙耶は上空から見ていた。

 何機か円盤を叩き落とし続けていたら、急に天野 猛が異常を引き起こし、金色の波動を発して黒くなったかと思えば突然敵が引いて行ったからだ。

 そしてどうしようかと思ったら今度は猛が緑に輝いていて敵を一方的に追い詰めているのだ。

 事態が二転、三転してワケが分からなかった。


「ちょっと沙耶――今の猛どうなってるの?」


「私に聞かれても分からないわよ――創星石の力にこんな力があるなんて――」


 沙耶は創星石の事は詳しくは知らなかった。

 ただ強力なエネルギーを秘めた鉱物程度ぐらいしか知らなかった。    

 ヒーロー部に入った目的の一つがこの創星石を調べるためである。

 だが先程までエネルギー測定不能と言う桁違いのエネルギーを放出していた。

 正直その場から逃げ出す事も考えた程だ。

 今はとても安定しているがそれでも以前のノーマル状態のレヴァイザーとは桁違いだ。


 一体何が起きたのだろうか?


『あ・・・・・・があああああ・・・・・・あああ』


 そうこうしているウチに、ただ殴る蹴るだけで必殺技を使わずに倒してしまった。

 戦闘員達は引いて行く。

 レヴァイザーも元の状態に戻った。

 アレだけの激戦だったにも関わらず不自然なぐらいに疲労感がない。


「やりましたね、猛さん♪」


「あれ、春歌ちゃん? スーツのダメージが?」


 かなり手酷くやられていた筈だったのに春歌に外傷らしい外傷もなく、新品同然の状態だった。


「ええ、疲れもありません――それにあの夢は一体・・・・・・」  


「夢? 春歌ちゃんも?」


「ええ、猛さん・・・・・・だと思うんですけど、一体アレは――」


 不思議な話だった。

 一体何だったのだろうか?


「ともかく、状況確認が優先だよ」


「そ、そうですね。先生達と合流しましょうか?」


「うん。避難誘導してたから今体育館にいると思う」


 そして二人は体育館へと向かった。


(それにしてもアレは一体何だったんだろう・・・・・・)


 あの宇宙空間での不思議な体験。

 そして対面した人物。


 ともかく今は頭の隅に置いていく事にした。

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