第三十七話「決死の防衛戦」


 学園内での戦いは一旦終局し、猛達は学園の外・・・・・・通称、出島へと向かった。


 出島へと向かうには幾つかルートがある。

 海上のフェリーを使うルートか、本州と繋がっており、内部に鉄道も通っている天照大橋を使うルートだ。

 どちらを選ぶにしろ危険が付き纏うルートである。


「で、嵐山先生・・・・・・よくアーカディア時代に使用してたトレーラーが用意出来ましたね」


 猛は素直に嵐山先生に感嘆の息を述べていた。

 今猛達はアーカディア時代に使用していた大型トレーラーに乗って移動している。

 移動基地としてこれ程頼りになる乗り物はない。


 それよりも一介の教師がこれを用意出来るとは思えなかった。


「ちょっと色々と学園の上の方に伝手があってな。それでだよ」 


 と、タバコを咥えながらハンドルを操る嵐山 蘭子。

 初めて動かすにしてはかなり操縦が手馴れているようにも思える。

 ちなみに乗り捨てられた乗用車などの障害物の事も考えて学園の外周部――海岸沿いをぐるっと回る多少遠回りなルートを選択していた。


「で? どちらのルートで行くんですか?」


 当然な疑問を春歌は投げかける。


「こんな状況下でフェリーは動いてねえだろうし、動かせても下手すりゃ海上で狙い撃ちだ――天照大橋を使う。あそこは学園の生命線でもあるからな、車線も広いからこのトレーラーでも十分渡れる」


「だけど天照大橋も現在戦闘中みたいだけど?」


 と、舞が不安げに尋ねる。

 状況に関してはSNSで調べたか、天村 志郎だかに直接聞いたりしたのだろう。

 嵐山先生はタバコを口から取って煙を吹き出しこう言った。


「そのためにお前らが居るんだろうが」


「ごもっともだね」


 そうしてトレーラーを動かした。




 倉崎 稜は天照大橋周辺の上空で敵の航空戦力と激突した。

 赤い翼を生やした漆黒のSFチックな天使の様な姿になってホーミングレーザーやビームを放ち、光の剣で両断し、シールドを張って敵の攻撃を防ぐ。

 驚くべき事に円盤だけではなく、自衛隊などの地球制の兵器まで混じって襲い掛かってくると言う驚愕な状況だった。


『これはどう言う事なんでしょうか?』


 稜は通信越しに志郎へ尋ねる。


『恐らくこの短時間のウチに地球制の兵器をコピーしたのでしょう。方法は分かりませんが・・・・・・外見はともかく、中身は別物に置き換えられている可能性があります。十分に気をつけてください』


『分かりました』


 との事だった。 

 稜は油断せずに次々と、従来の戦闘機を(それも宇宙に進出する程の科学技術を持った戦闘機をも)追い越す程のスピードで稜は飛び回り、次々と撃墜していく。

 最低でも大気圏内でマッハ三以上は叩き出している事になる。

 華奢な美少年が耐えられる速度ではない。訓練された軍人でも根を挙げるどころか失神してしまいかねない速度だ。

 それを稜は普通に出しながら考え事をしていた。


 宮園 恵理の事や闇乃 影司の事である。

 恵理はティリアやカルマ達と一緒に謎の組織を探りに行ったきりである。

 本当は助けに行きたいが、何処にいるのか分からないし、それに自分自身もこの学園で生活しているウチに大切な物が増えた。

 闇乃 影司やホーク・ウィンドウなどもそうだ。今は一緒に天照大橋で頑張っている。


『まさか日本にまで来てエイリアンみたいな外見の奴と一緒に宇宙人とやり合う羽目になるとは思わなかったぜ』


『え、エイリアンって僕の事?』


 ホークウィンドウはボクサーを模したパワードスーツを身に纏っている。

 腰に巻いたチャンピオンベルト風の変身ベルト、頭部のヘッドギア型ヘルメット、肩部のアメフト選手を連想させるプロテクター、ボクサーパンツ型の下半身にリングシューズ型の足などが特徴だ。


 対して闇乃 影司は相変わらず黒い怪人と言うかエイリアンと言うか今現在戦っている敵と混じっても違和感無さそうな姿で敵を倒している。

 二人とも近接格闘型の戦闘スタイルなため、分が悪い。


『てか後ろのヌイグルミなんなんだ?』


 古くさい銀色の宇宙服風の格好をした戦闘員を殴り飛ばしながらホークはチラッと後ろに目をやった。

 後ろにはだるまの形状をした二頭身の黄色い兎のヌイグルミが銃火器を持って支援してくれている。

 メチャクチャ強い上にタフなので頼りになるがどうしても気になった。


『それはグモたんです』


 愚痴を聞き取ったのか天村 志郎が回線に割り込んで来た。


『グモたん? あの遊園地のマスコットキャラか?』


 商業地区の遊園地にグモたんと言うマスコットキャラがいる。 

 何気に大人気でバリエーションとしてメカグモたんなどもいる。

 他にもポペロン星人などのゆるキャラマスコットキャラなども人気である。


『本当は戦闘員用のスーツを準備するつもりだったんですが間に合わなくてそれ来て前線に行ってもらいました』


『日本人は常識的な民族だと思ってたんだけどな・・・・・・狂ってやがる・・・・・・』


 ヌイグルミとエイリアンと共闘して地球外生命体と戦っているとは母国の両親も思うまいとホークは苦笑した。


『それにしても敵の構成は何なんだ? 地球の兵器も混じってやがるし』


 ホークはそう毒付く。

 まだ地球に降下してから半日も経ってないのにもう地球の兵器を複製しているらしい。

 戦闘ヘリに戦車、軍用パワードスーツ、ラウンド・ウォーリアーや人型機動兵器アサルトライドの姿も見える。


 特にラウンド・ウォーリアーとアサルトライドは地球連邦軍、アメリカ方面では特に普及している兵器でホークが母国にいた頃は何度か現物をお目に掛かった事がある。


 日本では天照学園で積極的に導入が進められている。

 対して自衛隊の場合は米国から導入したのを試験的に保持しているぐらいである。これは自衛隊の仮想敵が天照学園であり、天照学園に対抗する為に高性能の兵器を開発する必要があると政府が判断した結果、配備が遅れたと言うのが原因である。

(更に天照学園から世界最先端の技術を強奪したデーターを奪取、解析し、CASユニットなどの高性能兵器開発が優先されたのも原因一つである)


 元々この二つの兵器は第三次大戦、月のアルテミス王国の独立戦争において月側が独自に開発したパワードスーツ兵器に対抗する為に産み出したと言う経緯がある。

 戦争終結後は地球圏での運用において多大な成果が見られ、特にラウンド・ウォーリアーはコスト面などで第三国でも数多く使用されている。


 迫って来ているのはラウンド・ウォーリアーの傑作機「サイクロプス」の後継機、「サイクロプスMKーⅡ」に空中戦闘型の「ファルケン」。

 どちらもアメリカ製である。


 そしてアサルトライド――四m前後が基本サイズであり、威圧感がある上に目立つ。

 装甲車に手足をくっつけた様な外観の「シールダー」。そしてロボットアニメの人型兵器然としている「ブラスト」。


 更には自衛隊が独自に開発していた変身装着式パワードスーツ「CASユニット」やデザイアメダルの怪人までもが混ざっていた。

 もう混沌としているとしか言いようがない陣容である。 


 何とかロボット大戦の世界だ。


『てかマジでどうすんだ!? そう長くは持たないぞこれ!?』


 一応天照学園軍事部が独自開発した戦闘機やアサルトライド、ラウンドウォーリアーなどを身に纏って頑張ってくれているがそれでも焼け石に水の状況だ。

 敵は味方の被害など構わず、残骸を踏み越えて迫り来る。

 ホークも近くの敵を殴り倒して殴り倒してしているがキリが無い。


 闇乃 影司が頑張ってくれており、彼がいなかったらとっくに橋の上の戦線は崩壊していただろう。


「どうやら危ない所だったみたいですね」


「ええ――」


『お前らは・・・・・・』


 その時だった。

 ホークの目の前に天野 猛と城咲 春歌が現れたのは。

 既に変身状態で何時でも戦闘に介入できる状態だ。


「じゃあ私は空中の敵を相手してくるから」


 舞はそう言って空中へと飛んでいく。

 稜と合流して連携を組んで敵を叩き落としていく算段だ。


『疲れてるのなら下がりな! 短い時間なら幾らか私達が受け持てる!』


 大型トレーラーが後ろで停止した。

 武装も搭載しているのか各部から火を噴いた。

 敵のロボット兵器が次々と破壊される。

 だがそれ以上に敵から弾幕が放たれた。


『シールド展開!』


 トレーラーは前面から少し離れた空中にエネルギーのシールドを展開する。

 強度は戦車砲に耐えられる強力なエネルギーシールドだが、高火力の武器が飛び交っている今の状況では下手すると数秒でシールドを貫通するだろう。

 だが無いよりかはマシだ。


『・・・・・・セイントフェアリーが気になるけど、今は――!!』


 闇乃 影司は敵の攻撃を物ともせず――それも一瞬で戦車がスクラップになる様な攻撃の嵐を乗り切って敵陣に肉薄。

 次々と敵を切り裂き倒して行く。

 しかし切り倒した後ろにも敵がいる。


「そこの黒い怪人の人! 飛んで!」


『!?』


 猛に言われて影司は跳躍した。

 そして猛は右腕、春歌は左腕を前に担げて、互いの手をクロスさせる。


「「Wレヴァイザーバスター!!」」


 交差した腕から極太の一筋の光線が放たれた。

 一直線に放たれた光線は橋の上に展開していた敵を一気に一掃していく。

 攻撃が止んだ瞬間だった。


(こいつがブラックスカルを倒したって言うヒーローの力か・・・・・・)


 ホークは内心では驚いていた。

 レヴァイザーに関しては学ラン仮面との戦いを間近で見たが、まさかまだこんな隠し球があるとは思わなかった。

 光線で一掃され、橋の上は静かになった。

 残っているのは撃ち漏らした雑魚ぐらいである。


『中々の戦い振りだったな! 地球人!』


『なっ!?』


 終わったと思ったらこれである。思わずホークはたじろぐ。

 猛は本能的に敵の隊長格の戦士が現れたのだろうと思った。

 それも数体。

 その中で一際風格を漂わせているのがいる。

 ドラゴンの姿をしたニ本角の怪人だった。


「俺の名はバルバス!! 偉大なるブレン様の戦士の一人だ! 貴様達の健闘を讃え、この俺自らが相手をしてやろう! ふん!!」


 そう言って空中に飛び上がり、両手から光線を雨の様に放ってくる。

 光線の絨毯爆撃だった。

 地面に直撃する度に爆発が起きる。

 それを潜り抜けて春歌とホーク、そして闇乃 影司が空中に飛んで迫る。


 春歌とホークの動力源はセイントフェアリーこと揚羽 舞と同じであり、その気になれば空中戦は可能なのだ。


「そんな単調な動きで!」


「きゃ!?」


『クソ!』


 しかし二人は不馴れなためにあっと言う間に徒手空拳で叩き落とされてしまった。

 その一方で闇乃 影司はと言うと――


「なっ!?」


 攻撃を受け止められた事に衝撃を受ける。

 そして額の宝玉部から光線が放たれるがそれを体を捻って避ける。

 お返しに近距離で光線技を浴びせ、爆発が起きたが――


「バカな!? 直撃の筈だぞ!?」


 そこで他に控えていたブレン軍の戦士達が動き始めた。

 闇乃 影司に迫り来る。

 昆虫に似た戦士や機械戦士などが群がって来た。

 しかし闇乃 影司は近付いた先から次々と殴り倒し、バルバスを地面に叩き付ける。


『アイツまだあんだけ余力があったのか!?』


 その事にホークは目を丸くした。

 ずっと一緒に戦い通しで、その上に庇うように攻撃を食らい続けて来た。

 にも関わらずまだ衰えを見せてない。


「これ程の戦士がいるとは少々侮っていたようだ・・・・・・アレを使うほかあるまい」


 すると後方から大型の物体が迫り来る。

 大きさはおよそ40m級。

 巨大ロボットだった。

 ツインアイで突起物が無くて丸っこい、昔の特撮物の侵略者が使いそうなロボットだった。


 巨大ロボットの投入は想定外だった。

 それに幹部格の怪人軍団が相手であり、このまま為す術もないかに思われた。


『すいません、最終調整に手間取りました――』


 天村 志郎の声が響き渡った。

 瞬間、空中に展開していた航空戦力が次々と爆散していく。

 そして巨大ロボットが大きな力が加わったかのように吹き飛び、海へと派手に着水した。


 入れ替わりに現れたのは――漆黒の悪魔だった。

 犬耳で凶悪な赤い双眼の面構え。

 灰色の胸部プロテクターに埋め込まれた赤い宝玉。

 尖ったショルダーアーマー。

 赤いクリアパーツが付いた両腕のシールド。

 背中から悪魔の羽を連想させる赤いウイングパーツと尻尾を生やしているせいでより悪魔然としている。


 それを遠目から見て揚羽 舞はハァとため息を付いた。


「遅いわよ――」


『分かってます。ですから遅れた分はキッチリ埋め合わせさせて貰います』


 ――このベルゼルオスで。


 天村 志郎は自らが作ったパワードスーツの中で微笑んだ。 

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