第三十一話「カルマ」


 前回――ティリアと春龍がカラオケから帰って来た後。

 大きすぎず、小さすぎずの手頃なサイズの一件家でカルマはリビングのソファーに座ってティリアを慰めていた。


「たく、お前といい、恵理のお嬢様といい、昔から稜絡みになると何でポンコツになるんだ」


「だってぇ・・・・・・」


 カルマ。

 ティリアと同じ傭兵団に所属しており、現在は宮園財閥の依頼を受ける傍らティリアと同じく学業に身を投じている。

 容姿は倉崎 稜を目付きを鋭くさせ、体格良くして大人びた感じにした風貌と言った方が分かり易いだろうか。


 カルマと稜は面識があり、その事について言及された事がある。


 そう言われてカルマはテキトーに誤魔化した。

 ある程度予測はしているが謎の部分はある。

 その謎の部分を勝手に予測して宮園財閥に銃口を向けるのは時期早々だと考えていた。


 それを探るためにも宮園財閥に近付き、稜を倒して恵理を拉致して人体改造を施したとある組織の行方を追っている。


 だが最近は手掛かりが中々掴めず、ヒーロー活動に身を投じている。

 デザイアメダルの足取りを追っている形だ。


「しかしカラオケねえ――」


「なに? カルマも行きたかったの?」


「女子の比率が多い中でか? イジメだろそれ?」


 昔からカルマはあんまりその手の遊びは分からなかった。

 反面ティリアはスマフォのゲームに日本のゲームにとかなり染まっている部分がある。

 ティリアにとって日本は憧れの国とか以前話していた事があるがどうやら本当だったらしい。


「他にも沙耶とか舞とか恵理とか――」


「おい、恋敵混じってるじゃねえか」


 恵理も一緒とか完全に修羅場の空気である。

 誘われなくて本当に良かったと思った。


「稜もいたよ」


「呼んだ奴の悪意を感じるぞソレ」


 失恋した相手にそのカップルを同伴させるのは中々度胸がいる。

 あのエセ中国人口調の中国人の顔がカルマの脳裏を過ぎった。


「んで色々と話したんだけどカルマとの仲はどうなのって言う話になって」


「え? 俺に乗り換えるの?」


 呆れながらカルマは言った。


「だけど今のタイミングだと稜の代わりを求めてるみたいでどうなのかなって話になって結局有耶無耶になった」


「うん。それ本人の目の前でやる話じゃねえよな」


 外見には出してないが結構傷付いたカルマだった。

 例え傭兵であっても所詮は人間の少年だ。

 何気ない一言で心に傷を受ける事だってある。


「そっから男がいるのに女の子同士の恋愛は浮気に入るのかって言う話しになって」


「どうしてそうなった」


 こいつら限定かもしれないが女が考えている事は全く分からなかった。

 酒でも飲んだか? とかカルマは疑ってしまう。


「ちなみに言ったのは稜ね」


「アイツかよ!?」


 稜は突拍子も無い事を突然言う事があるが、女だらけの場所でそれをポツンと言う度胸に戦慄した。

 逆に何も考えずに純粋に疑問をぶつけた可能性も大であるが。


「うん、でね。結局一夫多妻制の国に移住して結婚すれば解決だろって言う話しになって――」


「え? お前まさかその方面で稜を――」


 性的な意味で肉食獣だなオイなどと若干引きながら尋ねた。

 対してティリアは苦笑していた。


「流石にやらないよ」


「いや、話の流れからそうかなって・・・・・・」


「あ~うん、そう捉えるよな普通・・・・・・」


 言わんとしている事を察したのかティリアは小麦色の頬を朱に染めて目線を逸らす。


「で? 歌ったの?」


「うん。アニソン、特撮オンリーだった。皆テレビ見ない子ばっかりで、恵理は無理して今風の奴を歌ってたけど稜とディエットオンリーになってた。舞も似たような感じ」


「お前もアニソンオンリー?」


「悪いか?」


「いや、悪いとは言わないけどさ・・・・・・」


 流行の音楽に関してはカルマはあんまり知らない。

 知ってても有名な海外のロックバンドかCMとかで流れる名も知らない歌ぐらいだろうか。


 と言うのも傭兵と言う仕事柄少しでも情報を集める癖が付いている。

 所属している傭兵団には一応情報収集担当の人間はいるにはいるが念の為。 

 暇さえあればテレビのニュースだのインターネットだので情報を集めている。


 特に今の日本はデザイアメダルのせいで軍事業界にとっては予想だにしないホットスポットになっており、水面下ではパワードスーツ持ち込んで売り込みを駆けたりしているPMC(傭兵会社)もいると言う噂もある。

 きっとあの組織も何かしらの動きを見せているだろうからその片鱗さえ掴めればと思い熱心に見ている。 


「漫画とかアニメとか読まないの?」


「あんまりな」


「えー」


「何でそんな嫌そうな顔すんだよ。一応これでもそれなりに見てるぞ」


 本当にそれなりではあるが。


「まあともかくそろそろシャワー浴びて寝ろ」


「お前は私の親かよ」


「時間の管理も仕事のウチだ」


 そう言って二階に上がり自室に入る。

 狙撃対策のために窓は本棚で塞いでおり、ティリアからは「囚人みたいな部屋」と言われた。

 ベッドも机も万が一の事を考えてケブラー(防弾繊維)や鉄板を仕込んだ対弾仕様である。


「・・・・・・ティリア、変わったな」


 ふとティリアの事を思い出す。

 傭兵団に入りたての昔のティリアは復讐鬼だった。

 と言うのもそもそもの経緯が傭兵団が休暇中、元の仲間の元を尋ねて、ホームパーティに混じり――その最中爆弾テロで両親を失ったのが全ての始まりだった。

 ティリアの頬の傷はその時に付いた物だ。

 そこから色々あってティリアを入れる事になった。


 当時同い年のカルマと言う前例があったが揉めるに揉めた。

 だが放っておくと復讐するために何しでかすか分からないのと狭義心でティリアを入れた。

 そこから爆弾テロの首謀者を探し出し、そして殺害した。


 稜と恵理と出会ったのはそれぐらいの時期だ。

 休暇代わりの依頼で戦闘技能を仕込む事になったのだ。


 で、問題だったのは稜だ。

 稜はドンドン戦闘技能を吸収していき、一週間も経った頃には単純な戦闘技能ならば太刀打ち出来ないレベルにまで成長していった。

 最初、ティリアと恵理は反目しあっていたがそんな稜の現状を見て手を組むようになり、カルマも危機感を覚えるようになった。


 ティリアが目に見えて変わり始めたのはあの頃だ――


(しかしアイツ何時まで傭兵続けるんだろうな?)


 ふとそんな事を考えた。

 もう復讐は終わっている。

 自分達に付き合う義理はない。

 にも関わらずいるのは何でだろうか?


 カルマには分からなかった。



 ティリアにとって傭兵団は居心地の良い場所。

 そして第二の家族とも言える人達である。


 その繋がりが断たれるのが恐い。


 だからティリアは今も学生を続けながら傭兵として生きている。


 ティリアも思春期の女の子である。


 恥ずかしいからまだ皆には言えなかった。


 何時か胸張って言える日が来る為に、傭兵を続けよう。


 そう思った。


「そうだ、ギャルゲーしよう」


 だが根はオタク。

 ティリアは秋葉原で買いそろえたパーツで組み上げたカスタムPCに向かう。

 何か色々と台無しであった。


   

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