第三十二話「学ラン仮面からの挑戦状」


 学ラン仮面。

 嘗ては天照学園に存在するローカルヒーローだった。

 立派な昆虫の触角が付いたSF風マスク、長い学ラン、ベルト、ズボン、黒いシャツ、銀色のボディプロテクターにライダーブーツにグローブと言う出で立ち。

 デザイアメダルが猛威を震う中、戦い続けた立派なヒーローである。

 原付きで学園中を駆け回り、今日も学園島のために戦い続けている。


 とある建設場にて。


『死ねぇえええええええええええええええ!!』


『ギィイイイイイイイイイイイイイ!!』


 必殺の学ランパンチ。

 相手の胴体を突き破って相手は死ぬ。


『お前も死ねえええええええええええええ!!』


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!』 


 必殺の学ラン後ろ回し蹴り。

 相手の胴体を抉り取る。相手は死ぬ。

 圧倒的な強さでデザイアメダルの怪人を屠る。


『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 狂気に満ちた勝ち鬨の咆哮を挙げる。

 次の獲物を求めて白い原付バイク(カスタム済み、時速六百Km以上でる)に跨がり、獲物を求めて夜の闇に消え――


「待てやコラ」


『ゲェ、揚羽 舞!?』


 その場を立ち去ろうとしたら揚羽 舞に遭遇した。

 変身形態のセイントフェアリーに変身している。


「何がゲェよ? それよりもさっきの戦い何なの?」


『いや、ちょっとこう野性味溢れた戦いをしてみようと思って――』


「知らない人が見たら新手の怪人か何かだったわよ貴方?」


『いや~それ程でも~』


「はあ・・・・・・」


 舞は頭を抱える。

 学ラン仮面は強さは確かで年上なのだが、性格に癖がある。

 一度舞はアーカディアを機能不全に追い込んだ時期があり、その時に組織の伝手で知り合って何度も共闘している中なのだが未だにヤクを決めているかの様な性格には付いていけない時がある。


『つってもよぉ~最近マンネリ気味って言うか~作業ゲーになってるし~こうでもしないとモチベーション保てないのよ』


「そのウザったらしい口調続けてると殴り倒すわよ」


『だから何かこ~面白いイベントとか欲しいわけよ』


「面白いイベントね・・・・・・」


『お前達最近ヒーロー部とかやってんじゃん』


「て言ってもあれはあれで大変よ?」 


『まあ話を聞けって。ほら、部活の一環とかで他のヒーローと戦ってみるのはどうかな? 例えば俺とか俺とか俺とか・・・・・・』


「それが狙いかいオンドレ・・・・・・」


 つまりこの学ラン仮面はリアルバトルをやりたいと言うのだ。


『どうかな? どうかな?』


「まあ部長に話を通すだけ、通してみるわ」


 それでこの場はお開きになった。



 学校の教室での休み時間。

 窓際に持たれかかり、学ラン仮面の事について天野 猛は困った様な表情を浮かべている。


「学ラン仮面かぁ・・・・・・」


「知ってる方なんですか?」  


 と、春歌が語りかけた。

 揚羽 舞経由でヒーロー部の方で挑戦状が来たと話題になり、姫路 凜が速攻で承認したと言う経緯がある。


「うん。何度か共闘した事があるんだけど、とにかくメチャクチャ強いんだよね」


「ど、どれぐらいですか?」


「下手すると僕より、舞先輩より上かも・・・・・・」


「そうなんですか?」


「うん」


 何度か春歌は二人の戦いを見たが十分に強い部類である。

 それでも強いと言われる辺りどれぐらいなのか想像も出来ない。


「後、この機にテレビの取材とかやるらしいから」


「え!? テレビの取材来るんですか!?」


 驚きの声を挙げた。

 視聴率が落ち込み、ネットが普及した今でも何だかんだでテレビの影響力と言う奴は無視出来ない。

 何故だか春歌は緊張してしまう。


「で、で? 何処でやるんですか?」


「ドーム貸し切りだって。ファイズのパラダイスロストでも意識したのかな?」


「は?」


「うんうんこっちの話――」


「?」


 恐らく何かの特撮ネタだろう。

 春歌はあまり気にしないようにした。




 ヒーローウィークリーの人気司会者、増田 美子は張り切っていた。

 メガネのショートのポニーテール。

 薄手の化粧に香水。

 衣装も派手すぎず、目立ちすぎずでバッチリ決めている。


 天照学園の取材許可が降り、遭遇したヒーローに突撃インタビューをこなしたりしていた。

 番組の枠の都合などである程度編集して切り取らなければならないが、どうしても掲載したい場合はそこは許可を取って動画サイトや番組のサイトなどで動画配信すればいい。

 これが結構受けている。 


 そして今日のメインイベントは学ラン仮面VSレヴァイザーである。

 片やローカルヒーロー感が漂うヒーロー。

 もう片方は日本を大震撼させた事件、ブラックスカルの事件で活躍したヒーロー天野 猛である。

 期待しないわけにはいかない。


(ヒーローウィークリー、まさかこんな大ヒットするなんてね)


 この番組初めてもうそろそろ一年近く経過している。

 戦場カメラマンはどんなに危険かは分からないが、少なくとも普通の現場よりかは危険である。

 だが刺激的な現実の映像は視聴者達を、そして増田 美子すら釘付けにした。


 そうして体当たり取材を続けて行くウチにドンドン成果が上がり、そして素直に喜べないがブラックスカルの事件で地位は不動の物となりつつあった。


 だがそんな事よりも彼女はヒーローの姿を。そして一人の情報を取り扱うジャーナリストとしてヒーローを追い求めていた。


 学生時代にセイントフェアリーの存在を知り、それの追っかけを初めて今の自分がいる。


(出来れば天野 猛君にも取材したいところだけど・・・・・・)


 昨今のマスゴミであるまいし、あんまりヒーローのプライベートにつっこむような野暮な真似はしたくない。

 だが上の人間はそれを望んでいる節がある。

 しかし天照学園はマスコミ対策がとても厳しい。

 噂では非人道的な手段すら取るとも言われている。


 これは増田 美子が知る由も無いが、学園長のJOKER影浦のせいであり、彼は国をダメにする理由の大半はマスコミであると見ており、特に日本のマスコミの場合は弁護が出来ない程の所業を幾多も行っている。

 学園経営しながらJOKER影浦はそれを直に見てきたのだ。マスコミが嫌いになるのも当然である。

 今回のテレビの取材もかなり厳正な審査を行った上での許可で万一対応に問題があった場合は報復するつもりでいる。


 そうとは知らずに増田 美子は脳天気に今回のイベントの実況を行う。

 プロレスの興行みたいに複数のヒーロー同士の対決も行われるようであった。

 その中にはヒーロー部やそれ以外の一般のヒーローの姿もあった。


 観客席はバリアフィールドで守られ、万が一流れ弾で~と言う事はない。



☆ 



 学ラン仮面。

 レイ・シュナイダー。 

 金髪のやや野性的な少年。

 高等学校の一年生であり、幅広い方面に顔が効く。


 彼は両親の顔を知らない。


 だがどうしてこの地に辿り着いたかは覚えている。

 第三次世界大戦。

 月と地球との戦争が終わった後、地球の世界情勢は混沌と化し、中東、東南アジアなどの紛争地帯には第三次世界大戦で活躍した兵器やらが流れ込むようになっていた。

 この事態を危惧した大国軍は国連軍を通して武力介入を行い、事態の沈静化を図った。


 そんな時代の紛争地帯でレイ・シュナイダーは地図にも乗ってないような小さな国の孤児院で生まれ育った。

 周りからは神童だ何だと持て囃され、大人と一緒に他の子の面倒を見たりしていた。

 貧しいが楽しい平和な一時だった。


 だがそれもある時、悲劇的な終わりを告げた――


 それからだ。

 力を望むようになったのは。

 アメコミに出て来る様なヒーローの存在を望む様になったのは。


 ――気持ちは分かる。


 ――だがまだまだ広い世界を見るべきだ。


 ――多くを知り、多くを学べ。


 ――肉体的に強くなっても、精神的にも強くなければ意味が無い。その為にもこの学園で学ぶべきだ。


 師匠の、今は異世界にいるらしいシュバルツの言葉が頭の中で反芻する。


 確かに強くなった。


 だがただ強くなるだけではダメなのだ。


 精神的にも強くならねば。


 それにまだ、「大量殺人鬼とヒーローの違いとは何なのか?」と言う問いに答えが出ていない。

 その問いに答えられない限り、紛争地帯で平和維持の為に戦う事が出来ない。


 だが天野 星斗博士の息子、そしてブラックスカルの事件解決の功労者である天野 猛と戦う事で何か答えを掴めるかもしれない。


『大舞台でこうして戦うのは初めてだな』


「うん。そうだね」


 満員のスタジアムの中。

 スポーツの試合が出来そうな四角形の広場の中で両者は向き合う。  

 先に行われたヒーロー同士の戦いで観客のボルテージもMAXだ。

 それに合わせて両者とも高揚感が増していく。


「いくよ」


『ああ――』


 ゴングがなり、そして二人はぶつかり合う。


『波動百烈拳!!』


「レヴァイザーナックル!!」


 お互い距離を詰めてエネルギーの拳を纏ったラッシュが激しくぶつかり合う。

 この瞬間で観客はレヴァイザーと、そして学ラン仮面と言うふざけた名前の戦士の実力も認めた。

 拳と拳がぶつかり合い、火花が飛び散り、両者の大気の壁に風穴が空く。


 やがて両者を引き裂くように爆発が起き、二人とも数十メートル吹き飛んでいたがちゃんと着地している。


『中々やるようになったな』


「伊達に何度も修羅場は潜ってないよ」


『そうみたいだな・・・・・・』


 そして二人は歓声と共に再びぶつかり合う。





 特別席で試合を見ていた春歌は凄いと思った。


 同時に二人とも楽しそうだとも思った。


 そしてふと思った。


 もしかすると猛が求めた物は今が自分が見ている光景ではないのかと。


 何故だか春歌はそう思わずにはいられなかった。



 そして他の面々――天村 志郎と倉崎 稜、ホーク・ウィンドウ、ハヤテも特別席で眺めていた。


 特にホーク・ウィンドウは戦いを前座の試合から全ての戦いを食い入る様に見詰めていた。

 スポーツでもない、殺し合いでもない、矛盾しているかの様な眼前で繰り広げられている激しい戦い。

 倉崎 稜に負け、悪の組織部と言うワケの分からない部活に身を落として最初はこの世の不幸を呪った。


 だが今はそんな気持ちは完全に吹き飛んだ。

 もしも。

 もしも今眼前で行われている様な戦いが出来るのならあえて道化を演じるのも悪くない。


 ホーク・ウィンドウはそう思えてならなかった。



 増田 美子はこの過激な戦いに魅入っていた。

 普通の格闘技とは違う。

 何度か見た、ヒーローと怪人との戦いとも違う。

 ただ純粋に己の力を確かめ合う様に激しくぶつかり合うこの眼前の光景。


 とても十代半ばの少年同士の戦いとは思えない。

 テレビやネットで流せば各方面から苦情が殺到しそうだがそれでも何故だか撮り続けた。 

 魅了されていた。



 そして――JOKER影浦は見詰める。

 次々と芽生えゆく新しい世代の事を想いながら。

 特に嘗て紛争地帯で、家族同然の様に過ごした人々を無くし、怒りに任せて鬼神の如き暴れ回ったレイ・シュナイダーを学園に導いた事が遂この間の事のように感じる。

 真っ直ぐに育って欲しい。

 その願いが少しばかり叶えられたような気がした。 





 戦いは――激しい接戦の末に引き分けと言う形になった。


 それでも、人々はこの結末を大歓声で迎え入れた。


 イベントとしては大成功。


 ヒーローウィークリーも特番でこの戦いを流した。  

 案の定、評価は割れたがそれでも何かを感じ取ってくれたようだ。


「たく――あいつメチャクチャ強くなってやがって――」


 と、レイは学ラン仮面のスーツ姿で天照島の海岸にいた。

 人工物がなく地平線まで海が続いている。

 レイはよくここに足を運ぶ。

 ダメージを引き摺っているが自分の異常体質を考えれば明日にはある程度治るだろうと踏んでいる。


「そだね。猛君メチャクチャ強くなってたね」


 傍には日之上 綾(ひのかみ あや)がいる。

 長い水色髪の髪の毛。

 童顔でやや大きな胸。

 健康的な体付き。

 飛び切り美しいと言うわけでもなく、平凡でもない。

 まるで童話の少女がそのまま大きくなったような印象を受ける。白いワンピースと麦わら帽子、サンダルを身に付けているコーディネートは尚更そんな印象を助長させる。


「ああ。学園長やシュバルツ達も俺や猛達を引っくるめて新しい世代とか呼んで荒事を任せようとか考えてるみたいだし」


「そうなの?」


「間違いない。絶対そう言う腹だぜ。特に学園長はどんだけ長生きしているか分からないけど、長く生き過ぎると後進の育成とかに力が入るらしい」


「つまり期待されてるってこと?」


「たぶんそう言う事だろうな・・・・・・やれやれ」


「私、難しい事はよく分からないけど、レイ君無茶しないでね?」


「ま、程々にな。さて、学園の未来はどうなる事やら・・・・・・」


 そう言ってレイは立ち去る。

 その後を綾は追った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る