第二十八話「例えアナタがどんなに変わってもこの気持ちは変わらない」(*Rー15性描写あり)


 倉崎 稜は今日も宮園 恵理と一緒にいた。


 倉崎 稜。

 外見だけ見れば王子様か美少女か――とんでもなく綺麗な黒髪で華奢な紅の瞳の美少年である。

 同時に強力なヒーローの一人でブラックスカルの最終決戦ではアウティエルと名乗っている、とんでもなく爆乳化した探し人宮園 恵理と合流して多大な戦果を挙げた。


 ブラックスカルの手でジェネシスの襲撃事件から端を発したアーカディアの戦いは終わりになり、解散となった。

 天村 志郎のメンバーは期間は短かったが主に裏方でチームとして活動していた。


 森口 沙耶はヒーロー部に行って、倉崎 稜とハヤテは志郎の元にいた。

 しかし稜はハヤテと余り顔を合わす事はなく、最近は宮園 恵理の相手をする事が多い。


 稜としては悪い気分ではなかった。

 ただ恵理が無理をしていて自分の想像を遥かに超える様な酷い目にあったのは何となく分かった。

 今日も恵理はテキトーに理由を付けて稜を引っ張り回す。


 そうして日が落ち始め、今はカフェのチェーン店にいた。

 お互いドリンクを頼んで賑やかな店内の端側の席にいる。


「あの――何も聞かないの?」


「何がですか?」


「私のあの姿とか、最初の頃は結構聞いてきたじゃない・・・・・・」


 あの姿。

 アウティエルと呼んでいた姿の事だろう。

 確かに驚きはした。

 胸が大きくなって変身時とは言え金髪になったりして――最初は否定したが最近は開き直ってこうして一緒にいる時間を作っている。


「でも応えてくれないじゃないですか」


「それは――そうなんだけど」


「だから待ちます」


「・・・・・・そう」


 何処か悲しげな表情だった。

 同居人の影司から聞くなと言われているが本当にそれで良いのだろうかと思ってしまう。

 だがどんな辛い目にあったのかを言われたくないのは分かっているつもりだ。



 仲間に言われて倉崎 稜と接触してデートを重ねている。

 最初は心は晴れ晴れとしたが段々と我慢が出来なくなっていた。

 性的な欲求の不満。


 この体にされる時に言われた。


 淫乱な雌豚――と。


 その象徴が自分の大きな胸。

 110cm以上ある。

 母乳だって出る。


 何度も何度も体の隅々まで汚された。


 もう二度と稜の前には姿を現さない。


 抱かれてほしくない。


 そう思った。


 だが遠くから眺めているウチに。


 そしてこうして傍にいるウチに組織の復讐心が薄れ、ただただ心の奥底でドス黒い快楽を押し殺しながら付き合っている。


 本当はもう今すぐにでも稜に抱いて欲しい。


 激しい辱めに合って皮肉にもここまで自分の欲求に素直になれた。


 稜が好き、どうしても好きなのだ。


 傍に居たいのだ。


「ごめん、稜――」


「あ、恵理さん、何処へ――」


 気が付けば恵理は涙を流していた。

 走って走って走り続けた。


 そして何時の間にか海が見える場所へと辿り着いた。

 対岸に本州が見える。

 海とは柵で話された沿岸の公園。

 もう夜になりつつある。


「あっ――」


 呆然と潮風に当てられて風景を眺めていたら、何時の間にか稜に後ろから抱きしめられていた。

 大きな乳房に腕が当たり、繊細で華奢な稜の温かい体が自分のやらしい肢体に、そして熱く涙が籠もった艶っぽい吐息が恵理の体に当たっている。


「ごめんなさい。私――私――」


「大丈夫です。僕がいますから。僕がいますから」


「私――もうダメ――稜の事が好き。好きなのに我慢できないの」


「我慢――ですか?」


「うん――だって私達まだ中学生じゃない。だからHしたいなんて――言えるわけなかったのに――なかったのに――」


 ああ、遂に言ってしまった。

 恵理は後悔した。

 稜は何故か自分には従順だ。

 こんな言葉ですら稜なら素直に従うだろう。


「え、エッチ・・・・・・ですか? 僕と――ですか? でも、子供とか出来たら迷惑になりませんか? まだ社会的に不安定な立場ですし、それにその――本当に僕なんかと?」


「うん――」


 恥じらう乙女の様な稜。

 恵理は泣きながら肯定する。


「ずっとこれを我慢してたんですね――気付いてあげられなくてごめんなさい」


「謝らないで――稜が普通なんだから」


「・・・・・・何だかおかしいです。何時もは自分がおかしくて恵理さんが正しくて、何だか今回は逆で――」


 そう何時もは逆。

 稜がおかしい事を言ったりやったりして、恵理がそれを指摘して正す。

 それが二人の日常である筈なのに今回は逆だった。


「うん。ごめんなさい稜。私ちゃんと責任取るから。責任取るから――」


「・・・・・・そう言うのって普通男が言う台詞じゃ」


「五月蠅い五月蠅い!! こう言う時に限って常識ぶって――常識・・・・・・ぶって・・・・・・」


 涙声で必死に訴えながら恵理は力なく言った。

 それからずっと恵理は稜に抱きしめられていた。


 いっその事このまま――。


 そう思いもした。


「だけど――やっぱりまだいい」


「え?」


「本当の気持ちを伝えられて良かった。それでも受け容れてくれたのは知ってた。稜は優しい子だから。だから甘えたくなかったの」


「恵理さん――」


「だけど一度甘え切ったらもうアウティエルになれなくなる。そんな気がするの」


「それは――」


「勝手な思い込みかも知れない。けど我が儘を言わせて稜――何時かその埋め合わせはするから。だから――今はこれで許して――」


 そして恵理は稜に向き合い、間髪入れずに唇を奪った。

 満点の夜空の下。

 ずっとずっと二人は互いの体温を感じ、吐息を感じ、心を唇を通して通わせた。



 恵理は屋敷に戻ると二人のメイドが出迎えてくれた。


「おめでとうございますお嬢様」


「その――今日はお楽しみでしたね、恵理お嬢様」


「マリア、摩耶!? 貴方達もしかして見てたの!?」


 恵理はカーと顔を赤くした。


 金髪メイドのグラマラスな爆乳メイド、マリア。

 そして茶髪のツインテールメイド御守 摩耶が口々にそう言う。

 口振りや態度から察するに遠方から監視していたようだ。


「はい、ようやくキスまで行けましたね。テッキリこのままホテル行きかと思いましたが」


「それは考えたけど流石に止めたわよ!! まだ私達中学生よ!? 中学生なのよ!?」


 マリアのトンでも発言に恵理は中学生である事を反論するが何故だかとても説得力が無かった。


「で、恵理お嬢様? 稜様には説明するんですか? 件の組織の事とかについて」


 空気を切り替えて摩耶が恵理に尋ねる。

 そう言われて恵理も態度を真剣な物に変える。

 少し考え、恵理は結論を下した。  


「稜は私の事が絡むと見境無く暴走する可能性があるから――それにアイツの事もあるし」


「分かりました」


 恵理はアウティエルとして戦闘経験は積んでいる。

 でもまだ、あの白い赤い十字目の鎧の天使――ジーク・フリートに勝てる自信はなかった。

 そして稜は一度そいつに敗北している。


 もし真実を知れば、いやもう何となく勘付いているかもしれないがそれでも自分の事に協力させるわけには行かなかった。


 下手すれば以前の二の舞になる。

 あの光景の繰り返しはみたくない。


「けれどもこれからもこの関係は続けて行くつもりなんでしょう?」


「それは――」


「お母様も喜びますわよきっと」


「そ、そうかしら――」


 マリアに翻弄されながらも恵理は照れくさそうにした。



(あの――稜――もし良かったらこれからもその、こんな私で良ければ付き合ってくれるかしら)


(はい――恵理さんが望むのなら――)


 顔を真っ赤にしながらまるで清楚なお姫様の様な笑みで稜は返す。

 恵理は少しと見とれて顔を真っ赤にした。


(あ、だけど流石に毎日とかはダメよ? ちゃんと稜には稜の生活があるんだし、それに学生の本分だって――そりゃ私を追い掛けてここまで来てくれたのは嬉しいけど――)


(ええと――)


(ともかく、節度ある恋愛するわよ。学生には学生にしか出来ない恋愛とかあるんだし。いいわね?)


(分かりました)


 顔を真っ赤にしながら恵理は言葉を紡ぐ。

 稜は余裕を持ってクスクスと笑っている。


(何がおかしいのよ?)


(いえ、子供っぽいところもあるんですねと思って)


(あ、アンタねえ――)


(でも、そう言う所を含めて好きですよ)


(――ッ!?)


(それと何時か――話してくれるその時まで、ううん、一生話す機会なんてないのかもしれないけど、けど、僕は恵理さんと心の底から一緒に戦える日を待ってますから)


(あ、ちょっと――)


 それが別れ際の最後のやり取りだった。

 夜も老け、稜は元の住居に戻り、すっかり家政婦が板に付いてきた同居人闇乃 影司に一言。


「影司さん、その添い寝は出来なくなったのでご了承下さい」


「あ、うん。今迄が異常だっただけだからね? ・・・・・・何か嬉しい事あった?」


「はい、とても嬉しい事がありました♪」


 とても可愛らしい満面の笑みで稜は答えた。   


「そうか――」


「でも」


「?」


「影司さんも大切なお友達ですから――出来うる限り助けたいです。その気持ちは変わりません」


「ッ!?」


 稜の本来の性別を忘れさせるようなとんでもなく可愛らしい笑みを浮かべる。

 影司は小声で白い美肌の頬を真っ赤にさせながら「ひゃい」としか言いようがなかった。

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