第十七話「自分達に出来る何か」


 物語は一つの結末へと向かって行く。


『クククク!! 想像以上に良い余興になりそうだ!! この学園の命運を決める戦いに相応しい!!』


『クッ!!』


 セントラルタワーの屋上で繰り広げられているブラックスカルと黒いレヴァイザーことマスクコマンダーの戦いは激しさを増していた。


 ブラックスカルは能力を試しながらマスクコマンダーを追い詰める。

 一方マスクコマンダーは致命打を避けているが徐々に傷付いていく。

 中々決定打が打てないのだ。


『君の好きにはさせない! 絶対に!』


『ならば足掻いて見せろ!』


 メダルを起動。

 アイス。

 剣を地面に突き立て、氷の氷柱が勢いよく針山を形成しつつ襲い来る。


『ちぃ!!』


 それを黒のレヴァイザーは拳で砕く。

 次にミラージュのメダルの力で分身したブラックスカルが両サイドから跳び蹴りを放ってくる。

 これも回し蹴りで迎撃する。

 両方とも吹き飛び、本体の方はグラビティのメダルの力で難なく着地し、自身の加速能力で攻撃してくる。


『はああああああああ!!』


 目に見えない早さの攻撃を何とか最小限のダメージに抑えながら、攻撃を回避する。


『分かるぞ? 先程、咄嗟に庇ったダメージが残っている事を。今もそのダメージは蓄積されている――やがては倒れるだろう』


『クッ』


 ブラックスカルの言う通りだった。

 黒崎 カイトをどうにか逃したがその時のダメージが体に残っている。

 そして今尚防戦一方だ。


(装置の設置は既に完了している――どうにかして誰かがここに来る時間を稼がねば――)


 ブラックスカルが想像以上にパワーアップしていたのは最大の誤算だった。

 不本意だが他者を頼ると言う一種の賭けに出るしかなかった。

 隙を見て装置を破壊して一旦逃げると言う手もあるが、ブラックスカル相手となるとチャンスは一度だけ。ミスれば勝負を急ぎ、装置を起動させるだろう。


(どうにか持ち堪えたないと――)


 マスクコマンダーは出来うる限り踏み留まる事を決意した。

 この学園にいるヒーロー達を信じて。




 猛達は急いでいた。

 しかし道中で怪人達が一般人を襲ったりして、放っておくわけにも行かず、中々進めない。


「あ、ありがとう――」


「近くの学校に避難して!! そこなら安全だから!!」


「は、はい!」 


 先程からこんな感じのやり取りを何度も続けている。


「猛さん、このままだと――」


「分かってるけど放っておくわにも行かないよ」


 春歌の言いたい事は分かる。

 だけど放っておけなかったのだ。


「分かってますが――」


「ともかく!! 前に進むよ!!」


「は、はい!!」


 二人は進む。

 あえて困難の道だと分かっていてもそっちを選んで進む。


『皆さん聞こえますか?』


「夕映さん?」


「生徒会長の声ですよねこれ?」


 突然声が聞こえた。

 学園中のスピーカーを通してである。

 凛々しい声だ。


『既に――皆様の中にはもうご存じの方もいるでしょう。今迄の怪人騒動、そしてサイエンスエリアで起きた爆発事件の真相、その黒幕、今起きている状況――その全ては既にネットなどを通じて今学園勢体でこの騒ぎ引き起こしている者の手で暴露されました』


「一体何を・・・・・・」


 猛は困惑した。


『もう隠す必要もないでしょう。元凶の一端は学園の理事会の人間も関わっています。そして日本政府が元凶です。ですが、残念ながら今それを批難している場合ではありません』


 確かにその通りではある。

 しかし何を語るつもりなのだろうか?


『今、ヒーロー達や私の友人達がこの事態を終わらせる為に、命を賭けて戦っています。力を持たない私達は何も出来ないのでしょうか?』


 若干涙ぐみながらそう訴えかけた。 


『どんな形でもいいのです。ヒーロー達を、私の友人を助けてください』





 猛達が通っている中学校。

 その全校生徒は皆体育館に避難していた。 


 柊 友香は初めてレヴァイザーと出会った事を思い出す。

 友人の橘 葵と一緒にトラックの怪人に遭遇し、そして葵が怪我をした。

 春歌に助けを求めた。


 そうしないとどうにかなりそうだったからだ。


 そして来てくれた。


 レヴァイザーと一緒に。


 そのレヴァイザ―は天野 猛。

 春歌と親しい仲の少年だった。

 そして春歌もピンク色の戦隊ヒロイン風戦士になって一緒に戦っていた。


 今流れた生徒会長の放送通りならば今も尚戦っているのだろう。


 だけど自分達は無力だ。


 代わりに戦ってやる事は出来ない。


 何が出来るのだろうか?


「友香ちゃん」


「葵ちゃん・・・・・・」


「これ――」


 葵は友香にスマフォを見せた。

 そこには――





 谷川 亮太郎と川島 愛菜はどうにか出島の市街地から脱出出来た。

 現地の警察や天照基地から生き残った自衛隊などと合流して避難誘導を行っている。

 自衛隊も警察も混乱の極地である。


 しかしそれでも生き延びる為に必死に頑張っている。


 今は警察署前で避難活動の手伝いをしていたがそこにも怪人が押し寄せようとしていた。


「ちょっとまだいるの?」


『キリがないが・・・・・・やるしか無いか・・・・・・』


 谷川 亮太郎はニートである。

 体力には自信が無いし、もう本当は限界だ。


 川島 愛菜は現役の女子高生であるが特に運動部に所属していない。

 もうクタクタである。


 他のヒーロー達もこんな修羅場は初めてなのか疲労困憊の状態だった。


「もう良い。君達はよく頑張ってくれた。後は私達の仕事だ」


『ちょっと、死ぬ気ですか?』


「かもな――」 


 制服の警察官達が頼りない拳銃を構えていた。

 自衛隊の隊員達も突撃銃を構えている。


「我々はずっと上からの圧力で見て見ぬ振りを強いられて来た。君達ヒーローを逮捕しろと命令された時もある。だが我々に代わってずっと市民を体を張って助けてくれた。今がその恩を報いる時だ」


「我々自衛隊も一緒だ。これを自衛官として最後の仕事にしようと思う」


 どうやらやるつもりだ。

 言葉は立派だが手や顔は震えている。

 本当は恐いのだ。


『しゃあねえ、トコトン付き合うか――ここで投げ出すのも後味悪いしな』


 眼前にはまだ数え切れない程の敵がゾンビの様な動作をして迫りつつある。

 他のヒーロー達も立ち上がる。


「ねえ、兄ちゃん。何かSNSが凄い事になってる」


『うん?』


 愛菜に促されてSNSに目をやった。


☆ 


 闇乃 影司は黒い新手の昆虫怪人に間違われながらも必死に戦っていた。

 同居人の倉崎 稜は何処にいるか分からないがともかく目に見える範囲で出来る限りの事はした。


 つまり、怪人を素早く倒して行く。

 それだけの行為である。


 しかしキリがない。


 敵は大して強くない。


 動きもゾンビの様に緩慢である。


 だがパワーと物量はあるので油断は大敵である。


 ふと情報収集の為に網膜に写し出していたネットの情報に変化が訪れている事に気付いた。


「これは――」



 倉崎 稜。

 変身形態はダークヒーロー然とした、羽根飾りやバイザーがついたヘルメットを被ったSFチックな漆黒の天使だ。

 紅のエネルギーの羽が体に繋がっておらず、少し離れて背中の中に浮かんでいる。 

 空中に浮かび、高機動力を活かし、禍々しい赤い光の剣を握り、怪人達をまるで雑兵の様に切り捨てていく。


 そして傍には爆乳の、長い金髪の美女が白いタイツにアーマーを身に付けた戦乙女の様なコスチュームを身に纏って一緒に戦ってくれていた。

 顔は青いバイザーに隠れて分からないがとても聞き覚えのある声だ。

 アウティエルと名乗っているが間違いない、あの人だと思った。


『あの――もしかして貴方は――』


「今はそんな事よりも此奴らを片付けていくわよ」


『は、はい――』


「い、言っとくけどアンタと一緒に戦うのは偶然なんだからね!? いい!? 偶然よ!?」


『はあ・・・・・・』


 などと否定してくる。

 一体何故なのだろうか?

 それとも声が似ているだけの別人だろうか?

 金髪でとても胸が大きくなっているし。


 だけど何故だか嬉しさがこみ上げてきてた。


「なに? ちょっと稜? ネットが何かとんでもない事になってるわよ」


『そうなんですか恵理さん?』


「ええそうよ稜・・・・・・」


『・・・・・・やっぱり恵理さんなの?』


「ち、違うし!? 宮園 恵理じゃないし!!」


『やっぱ恵理さ「違うから? 違うからね!?」


 などと夫婦漫才をしつつネットを見た。





『志郎、聞こえてる? 私達まるで最後の希望扱いよ?』


 志郎がバイクを飛ばしている途中。

 別働隊の黒い魔法少女から通信が入ってきた。


『・・・・・・凄い』


 などと忍者がボヤク声まで聞こえた。


『ええ、見ています』


 志郎は笑みを浮かべて返事する。


 今インターネットが凄い事になっている。

 一時的な熱狂ではあるのだろう。

 だが本当に凄い事になっていた。



(志郎も見てるんでしょうねこれ・・・・・・)


 空を飛び、眼前にセントラルタワーを捉えながら舞はネットの情報を眺めていた。

 ずっとセイントフェアリーとして戦ってきた。


 だがセイントフェアリーとして戦うのは正直嫌な事は沢山あった。


 色々と自己嫌悪した事もあった。


 しかし長くヒーロー活動を続けていると良いことはある。


 今ネットで起きている事のように・・・・・・





「これ? 私達の事?」


『見たいです』


 道中戦いながら姫路 凜が通信で三日月 夕映に尋ねた。

 バイザーにはネットの情報が映し出されていた。

 言葉は様々だ。

 動画として流しているのもある。


 だがその想いは一つの言葉に集約される。


「頑張れ」


「負けるなヒーロー」


 と。





 黒崎 カイトは何だかおかしくなった。

 遂最近までずっと復讐の為に戦い続けて来たつもりだったのに。


 何時の間にかヒーローになっていた事実に。


(これでいいんだよな? アサギ?)


 自分の願いは叶った。


 ジェネシスは変人の集団の烙印を押される心配はないだろう。


 ただ平和を願った科学者の集まりとして認められる。  


 その事がまるで自分の事の様に嬉しかった。


(ともかくタワーの屋上に急がないと・・・・・・)





 巳堂 白夜はセントラルタワーに辿り着き、周囲を固めている怪人軍団の波を掻き分けながら進んでいく。

 そんな時に自分が身に纏っているスーツのAIがネットの情報を拾ってきたのだ。


 ヒーロー達の応援メッセージを。


 それを見て白夜は「自分もそのヒーローに入るのかね?」と思った。


「まだいた!!」


「凄い数ですね!」


 やっとレヴァイザーの二人組が来た。

 迷う事無く戦線に飛び込んだ。


『悪いな。手間取っている。手を貸してくれ』


「勿論――春歌ちゃん、合体攻撃やるよ?」


「い、今やるんですか?」


「ここで手間取っていたら手遅れになる!」


「分かりました」


「巳堂さんは僕達の正面から離れていてください!!」


 そして二人は敵の群れから後ろへ飛び引く。

 レヴァイザーが右腕、桜レヴァイザーが左腕を掲げ、空中で互いの手を交差させる。


「「Wレヴァイザーバスター!!」」


 交差した手から光線が放たれた。

 光線が怪人の群れを右から左へと薙ぎ払う。

 セントラルタワーへの入り口が出来た。


『助かった』


「ヒーローは助け合いだよ」


『どっかで聞いた台詞だなそれ。とにかくエレベーターで一気に最上階まで上がるぞ』


「分かった」


「猛さん、あの技ちょっと恥ずかしいですね――」


 と、春歌は顔を赤らめてそんな事を言った。

 猛は「そう?」と笑いながら返す。


『バカ言ってないで行くぞ』


 こうして三人セントラルタワーへと乗り込んだ。 



 柊 友香と橘 葵は体育館を抜け出し、セントラルタワーの方に向いていた。

 他の生徒達も、教師までもが抜け出している。


「届いたかな? 私達のメッセージ」


 不安げに友香が呟く。


「信じましょう、春歌ちゃん達を」 


 そして葵は友香の手をギュッと握りしめる

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