第十話「黒鳥の決意」



 天照学園は円形の人工島と西側に縦長の自然の島とで構成されている。

 天照大橋で本州と繋がっており、本州側の入り口周辺は通称出島と呼ばれている繁華街になっていた。

 その近くにブラックスカルのアジトがある。


 廃工場を勝手に占拠して改造している。

 メダル所持者同士の人間同士の戦いを見世物にしたり、メダルとウォッチをセットで売り捌いたりと言う興業をしていた。


 そこに警察官達が突入する手筈だった。

 だが相手は拳銃どころか軍用の突撃銃すら跳ね返し、個体差によもよるが装甲車ぐらいならひっくり返せる程のパワーになれる無敵のメダルを所持している連中だ。


 端的に言うと全滅した。

 虎の子の短機関銃で武装した特殊部隊も纏めてだ。  

 ただの武装したテロリスト相手なら結果は違っただろうが、個々が圧倒的な戦闘力を持つ集団連中になると話は変わってくる。


『話がある』


 ブラックスカルのリーダームクロは無線機を手に取り、相手のリーダー格と交渉を始めた。 


 その内容は簡単に言えば今迄政府と一緒に行った悪事をネットを通じてと暴露すると言う内容だった。

 その内容に日本を動かすトップ達は押し黙る。


 日本国民は問題ないだろう。

 デモの一つぐらいは起こすかも知れないがそれだけだ。

 問題は海外だ。


 政府がギャングと繋がって学園島を陥れる為に人を怪人化させるメダルを配っていました何て言ったら国民は・・・・・・大半は絶対信じるだろう。

 日本政府は善行も積み重ねて来たが、同じぐらいに悪行の数々を定期的に行ってきた歴史がある。暴動まではいかないかも知れないがデモは起きて支持率は限り無くゼロになり、選挙云々の話ではなくなる。

 責任追及は末端にまで広がり、懲戒免職、良くて左遷人事だ。


 問題は海外の国々だ。

 

 日本は第三次世界大戦――月の王国との独立戦争時での立ち振る舞いなどで未だ国際的に信頼が回復しきっていない。

 そんな御時世にこんな事実を暴露されれば日本の国家の信用は地に落ちるだろう。 


 日本は貿易大国だ。

 信頼が失うと言う事は国家として死に繋がる。


『最後に――』


 ブラックスカルのリーダーは最後にこう締めくくった。


『貴様達も学園島は嫌いだろう? ちなみにこの会話は録音してある』


 こう言われては「はい」としか言えなかった。



 ブラックセイバー。


 黒崎 カイトにとって、ジェネシスの爆発事件は全ての始まりだった。


「ごめんなさい――カイト」


「アサギ!! 死ぬなサキ!!」


「・・・・・・」


「アサギィイイイイイイイイイイイイイ!!」


 あの日、黒崎 カイトが目にしたのは謎の武装集団による襲撃。

 そしてそれを手引きした集団。

 知ってしまったジェネシスが産み出された本当のワケ。


 それが彼の戦う理由だった。


 黒崎 カイトは大学生であるが、現在は専らブラックセイバーを使って怪人退治やジェネシスの遺産を破壊して回っている。


 だがそうでない代物まで溢れかえっており、下手に動けば袋叩きに合うのが落ちだ。


 どうにかして世間にジェネシスの事件の真相を知らせるのが一番効果的なのは分かっているが、そうするとジェネシスで死んだ人の想いを汚す事になる。


 それに・・・・・・最近迷いが生じていた。


 ブラックスカルの様な連中からメダルやウォッチを取り上げるのは別に構わない。


 だがジェネシスの遺産を人々の為に使う人間から取り上げる様な真似をするのはどうなのかと。


 要するに自分の行動に自信が持てなくなったのだ。


「またお前か」


 黒崎 カイトは潮風の匂いと風が当たる、海の見晴らしの良い海岸部である黒い仮面の人物と出会っていた。

 黒尽くめでコートを着ており、常時変身形態だ。

 漆黒のヘルメットやベルト、アーマーなどがレヴァイザーに似ている。


 コードネーム、マスクコマンダー。

 短くコマンダーと呼ばれており、カイトはそう呼んでいる。

 

 コマンダーは度々カイトに接触して助言を与えてくる。

 ブラックセイバーの修理をしてくれるから悪い人間では無いのだろう。


『ブラックスカルが動き出す。それを阻止する為に協力して欲しい』


「チンピラ連中などあの子供達に任せておけば良いだろう」


『そうも言ってられなくなった。今のブラックスカル、正確にはそのリーダーは別の何かになっている。君でも勝てないと思う』


「・・・・・・どう言う意味だ?」


 自分でも勝てない。

 その言葉を聞いて少々プライドが傷付けられた様な気がした。


『言葉の通りの意味だ。以前戦ったレヴァイザー相手にも手こずる様なら尚更だ。ここは大人しく共闘しておけ。死にたくなかったらね』


「・・・・・・そもそもブラックスカルはただのメダルの売人で背後にいる連中に何時切り捨てられてもおかしくない奴だろう。どうしてそこまで警戒している? 叩きつぶそうと思えば何時でも出来る筈だ」 


『既に独断で動いた警察の特殊部隊や警備部の人間が全滅している。今迄の繋がりから得た情報を利用して後ろ盾に利用した連中を逆に脅迫して協力させている。刺客を何度も動かしているようだが返り討ちになっているようだ』


 気にくわないがこの男は嘘は言わない。

 たかがギャング組織だと思っていたがとんでもない事になっているようだ。


『それとこのメダルを見てくれ』


「このメダルは?」


 スッとコートの懐から取り出し仮面の男はメダルを見せる。

 一見すると普通のデザイアメダルだった。


『現在ブラックスカルが配っているメダルだ。ウォッチを使わずに体内と同化する事で怪人化させるタイプだ。明らかに進化している』


「メダルはウォッチを通して変身するんじゃ無かったのか?」


『今迄はね。それに先日、人間が使わずに怪人として誕生させるメダルもブラックスカルのリーダー自らが実験した。そして現在、ブラックスカルは理事会や政府を脅迫してある実験の準備を行っている』


 技術とは日進月歩する物である。

 それにしてはスピードが異常すぎる。

 たかが一ギャング如きが出来るレベルではない。

 明らかに後ろ盾にいる連中が関わっているだろう。


「ブラックスカルは何をするつもりだ?」


『端的に言えば学園を滅ぼすつもりだ』


「学園を滅ぼす?」


 黒崎 カイトはその言葉が信じられなかった。

 天照学園は現在機能不全気味だが下手な国より軍事力はある。


 それに海を挟んだ向こう側には自衛隊の基地もある・・・・・・もっとも学園島と日本は仲が悪いし学園島も半ば独立国家の様に振る舞っている。また日本政府にそんな度胸があるとは思えないし仮にあったとしても何もかも手遅れになった段階でしか動けないだろう。それに相手を考えれば動いたところで死体の山が出来上がるだけである。


『日本政府はブラックスカルに協力姿勢を示している。政府は傘下のフロント企業を動かしてある機械を誕生させている最中た』


「日本政府が?」


『政府からすれば学園島は一番の仮想敵だ。理由はどうあれ弱体化するなら何でもすると言う政治家や官僚は大勢いる』


「ジェネシスの事件もその一つだと言うのか」


『ああ』 


「アサギが死んだのは! いや、アサギだけじゃない! 俺の家族もそんな下らん理由の為に死んだのか!? そもそもジェネシスは何なんだ!? このブラックセイバーだってどう考えても・・・・・・こんな物を密かに作るから狙われたんだろう!」


 掴み掛からん勢いでカイトは捲し立てた。


『・・・・・・君の言う事は何一つ間違ってはいない』


「開き直るな!」


『だが今の君は間違っている。』


「なに?」


『ただやり場のない復讐心をぶつけようとしているだけだ』


「貴様――」


『それに客も来たようだ』 


「!?」


「やあ久し振りだね――カイト君」


 現れたのは白衣の男だった。

 科学者と言うよりもホスト風の茶髪の男だ。

 周りには黒服の男達が身を固めている。


「海堂(かいどう)!!」


『知っていたのか?』


「元ジェネシスの研究員――同時にジェネシスの裏切り者の一人だ」


 目を刃物の様に鋭くさせながら睨み付けた。

 海堂 怜治。

 元ジェネシスの研究員でありながら裏切り者である。


「紹介ご苦労――今日は話しがあって来たんだ」


「話だと?」


「君の目的はジェネシスの遺産を全て消し去りたいんだろ? 僕が奪い去った分も含めて」


「ああ、今お前をこの場で殺せばある程度捗る」


「それは僕にとっても同じ事だ。君は真実に近い位置にいる。目障りに動き回られても鬱陶しいからね。だが想定外の事が起きた。ブラックスカルが想像以上に力を付けてしまった。特にリーダーのムクロは予想を遥かに超える力を身に付けてしまった」


「それで共闘を持ち掛けに来たと言うわけか?」


「僕の意思じゃないよ。クライアントの意思と言う奴さ」


「政府か?」


「ああ。そうだろ榊君?」


 そう言って背広の黒いスーツ姿のメガネの男が黒服の男達の中から現れた。

 良くも悪くもエリート官僚と言うイメージがシックリ来る男だ。


『榊 誠一郎、君まで出て来るとはね』


「ふん、単刀直入に言うぞ。我々に協力しろ」


 コマンダーはその人物を知っているようだ。


「お前のクライアント、随分と頼み方が下手だな」


「その点については同意するよ」


 一方でカイトと海堂――仇同士で珍しく意気投合していた。 


『ブラックスカルが目障りになって来たがそれが出来ないから協力を持ち掛けて来たんだろう。出なければ交渉など持ち掛けて来ない』


「・・・・・・YESかNOかで答えろ」


 コマンダーに腹を探られたくないのか榊は恫喝紛いの返事を求める。


『本来ならば協力するべきだろう。だが協力と隷属の意味の違いを分かっているかどうか怪しい連中と手を組むつもりはない』


「俺も同感だ。大方全てが終わったら俺達から殺してでも変身アイテムを奪い取って行くつもりなんだろう」


 コマンダーとカイトの二人は拒絶の意思を示した。

 海堂は「魂胆見え見えだってさ。どうする?」と榊に指示を求めた。


「どうするもこうするもない。従わないなら力尽くで排除するだけだ。最悪変身システムが無事なら構わん。やれ 


 榊の命令で男達が変身アイテムを装着した。

 一見すると携帯端末だが腹に押し当てるとベルトが巻き付く。

 そして簡素な黒いライダースーツの上に動きを阻害しないように銀色のプロテクターが各所に付いた、簡素なパワードスーツが出来上がった。 

 玩具チックなデザインの銃や短い剣を手に持っている。

 一番の特徴はヘルムだろうか、ヒロイックなデザインで、まるでバイクの仮面の戦士を模している。


「我が国が開発した戦闘様パワードスーツユニット、CAS(キャス)ユニットだ」


「と言っても学園島からパクッた技術を僕の力でやっと完成させたんだけどね」


「貴様――」


 海堂のどちらの味方か分からない態度に榊はギロッと睨み付ける。


「ご託はいい。纏めて叩き潰すだけだ」


 カイトはコートを靡かせた。

 手に何処からともなく手の平サイズの黒鳥型ロボットがCASユニット達を弾き飛ばしながら現れてカイトの手に収まった。


「変身」


 カイトの腹のバックルベルトにその黒鳥型ロボットを装填。

 バックルベルトに収まる形にロボットも変形する。

 そして黒鳥を模した、レヴァイザーを倒した黒き翼の戦士へと姿を変えた。


 CASを身に纏った連中は十人近くいたが押されていた。


『グアアアアアアアアアアア!?』


『馬鹿な!?』


 カイトは空中からの一撃離脱や一方的な射撃攻撃を繰り返すだけで面白いように相手が崩れ落ちていく。

 レヴァイザーは状況に応じてファイトスタイルや武装を変化させるので厄介この上無かったが、こいつらはそこまで強くない。

 恐らく他との連携で相手を倒す構想で開発されたのもあるのだろうと思った。

 装着者も先頭訓練を積んでいると思われているが今回みたいな戦闘の経験は余り無いように感じた。


『ガハッ!?』


『何だこいつは!?』


 悲惨だったのは黒いレヴァイザーを相手にした方だ。

 何度かカイトは彼が戦っている所を見た事があるし、戦った事もある。


 彼はレヴァイザーの様なフォームチェンジはしないが洒落にならない強さだ。 

 CASのスーツの素材が何かは知らないが一撃で吹き飛ばされてKOされる。


 酷い時はヘルメットを砕かれてそのまま倒れたりしていた。体がピクピク動いているから死んではいないのだろう。


 それに相手の銃弾を素手で弾いたりとかもう人間を止めてるとしか思えない。

 中身はサイボーグか何かだろうか?


『ひ、ひぃいいいいいいいいいいいい!?』


 最後に残った一人は上司を残して尻尾を巻いて逃げていった。榊に対する忠誠心やカリスマは無いのか、それとも恐怖に心が折られたか、あるいは両方か。


 榊は「おい、何処に行く! 置いていくな!」と顔を青冷めさせながら部下を置いて逃げたCASを身に纏った男を追い掛けて行った。


 最初の大物感はどこに行ったのやら小悪党染みた姿だった。 


『どうする? やるか?』


 海堂は観戦ムードだった所をカイトから空中から見下ろされる形で声を掛けられた。


「君達がやると言うのならね。キメラシステムやサモンシステムの実験台に丁度いい」


『キメラシステムにサモンシステムだと?』


 この事態を予測していたのかどうやら手札があるらしい。


「一つ良い事を教えてあげよう。サモンシステムは先日ブラックスカルのリーダーが使っていたシステムだ」


『人間を媒介とせずメダルを実体化させるシステム――』


 海堂の説明にコマンダーは補足するように付け足した。


「その通りだ黒いレヴァイザー君。ブラックスカルが現在日本政府に協力させて準備させているマシンはサモンシステムを広範囲に渡って発動させるシステムだ。ここまで言えばブラックスカルが何をやらかすつもりかは分かるんじゃ無いかな?」


『まさか――』


 黒崎 カイトも想像が付いた。


『予め学園中にメダルをばら蒔いておき、そのシステムを作動させる』


『正気じゃ無い――』


「その通り正気じゃ無い。そもそも今のブラックスカルのリーダーは以前のムクロじゃない。メダルに意思を乗っ取られている」


 その真実にさしものカイトは耳を疑った。


『なに!? メダルに自我が芽生えたとでも言うのか!?』


「あくまで想像だけどね」と前置きして海堂は持論を語った。


「でなければたかが日本のギャング組織のヘッドがここまで大きく立ち回れるとも思えないし、武術を習った経験もない奴の異常な戦闘能力も説明が付かない」


『だとしても狂っている・・・・・・』


「大方新人類として君臨するつもりじゃ無いかな? アメリカの有名な映画で機械が反乱を起こす奴があるじゃない。それのメダル版ってところじゃないかな?」


 そこまで聞いてカイトは黒いレヴァイザーに怒りの矛先を向けた。


『おい、貴様――これがジェネシスの望んだ未来か!? こんな事態を招く為にジェネシスは研究していたのか!?』


「カイト君。彼を責めないでやってくれたまえ。少なくとも今回の事態は完全な想定外って奴さ――」


『想定外だと!? ふざけるな!? 大体貴様が手引きしなければ――』


「正確には手引きした人間の一人だけどね。裏切り者は他にもいるんだよ」


『だが貴様が裏切り者である事には変わりない!』


「なら戦うかい?」


『当たり前だ!』


 一気に一色即発の空気となった。


「ふうヤレヤレ。まあ、こうなると思って僕も一人で来たわけじゃ無いし――」


『何!?』


『・・・・・・どうやらここは手を引いた方が良さそうだ』


 カイトがコマンダーに目をやり、次にコマンダーの視線を追う。

 そこには何時の間にか大勢の人間が集まっていた。


 まずバックルベルト方式の、黄金のメダルを装填した三人の戦士。


 鞭を持ったヘビ。

 剣と盾を持ち、マントを靡かせた騎士。

 西部劇に出て来そうな二丁拳銃のガンマン。


 ボディラインから女性も混じっている。

 ヘビがそうであり、目元は幾つもの横のスリットが入ったマスクが装着されていた。


 一際目立つのが三人の戦士に並び立つ長い水色髪で抜群のボディを誇る長身の女性で体のラインが浮き出て肌の露出がある扇情的な白いハイレグパワードスーツを装着し、肩にプロテクター、足にグリーブ、顔にはバイザーを身に付けているのみだった。

 手には盾と剣が一体化した武器を装着しており、伊達や酔狂で着ているわけではないだろう。


 そして更に色違いのCASを身に纏った集団が現れた。

 具体的にはベーススーツの色が黒から銀になり、プロテクターの色が銀からブラックになっている。反転した感じだ。

 また頭部の形状もライダー風ではなく、レヴァイザーの様なメタルヒーローの風の丸味を帯びた物になっていた。

 武装も銃と剣が一体化した物になっており、恐らく日本政府に提供した物とは違う改良型になっているのだろう。


「相手を交渉のテーブルに乗せる手っ取り早い方法は相手にタダでは済まないと思わせる事だよ」


『と言う事は手を出すつもりは無いと?』


「今のムクロは得体が知れないからね。そもそも君達を倒すつもりならさっきの戦いに乗じてこちら側のメンバーを総動員させれば良かったとは思わないかい?」


『クッ・・・・・・』


 確かに海堂の言う通りである。


「正直言うと此方もまだ手を出すつもりは無いから。勝てたとしてもこっちもタダじゃ済まない。それにこのまま政府の犬に成り下がるのはゴメンだね」


 と、海堂は愚痴を言う。


『気持ちは察するがここは言うとおりにしよう』


『分かった・・・・・・』


 カイトは悔しそうに体を震わせその場を飛んで後にした。

 コマンダーはまるで霧の様にその場から掻き消えた。

 前者はともかく後者の消え方にその場に居合わせた人間は驚いた。


「プロフェッサー御無事ですか?」


「ああ無事さ」


 すぐさま海堂の元に駆け付ける。

 水色髪の白いハイレグパワードスーツを着たダイナマイトボディの女性だった。 


「あの黒いレヴァイザーはどうやって消えたんですか?」


「バトルマンガのキャラみたいに超スピードでその場から消えたんだよ。この学園の連中生身でもあれぐらい出来る人間結構いるから恐いんだよねえ」


「超スピードで・・・・・・」


 女性は余り感情を表に出さないタイプなのか単純に驚いてないのかただ表情変えずに呟くだけだった。


「さて。撤収するよ」


 そうして海堂達は撤収する事にした。



 学園内にある廃工場に戻り、状況を整理した。

 ここは黒崎 カイトが拠点として使っている場所の一つだ。

 大概はここで寝泊まりしている。


(ジェネシスの遺産の全てを破壊する――だがそれだと――)


 その気持ちが段々と揺らいで来ていた。

 それ所か今の状況でやると悪手になるだろう。


「アサギ・・・・・・お前ならこう言う時――」


 どうすれば良い?

 と言いかけた。


 だが答えなど分かり切っている。


 けれども今の気持ちを変えるわけには行かなかった。

 別の事を考える。


(俺は両親やアサギの為に、ジェネシスの妄想を粉砕する為に戦って来た。いるかもどうかも分からない地球外の侵略者の為の対抗手段なんて言う物の為に生涯を捧げて死んだわけじゃないって思いたかった)


 ジェネシスは表向きはパワードスーツなどの平和利用が目的だ。

 だがそれはあくまで表向きで軍事利用もある程度視野に入っていると思っていた。


 しかし実態は予想を超えた物で本気で地球外のいるかもどうかも分からない侵略者打倒の為の研究機関だったのである。

 その事を知ってるのは極僅かの人間だ。


 もしも、ジェネシスの事件の真相が公になり、その目的が世間にバレたらどうなるだろうか?


 カイトには笑い物になるであろう様がありありと見えた。

 ジェネシスその物も憎いし、ジェネシスを壊滅させた奴も憎いが、アサギ達が笑い者となって世間に晒し物にされるのも耐えられなかった。


(アイツらはこの事を知っているのか?)


 ふとあの青いレヴァイザー達の事を思い出し、その事を尋ねてみようと思った。

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