第十一話「道」
巳堂 白夜。
理事会の人間の息子として産まれ、現在高校性である。
であるが、今は違った。
変わらざるおえなかった。
父の巳堂 誠司は野心家だった。
あまり家族同士の会話は無いが、ある時突然「お前が次の学園のトップだ」と真面目な顔で言った。
だがその時点で気付くべきだったかも知れない。
父親の野心と犯そうとした罪に。
罪の始まりは父親に珍しくプレゼントを貰った事から始まる。
変身ヒーロー・・・・・・と言うよりもダークヒーロー然とした白い蛇を模したスーツに変身出来るベルトをプレゼントされた。
それから父親から聞かされた。
父親が犯した罪について。
最初は何を言っているのか分からなかった。
だが段々と理解出来た。
自分の父は己の野心の為に政府と手を組んで学園を売ったのだと。
それから生活は激変した。
学校にも通っていない。
自分はどうすればいいのか分からなかった。
もしも父親の罪が暴露すれば?
そんなの考えるまでもない。
海外の場合は知らないが、日本は犯罪者の縁者は全員犯罪者になる国だ。
例え自分に罪がなくてもだ。
だから隠し通さなければならない。
そうして行き着いた先はブラックスカルだった。
ブラックスカル。
カラーギャングの集団で、スケープゴートとして用意された連中だ。
ヤクザだのマフィアだのじゃないのはただ単純に「子供だから簡単に御せるから」、「天照学園付近で活動してるから」、「メダルの実験台に最適」、「何かあった時に切り捨てるのに困らない」などの理由があった。
その目論見は成功した。
怪人は同時多発的に発生し、学園の評判は落ちた。
その怪人を倒すヒーローと呼ばれる連中が現れたが、何かしらの理由でジェネシスの生き残りが阻止する為に動くのも想定済みだったらしい。
もしそうでなくてもどの道、時間を掛けて体制を整えた政府が学園から奪った技術で対抗策を産み出してヒーローとして降臨し、学園を掌握し、そのあかつきには白夜の父である誠司が学園を変わって支配するつもりだったようだ。
ブラックスカルの連中とは馬が合った。
同じ社会からのはみ出し者同士と言うのもあったかも知れない。
何時しか自分の気を紛らわせるためにブラックスカルに手を貸す事が多くなっていた。
だが想定外が起きた。
ヒーローとしての役割を与えられた連中が想像以上の規模に膨れ上がった事。
そしてブラックスカルが想像以上の驚異になった事だ。
特にブラックスカルはもう暴走していると言っていい。
創設時の頃のブラックスカルを知っているわけではないが、もう普通では無くなっている。
特にリーダーのムクロなどはそうだ。
ムクロはまるで何者かに意識を乗っ取られているかのように豹変している。
現在政府の刺客を撃退し、逆に脅迫、交渉してある機材を開発している。
そして撃退した手下にはにメダルを埋め込んで洗脳下に置き、規模が更に膨れ上がっていた。
ブラックスカルのメンバー達は段々と付いていけなくなった奴が続出した。
リーダーの狂気にあてられて正気に戻ったのだろう。
「普通じゃないぜリーダー」
「だけどよ、ここまで来たら腹括るしかねえんじゃ・・・・・・」
「それでも幾ら何でもヤバすぎる!!」
ブラックスカルのアジトとして使っている倉庫近くの物陰に隠れて構成員達が会話をしている。
ここにいるのは組織を抜けるべきかどうか悩んでいる連中だ。
日に日に多くなっている。
もう既に警察に駆け込んだ連中もいるぐらいだ。
他のグループから吸収された連中はとっくに逃げ出しているが、刺客として怪人を送り込まれたその末路を見たせいで余計に判断力が鈍くなっている。
(・・・・・・俺もそろそろどうするか考えるべきか)
白髪の男、白屋はカジュアルな衣装を身に纏いつつ腕を組みながら切れ長の瞳を閉じ、背を建物を壁に預けて考え込む。
ブラックスカルの犯罪に何度も手助けした。
父親の為でもあり、自分の為でもあるがブラックスカルに仲間意識が芽生えたのもあった。
だが同時に自分達がやらかした事は学園を彷徨いていれば何度も目にする。
腐っても理事会の、それも警備部門の人間である。
その気になれば幾らでも情報は集められた。
ふとメダルを使用した人間のリストやその結末を見た事があった。
正直知らなければ良かったと思っている。
メダルの使用者は大人はともかく、小学生までおり、中には死人が出ているケースもあった。
(ああ、そうか・・・・・・)
そこまで考えて白夜は理解した。
自分はもう引き返せないんだと。
☆
人員を確保出来たアーカディアはそれぞれのチームで動いていた。
大きく分けて三日月 夕映のチーム。
天村 志郎を主戦力とした裏方の部隊だ。
此方は猛や春歌も把握していない構成員がいる。
そして天野 猛や城咲 春歌、揚羽 舞は姫路 凜のチームであり、若葉 佐恵直属の部隊でもある。
「いいんですか若葉さん?」
不安げに猛が呟く。
「まあ偶には息抜きも必要よ」
佐恵は猛達を連れて人で賑わう学園島内の繁華街に来ていた。
皆私服である。
ここのところ戦い通しなため、志郎達とローテンションを組ませているなどで負担を減らすなどの工夫をしていた。
「ところで女性陣は何の話をしてるのかしら?」
「さ、さあ?」
少し離れた後ろで女性陣が何やら長い黒髪の少女、城咲 春歌を挟んで何やら話し込んでいた。
「で? 結局のところどうなの?」
「え、えーと猛くんとはその・・・・・・」
「無理に答えなくてもいいから。凜も悪ノリしない」
などと会話していた。
「ともかく色々話したい事もあるし、今日はゆっくりするわよ」
と佐恵は苦笑交じりに言った。
☆
アーカディアの本部。
そこで天村 志郎のチームは顔合わせが行われていた。
倉崎 稜。
黒髪で紅の瞳の、白い肌で中性的な可愛らしく、そして不思議な雰囲気を纏う、まるで童話に出て来る美少年だった。
体付きも華奢でスタイルも抜群であり、女性と名乗っても信じてしまいそうな雰囲気だ。
二人目は現代を生きる少年忍者、ハヤテ。
此方も中性的な顔立ちと茶色の髪の毛だ。
どことなく倉崎 稜と似たクールな雰囲気を身に纏っている。口数も少ない。
これでもガチの忍者であり、アルバイトの警備員とは比べるのもおごまがしいぐらい役立つ。
中学二年である。
次に黒の魔法使い、森口 沙耶。
知的で大人びた雰囲気を身に纏う少女。
長い緑の髪の毛にメガネを掛け、白衣を羽織っている。
科学者畑の少女で中学二年生ながらも既に天才科学者としての地位を手に入れ、専用のラボまで与えられている。
また天村 志郎と同じく自力で戦闘様のスーツを制作できる程の科学技術を保有している。
ハヤテと共に裏方に回っており、こうしてアーカディアの本部で顔合わせするのは久し振りだ。
そして天村 志郎。
後ろには三日月 夕映が控えている。
「取り合えず今回は顔合わせだけなんですよね?」
稜が手を挙げて質問する。
「ええ、それと新情報とかがありますからそれの整理、姫路 凜さんのチームとシフトで施設の防衛などをこなして貰います」
スラスラと三日月 夕映が答えた。
「それと、親睦を深めるために食事などを用意させて貰いました」
そう言って給士の女性達がトレーと共に食事を運び、テーブルに並べていく。
「あら気前いいわね」
と沙耶が言う。
「これぐらいは当然です――さて、食事の前に少しお話をしましょうか」
そして三日月 夕映は室内のモニターにこれから起こるであろう出来事を語った。
☆
一方猛達もテキトーな百円寿司チェーンに入って説明を受けていた。
姫路 凜は人のシケ(主に若葉 佐恵の)だと思って容赦なく食い散らかしている。
「ブラックスカル――ううん、メダルに乗っ取られたムクロは現在日本政府と交渉してある装置と一緒に学園中にメダルをばら蒔いているわ」
「ある装置って何なんですか?」
皆を代表して春歌が質問した。
「簡単に言えばメダルの状態からそのまま怪人体にする特殊な波を発信する装置よ。それも学園全体に届く範囲でね」
それを聞いて猛と春歌、舞の脳裏に以前のブラックスカルのリーダーと戦った時の事を思い出す。
「あの時、確かブラックスカルのリーダーは実験って行ってたわよね」
何処か悔しげに揚羽 舞はその事を思い出す。
「状況から察するに、メダルから怪人化させる実験だったと考えるべきでしょうね」
一端食べる手を止めて凜が呟く。
「ある程度感づいているとは思うけど念の為に言わせて貰うわね? 筋書きはこうよ――」
若葉 佐恵は語り始めた。
「まず予め広範囲に渡ってメダルを学園中に大量にばらまいて置く。そして怪人化を促す装置を使って実体化させて破壊活動を行う」
「そんな事をして何になるんでしょうか?」
春歌は当然の疑問をぶつける。
「そうね春歌ちゃん・・・・・・少なくとも日本政府はこれを機に学園を支配の為に自分達の息が掛かった連中を駐留させる口実にしようと考えていたみたい。事件の真相は学園島の実験事故として発表するつもりでね」
と、予測交じりに佐恵は答えた。
単純だが恐ろしい計画である。
たかだが国家と学園の下らない争いで利益を得る為に国は何人罪の無い人間を殺すつもりなのだろうか。
そもそも占拠する頃には荒廃しているであろう学園島からどうやって利益を得るつもりなのか?
ただの私怨なのだろうか?
どちらにしろ巻き込まれる無関係な人々はたまったものではない。
「考えていた?」
だが猛は過去形の言葉に疑問を感じた。
「そう――想定外の事態が起きた。想像以上にブラックスカルが力を付けたのよ。それに狡猾だった。今は筋書き通り動いているから本格的に政府がどうこうしないでしょうね」
「どうしてそんな事になったの?」
タマゴ寿司を口に放り込んで舞は尋ねた。
「最初に言ったけどブラックスカルは想定外に強くなり過ぎたのよ。個人単位としても組織としてもね。そして日本政府の裏方として動きつつも彼達は政府の弱味を握った。ジェネシスの爆発事件の真相や一連の怪人騒ぎ、そしてこれから行う最終段階の事も・・・・・・」
「だけどそこまで行ったら政府も物理的に抹消するんじゃない?」
続けて舞は疑問をぶつける。
「それが出来なかったからこんな状況になってるのよ。私としても想定外だったわ――まさか私が研究したチェンジメダルが最悪な形になって成果を出すなんて・・・・・・」
若葉 佐恵はデザイアメダルの原型であるチェンジメダルを研究していた。
元々チェンジメダルは適正が必要であり、メダルが意思を持って適正者を選ぶシステムである。
だがデザイアメダルと名を変え、様々な悲劇を産み出し、多くの犠牲者を産み出し、大量虐殺を招く事態まで追いやってしまった。
挙げ句の果てには子供達を巻き込む事態になった。それを拒む事も出来なかった。
本来ならば死にたい気持ちで一杯だ。
だがせめて責任を取るまでは死ねなかった。
「もしも――もしも逃げるのなら今がチャンスよ――少なくとも学園島の外に出れば安全よ」
「で? 逃げてどうするの?」
若葉 佐恵の台詞を姫路 凜が遮る。
テーブルに頬杖を付いて行儀悪くし、視線も佐恵から逸らしていた。
「私は逃げるのはイヤ、この学園が何だかんだで好きだし、友達も大勢居る。それに相手の理不尽な要求を受け容れるのなんて気に入らないわ」
それに舞が続いた。
「私も同感。アーカディアを抜けてでも何かしらの落とし前は付けさせるわ。猛も同じ気持ちでしょ?」
凜も同じく本音を語る。
「うん。僕も戦う。正直に言うとね、正義がどうこうとかじゃない。復讐の気持ちの方が大きい。多くの無関係な人を巻き込んで許せない。ブラックスカルも、黒幕だった政府も――」
猛も気持ちを吐露した。
「私は――」
「春歌、戦う理由は私達に会わせなくて良いわ。ただ自分の気持ちに正直になって行動しなさい」
「は、はい!」
舞にそう言われて春歌は返事をする。
それぞれの意見を聞いて「はぁ・・・・・・」と若葉 佐恵は深い溜め息をついた。
「じゃあ約束して。命が危なくなったら必ず逃げる事。それだけ守ってくれればもう何も言う事はないわ。それとごめんね。辛気くさい話するつもりじゃ無かったんだけど・・・・・・」
「まあ、世間一般で言えば若葉さんの言う事が正しいんだし・・・・・・別に気に病む事も無いわよ」
暑い茶を啜りながら舞がフォローを入れて。
「そうよね。女子中学生が平和の為に怪人と戦うとか漫画かよって感じよね」
凜が笑いながら言った。
「そうね。じゃあ気を取り直して頂きましょうか?」
その一言で若葉 佐恵達は本来の目的である休暇に戻るのであった。
☆
学園島には普段住んでいる人工島の他にもう一つ島がある。
天高く聳える世界樹をシンボルとした天然の孤島だ。
そこに墓がある。
猛と春歌が目的の墓に辿り着く頃にはもう夜になっていた。
見晴らしの良い丘に墓石が並べられ近くには海があるせいか潮風が心地よい。
墓は和風ではなく洋風で地面に石碑が埋め込まれている感じの墓だ。
そこには加島家之墓と書かれていた。
目的は天野 猛の同級生であり、命の恩人であり、そしてもうこの世にはいない加島 直人のお墓参りだった。
「急にお墓参りに行くなんてどうしたんですか?」
春歌は猛にそう尋ねた。
視点は墓に向けたままだ。
春歌も猛の話を聞いてから何時か行こうとは思っていた。
しかし真実を知ってから足を運ぶのは虫が良すぎるとも思ったから中々行く決心が付かなかったが、猛と付き合ってやっと行く事相成った。
墓石の前に枯れた花束と買い直した花束が置かれている。
これは定期的に猛が墓参りしていて、その度に枯れた花束などを改宗しているのだ。
他にもケースの箱の中にヒーローグッズなどが置かれていた。
これも全部猛の供え物である。
「ねえ・・・・・・正義の味方って何かな?」
「え?」
「今の時代、完全無欠のヒーローは創作物にだって存在しない。ヒーロー達は悩み苦しみながらも戦って自分の信じる何かの為に戦ってきた。僕は・・・・・・復讐の為じゃないって言えば嘘になる。けど直人君の言葉が今でも忘れられないんだ」
「それは――」
――学校にヒーローはいないと思ってた。けど違った。君はヒーローだった。
以前天野 猛から聞いた、加島 直人の最後の遺言だった。
「確かに一応はヒーローになれたかも知れない。纏めサイトで特集組まれるぐらいだし、何体も怪人を倒した。けどね。たまに恐くなるんだ。僕の夢はテレビに出て来るようなヒーローになる事だった。そしてその夢は叶って、そして無邪気に喜んで、それで・・・・・・こうして定期的に墓参りしないと、何の為に自分は力を振るっているのか忘れそうで恐いんだ・・・・・・」
「猛君・・・・・・」
自分の心情上手く説明できない感じだが、それが返って説得力のような物を与えていた。
どうして自分がヒーローになったのか。
それを一時でも忘れるのが恐いのだろう。
春歌はそう思わずにはいられなかった。
「・・・・・・さてと、そろそろ帰ろっか?」
「は、はい」
そうして二人は後にする。
加島 直人の墓石に爽やかな潮風と海の音が鳴り響く。
まるで二人を祝福するかのように――
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