第七話「黒鳥」

 アーカディアの研究施設。

 天村財閥の施設であるが現在間借りさせて貰っている。

 そこで天村 志郎と若葉 佐恵は今迄回収されたウォッチやメダルを検証していった。


 その中である変化を見つけた。


「先日舞さんが倒したコウモリタイプのウォッチは改良されてますね」


「そうね」


 いじめられっ子の少女がクモ型怪人に変身し、そこに売人らしき男が現れた。

 クモ怪人の女子生徒は運動場でレヴァイザーのフレイムフォームで撃破。

 売人はその時コウモリのメダルで変身し空中へ逃げたが近くの校舎の屋上で舞と接近戦になり、撃破されている。

(*詳しくは第一話参照)        


 問題は売人のウォッチだ。

 メダルには中毒性があるのだがこのウォッチはその中毒性を除去した上で出来るようである。

 それをコウモリメダルを使っていた売人、後の調べでブラックスカルのメンバーと思わしき男が使用していた。


 詳しい事情は分からないがこれでブラックスカルが何かしらの技術力を持った組織と繋がりがあるのが裏付け出来た。


「以前ドラゴンのメダルで変身した男はベルト型で、中毒症状はありませんでしたが・・・・・・」(*第五話参照)


「小型化に成功したのかしら?」


「元々薬物の様にして売り捌く為にそう言う仕様したのか、もしくはそうせざるおえなかったか・・・・・・と言う部分もありますね」


「そうね――」


 二人は議論を重ね、志郎は「とにかく早急にブラックスカルを止める必要がありますね」と結論した。


「それに白いヘビ型スーツの男も気になります」


 ふと志郎はレヴァイザーの前に現れた新手を思い出す。

 見た感じではデザイアメダルとはまた毛色の違うテクノロジーの変身方式を感じ取ったからだ。


「ああ、アレね。レヴァイザーの記録画像で見たけど、アレはジェネシスで開発されていたタイプの変身ベルトよ」


「それもブラックスカルを助ける為に――ジェネシスの裏切り者も関わっていると言う事ですね」


「間違いなくね――」


「我々の戦いも一つの山場ですか――懸賞金も掛けられたようですし」

 

「お互い様ね。私達もメダルとウォッチを回収した人に百万ぐらい出してたし――」


 どう言う訳だか、天村 志郎、揚羽 舞、天野 猛以外にも天照学園にはヒーローが存在する。


 そうした人達を独自のネットワークで探し当て、呼びかけていたのだ。

 その御陰で三人の負担はかなり減った。


 金を出してまで他の人達に退治させるのは色々とどうかと思うが俗っぽい関係の方が案外上手く行ったりするもんである。


「それはそうと本当にごめんなさい。まさか命を本格的に狙われる様になって――それも個人情報がある程度漏れちゃっているみたいだし」


「いえ、覚悟していた事ですよ――暫くは学校には行かない方が無難ですかね? 一応狙われそうな所は監視させてますし」


「助かるわ――」


「いえいえ。他の面々は説得は私に任せてください」


「そう――」


 こんな子供にまた頼ってしまうのか。

 表情に出さない様に務めてはいるものの、若葉 佐恵は再びその感情に苦しめられた。


(天野さんは一体何処に消えたのかしら――)


 こう言う時、あの人がいてくれればと思う。

 今頃一体何処で何をしているのだろうか。


 その時、警報が鳴り響いた。


「警報が!?」


「どうやら出番のようですよ」


 警報が鳴り、アーカディアの面々は出動する。



 現場は学園東部にある商業区の銀行だった。

 怪人に混じってナイフらしき刃物を持ったフリッツヘルムに仮面を付けた特殊部隊の様な外観の連中が暴れ回っている。


 リーダー格と思わしき怪人は大きいシルエットのやはり何処か機械的な外観なブラウンの牛の怪人。二m以上ある。両腕、両足も大きい。


『お金はたんまり頂いた!! ずらかるぜ!!』


 ブラウンの牛の怪人の手にはバッグが複数ぶら下がっている。

 全部大金だ。


『分かりました!!』


『今日はパーティーですね!!』


 などと会話をしながら銀行から出て来る。

 警備部の人間がどうにかしようとするが基礎的な力の差が大き過ぎて太刀打ち出来ない。


 逆に返り討ちにあっていて避難誘導に専念する始末だ。


『待て』


『ん、誰だ?』


 空中から何かが降り立って来た。

 バックルベルトの中央に黒い鳥形のマシンを装着。

 漆黒の鳥を模したヒロイックなスーツを身に纏っている。

 鋭角的なショルダーパッド、戦闘機のウイングの様な背中の羽、両手両足に取り付けられたカギ爪。

 ロボットアニメのライバルキャラを彷彿させる顔のシルエット。


 ヒーローと言うよりダークヒーロー然としている。 


『お前、最近俺達を狩り回っているカラス野郎か!!』


『本当はお前達みたいなチンピラは放って置くつもりだが見逃すのも後味が悪い。倒させてもらうぞ』


『何だと!? テメェらやっちまえ!!』


 リーダー格の牛の怪人の指示で一斉に襲い掛かる。

 しかし突如として現れた黒き鳥の戦士は背中の翼を振り回して周囲を回転して吹き飛ばし、逃れた相手を殴り倒す。

 同じ条件なら相手はただ身体能力があるだけの不良連中でしかない。


『牛島さん! こいつ強いですよ!?』


『どけ! 俺がやる!』


 牛島と言うらしい牛の怪人が飛び込んでくる。しかし黒の鳥の戦士は空中に飛び上がって豪腕を避ける。

 電線だの建物だのを障害物など気にせず飛び回る。

 そして相手の死角からカギ爪の一撃、何度も何度もスピードで翻弄して飛び込み、擦れ違う事に火花が飛ぶ。


 相手の土俵には応じず、何もさせない形で倒そうとした。


『ま、待て――見逃して――』


『フェニックスダイブ』


 相手の命乞いなど無視して、バックルベルトに収まった黒い鳥のガジェットを操作。

 黒い不死鳥の様になり、そのまま相手に飛び込む。

 そのまま爆発しながら吹き飛んだ。

 リーダー格の男は人間態に戻り、まだ無事な部下に引き摺り出されて退散していく。


 黒鳥の戦士はそのウチの一人の首根っこを捕まえて空中に飛び上がった。


『は、離せ、離してくれ!!』


 突然ビルよりも高い空に連れて行かれれば誰だって恐怖する。

 慌てて逃れようとするがそうすると落っこちてしまう。


『懸賞金は誰が賭けているの?』


『だ、誰が教えるか――そんな事したら殺されちまう』


『じゃあ今死ぬか?』


 そうして手を緩めた。 

 今落下すれば例え変身体と言えども死ぬ可能性はある。

 良くて重傷だろう。


『や、やめてくれ!!』


『じゃあ話せ』


『本当に知らないんだ! た、ただメダルを拡散させるのにアンタを含めて邪魔になって来たから――ここいらで掃除しようって話しになった矢先に懸賞金が付けられたんだ!』


『お前を含めてってどう言う事だ?』


『仲間じゃ無かったのか? とにかく一人でも狩れば凄い額の金が手に入るんだ! 正直信じられない話しだがムクロさんが支払うのは天照学園の理事会の人間だって行ってた』


 それを聞いて首を絞める力を強めた。


『誰なんだ!? 言え!?』


『し、知らない!! 本当に知らない! 言っちゃ何だが俺みたいな下っ端が知ってるわけないだろ!? ただ何か天照学園でデカイ山をやらかす下準備らしい!』


『ふん』


 そう言ってゆっくりと下降して適当に放り捨てた。

 放り捨てられた部下は腰を抜かしながらも慌てて立ち去った。


 そして入れ替わりにアーカディアの大型トレーラーが到着する。


『誰だ?』


「君が倒したの?」


 変身した猛が真っ先に飛び出して尋ねる。


『そうだ』


「僕はレヴァイザー。君の名は?」


『・・・・・・ブラックセイバー』


「ブラックセイバー・・・・・・」


 それが変身時の名前らしい。 


『それよりもだ』


「え?」


『俺と戦え』


「な、何でいきなり!?」


 突然の申し出に猛は混乱した。


『俺は許さない。ジェネシスの遺産も、それによって産まれた連中も!! 何もかも全て!!』


「えええ!?」


 狂気の理論に困惑する猛。


『猛君!! その人どうかしてます!!』


 通信越しから訴えかける春歌の言う通りどうかしてると思う。

 恐らく何かしらの理由がある筈だ。


「だけど今は戦わないと!!」


 既に戦いに突入してしまっている。

 接近戦での殴り合いだが友好打が中々出ない。

 出ても直ぐに立て直される。

 お互い相当に戦い馴れている。


「私も戦おうか?」


 舞も出て来る。

 二対一で戦った方が有利に戦えるだろう。


「ううん!! せめて理由を聞くまで――」


『甘い考えだ! 二対一でも構わんぞ!?』


「どうしても戦わないとダメなの!?」


『貴様達が、ジェネシスがあったから俺は全てを失った!! こんな物を開発しなければこんな事にもならなかった!』


「そんなメチャクチャな理由で!?」


『ああ!! ジェネシスを産み出した学園の連中も、あの爆発事件を仕組んだ連中も何もかもが憎い!! 全員探し出して叩きつぶしてやる!!』


「完全に復讐鬼ね・・・・・・見境無くなってるし性質が悪いわ」


 ブラックセイバーの言葉を聞いて舞はそう評した。


「だったらここで止める!!」


『やってみろ!!』


 そしてブラックセイバーの手に剣が握られる。

 レヴァイザーと同じく武器を生成する機能があるのだろう。


「ならこっちも!!」


 そしてレヴァイザーは赤いフレイムフォームになる。

 此方も剣が握られた。


『はあああああああああ!!』


「でやああああああああ!!」


 炎の剣と漆黒の剣が激突する。

 剣道の試合の様に距離を測ったり、相手の呼吸を読んだり、間合いを呼んだりなどのやり取りはしない。


 ただお互い全力でぶつかり合い、防いだり、斬り返したり、斬られても斬り返したりを行う。

 防御力が高い鎧を身に纏っているからこそ出来る殺し合い手前の剣の応酬だった。


『距離を取って猛くん!!』


 あまりの惨状に春歌が悲鳴に近い声をあげる。


「今引いたらジリ貧になる!」 


『ただのガキかと思ったが中々やるな!!』


「君何歳!?」


『態々教えるか!!』


 そして距離を離した。

 空中に飛び上がり、剣を片手に勢いよく空中から斬りかかる。

 それを防いでかわしてを行う。

 徐々にだがブラックセイバーに優勢が傾いてきた。


『どうした!? 避けてばかりか!?』


「ならこれで!!」


『ッ!?』


 緑のレヴァイザー、サイクロンフォームになる。

 手に銃が握られた。


「町中であまり撃ちたくないけど!!」


『ちっ!』


 素早く距離を離す。

 レヴァイザーは近くの建造物の屋上に跳躍。

 手に持った銃から弾丸を発射する。

 しかしブラックセイバーは空を泳ぐ様に飛翔し、射撃から逃れる。


「やっぱり建造物に被害が出るから町中じゃ不利だね――」


 周辺の建物の中で一番高い建造物の上に跳躍し、射撃を続ける。


『こちらにも飛び道具はある!』


 何時の間にかブラックセイバーの左腕に銃が握られていた。

 戦いは互いに銃撃戦になる。

 しかし猛と違い、ブラックセイバーは建造物の被害などお構いなしに銃を乱射する。

 回避する事が容易いが中々反撃できない。


『貰った!!』


「!?」


 そして銃弾を浴び、怯んだ所を狙って再び黒いフェニックスになる。

 勢いよくレヴァイザーに衝突した。


『いやああああああああああああ!? 猛さああああああああん!?』


 春歌の悲鳴が木霊する。


『さあ、次はお前だ・・・・・・』 


 黒煙が立ち上る中、何時の間にか屋上にいた揚羽 舞に向き直る。


「やめときなさい、貴方ボロボロよ――」


 ブラックセイバーは舞が指摘した通りボロボロだった。

 機体の各所からスパークが出ている。

 にも関わらず鼻で笑う。


『あの坊主の仇を討ちたくないのか?』


「まだ生きてるわよ」


『なに!?』


 黒煙の中からレヴァイザーが現れた。

 黄色いレヴァイザー、雷とハンマーを操るライトニングフォーム

 大ダメージを受けているのかハンマーやスーツの各所に破損が見られ、よろめいている。


『猛さん!? 生きてたんですね!?』


「うん。サイクロンフォームでタイミング良く飛び引いて、その後ライトニングフォームでガードしたんだよ。それに相手も殺す気が無かったみたいだし」


『え?』


 理屈はこうだ。

 サイクロンフォームの跳躍力と強化された五感を活かして相手の攻撃がヒットする寸前にバックステップし、最も攻撃力、そして防御力に優れたライトニングフォームでガードしたのだ。

 それでも大ダメージを負ったようだが。


『・・・・・・ちっ、甘さを捨てきれなかったか』


 そしてブラックセイバーは猛に近寄ろうとするが。


「これ以上は私が相手になるわ」


『お前がか?』


 腕を組んで舞が立ちはだかった。


「気付いてないみたいだけど、そんな乱れた殺気じゃ誰も殺せないわよ」


『何?』


「まあ人としてはそっちの方がマシだけど」


『貴様・・・・・・』


 両者睨み合い、緊迫した空気が流れる。

 そして――


『ふん、止めておこう――』


 ブラックセイバーは飛び去って行く。

 それを見届けた舞は猛を介抱した。

 変身を解いて横たわっている。


「大丈夫?」


「うん、負けちゃったね」


「そうね――心配かけたんだから後で春歌に謝っときなさい」


「うん――」


 そうして二人は引き上げて行った。



 アーカディアの施設に戻り、猛は医療カプセル送りになった。

 ブラックセイバーの足取りを追ったがステルス機能も搭載しているらしく、科学的な手段では後を追えなかった。

 その問題の傍ら、若葉 佐恵と天村 志郎はあるスーツの最終調整を行っていた。 


「春歌――決意は変わらないのね」


「ええ」


 夜空の下。


 施設の近くにある、手入れが行き届いた草の絨毯の上。

 海が見えて、気持ちの良い潮風が吹いている。

 舞と春歌は二人は海を眺めながら語り合っていた。


「死ぬかもしれないし、それに猛とケンカするかも知れないわよ?」


「それでも――死なせたくないですから」


「そう――」


 そして春歌は夜空を見上げ、手を広げた。

 眼差しを逸らし、不安や恐怖を押し殺しながら彼女は決意する。

 天野 猛の力になりたいと。     

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