第六話「春歌の決意」
あれから翌日。
世界が変わって見えた。
何気ない日常。
猛と側にいられる毎日。
それが何だかとても愛おしく感じた。
(本気なのね?)
(ええ、自分の気持ちにも気付けましたから――)
そう若葉 佐恵に告げて、春歌はアーカディアに入った。
戦闘に直接参加はしないがサポート要員として頑張るつもりだ。
その為の装備とか資料とか色々渡されている。
勿論、親には内緒にしている。
絶対反対されるだろうと思ったからだ。
ちなみに表向きは警備会社のアルバイト見たいな形になるらしい。
揚羽 舞からは反対されるかと思ったが「後悔しないようにしなさい」とだけ言われた。
☆
病院の個室。
そこで春歌と猛がショッピングモールで気絶していた葵の見舞いに来ていた。
柊 友香もいる。
学校帰りなので三人とも制服姿だ。
幸い命に別状も無くて後遺症も残らず、怪我も残らないそうだ。
それを聞いて三人ともホッとした。
「もしもまた出会えたら是非お礼を言いたいです! 春歌ちゃんは何か知ってますか?」
友香は目を輝かせて出来ればお礼を言いたいとか言っている。
(秘密にしといた方がいいわよね?)
(うん。あんまり人を巻き込みたくないから)
小声で春歌と猛の二人は話し合う。
春歌は――後で聞いた話だが猛達の秘密は少なからず知られているらしい。
デザイアメダルの変身者の中には猛や舞の知人や親友がいて専門の病院などで治療を受けたりしている。中にはもう元の生活に戻っている人間もいた。
その全ての人間に口止めをするのは不可能だ。
だからと言って進んで正体を晒すのは想定外の混乱を招く恐れがある上に、下手に関わりを持って標的にされる恐れがあるので正体を明かすのはやめたほうが無難である。
なので春歌は猛の言う通りにし、「あの、私もよく分からないの――偶然出会ったような物だから」と春歌は無難に答え、「そ、そうなんですか」と、友香はベッドの上の葵の前でガッカリした様子を見せた。
春歌は(誤魔化せたかな?)と思いつつ猛を見た。
猛は何時ものように明るい笑みを浮かべている。
「それでこの後デートするつもり?」
ポツリとベッドの上から葵は呟いた。
「ちょっとそんなつもりは――」
突然の一言に春歌は顔を真っ赤にする。
「でで、デートするんですか?」
「友香も真に受けないで!」
何故か友香は顔を真っ赤にして聞いてくる。
春歌は反射的に否定するが――
「する? デート?」
首を傾げながら猛は尋ねた。
「ちょっと猛君――」
「もう何度もしてるから今更だと思うんだけど」
「それとこれとは話しは――ともかくここから出ますよ」
春歌に腕を引っ張られて病室から立ち去る。
残されたた友香と葵はその様子を見て「仲が良いんだな~」などと思ったりしていた。
☆
病院の外に出て少し歩いた所で春歌は立ち止まり、猛に尋ねた。
「猛君は反対しないんですか?」
「何が?」
「私がアーカディアに入った事」
「本当は反対だけど、僕が今の活動を止めないと春歌も絶対止めないでしょ? アーカディアに入っても入らなくても関わってくると思うから目に届く範囲に居てくれた方が安心するかなって」
「それは誰かに言われたんですか?」
勘に近い物だが――春歌はそう感じたので尋ねてみた。
「うん、志郎さんに言われたの。その通りだなって思った――だけどもうどの道無関係ではいられないから――だから戦うんだ」
(やはり賀島君の事を――)
昨日語ってくれた過去を思い出す。
――最後にこう言われたんだ。学校にヒーローはいないと思ってた。けど違った。君はヒーローだったって。
賀島自分の節穴加減に腹が立つと同時に情けなさが沸き上がる。
どうしてもifを考えてしまう。
そうしたら猛は戦いの宿命から逃れられたのでは無いかと思った。
「ふーん、女の子連れなんだ。中学生なのに進んでるね」
ふいに話し掛けられた。
見た目、高校性ぐらいだろうか?
青い髪の毛の黒装束の青年に立ち塞がられる。
特に印象的なのは服に炎に包まれた黒いドクロのエンブレムが付いている事だろうか。
「アンタだれ?」
「ブラックスカルの海野(うみの)――君凄いね、懸賞金が掛かってるんだよ」
「ちょっと待ってください! 懸賞金って――」
その言葉を聞いて春歌は声を荒らげた。
まだ彼女はアーカディアに関わってから日も経ってないのだ。
事情は理解出来なかった。
「ブラックスカルって言うのはデザイアメダルをばらまいているカラーギャングだよ。最も、何者かの下請けで動いているみたいだけど。懸賞金が賭けられたって事は随分と目を付けられたみたいだね」
猛は春歌に説明した。
海野と名乗った青年は「へえ詳しいじゃん――恐くないの?」と感心したように問い掛ける。
「恐いよ。でも逆に安心した。自分達は真相に近付いているって。で? ここで戦うつもり?」
「当たり前じゃん。倒した証としてそのベルトを持って行けば一生遊んで暮らせる額の大金が手に入るんだ。山分けしても十分お釣りが来る」
「山分け――まさか――」
そうすると他に二人現れた。
ウォッチに銀色のメダルを入れる。
鱗の様な装甲が特徴の、赤い重騎士と銀色の軽騎士と言った感じだが二人ともハサミが付いていて、銀色の軽騎士の方には触角と尻尾が付いている。
海野と名乗った青年もウォッチにメダルを入れた。
ヒレの様なパーツが体の部位に装着されている。特に一番印象的なのはサメを模した凶悪な顔だろうが。
「3、三対一ですか!?」
『そんだけ本気なんだよ!! やれ!!』
そう言って二体が同時に襲い掛かる。
猛は躊躇わず変身した。
周囲から悲鳴が上がり逃げ始める。怪人災害が多発しているので悠長に周囲で観戦を始めようと考える人間はいないみたいだ。逆に都合が良かった。
「若葉さん! 大変です! スグに来てくだ――」
『おっと!』
「きゃあ!?」
春歌は携帯でスグに連絡を入れようとしたが海野が飛び掛かってくる。そして携帯諸共叩かれた。
悲鳴に驚いて。猛は二体をライトニングフォームのハンマーで怪人を火花と共に吹き飛ばして春歌の方を見た。
「春歌ちゃん!!」
『この女が大事か?』
「大事だよ! とても!」
ハンマー片手に飛び掛かって振り下ろそうとするが軽く避けられる。
代わりに膝蹴りが腹に叩き込まれた。
頭を掴んで殴り倒す。
「がはっ!?」
「猛君!?」
『ハハハハ!! こんなもんか!?』
戦いは一気に集団リンチの様相を呈していた。
倒れようとしても殴られる度にレヴァイザーの黄色い装甲から火花が飛び散る。
春歌は見ているだけしか出来なかった。賀島の死を看取った時も今の自分の様な気持ちだったのだろうか。
「逆に聞くけどこんな物なの?」
『なに?』
新たなフォームチェンジ。
緑のレヴァイザーが空中に飛び上がった。
手には玩具の様なデザインの銃を握っている。
まるで機関銃の様に弾丸を上空から三体纏めて放射した。
『アレだけ痛め付けたのにまだ平気なのか!?』
体中から煙を挙げながら海野は叫んだ。
「まあね。運が良かったよ」
正直猛は運が良かったと思っていた。
ライトニングフォームは近接特化のパワータイプのフォームである。
スピードを犠牲にパワーと、そして防御力が高さがウリな為に先程の猛攻に耐えられたのだ。
「猛君!!」
「心配かけてゴメンね春歌ちゃん」
『射撃武器を持ったぐらいで!!』
猛の射撃の猛射に構わず三人とも防御力に任せて飛び込んでくる。
このまま特攻して接近戦に持ち込む腹だ。
「サイクロンフォームの力、見せてあげる」
猛は構わずに何度も何度も撃ち続ける。
ただし上手く回避し、距離を取りながらだ。
怪人化した身体能力の三人なら距離を詰めるのは簡単だ。
だが近付いてもスグに引き剥がされる。
接近戦に持ち込めないのだ。
『ちょこまかと!?』
「三対一なんだからそれぐらいのハンデは許してよ」
『調子に乗るな!!』
そう言って海野は目標を変更。
春歌に飛び掛かろうとする。人質に取るつもりだった。
『さ、先回り!?』
しかし春歌を守るようにレヴァイザーは海野の魔の手を銃で防いでいた。
サイクロンフォームは銃を扱う為だけでなく、五感のうち視覚と聴覚が強化され、そして機動力が基本状態よりも上な高機動戦闘様の形態だ。
そのため、並の相手よりも先回りした高速移動が可能なのである。
「残念だったね。春歌ちゃんは離れていて」
「は、はい!!」
思わずずっと見惚れていた春歌は猛に言われて離れた。
サイクロンフォームの強化された脚力で猛は蹴り飛ばす。
『グハッ!?』
ゴロゴロと数メートル程転がる。
入れ替わりに二体程飛び込むが蜂の巣に去れた。
だが赤い重騎士風のハサミの怪人はそのまま飛び込んで来る。
恐らく防御力に自信があるのだろう。
射撃を止めて猛は銃を確りと構え直す。
銃身にエネルギーが集まっていく。
「サイクロンシューター!!」
そして十分引き寄せた後、銃身に集めたエネルギーを解き放った。
まるで竜巻の様なエネルギー波が解放される。その竜巻は怪人を飲み込み、大気をかき乱し、地面を削り、爆発。
エネルギーの嵐が収まった後には黒装束の男が倒れ伏していた。側には銀色のカニが描かれたメダルが転がっている。
『ちっ、引くぞ!』
海野は慌てて仲間を回収し、メダルを持ってその場を立ち去ろうとする。
「待て!」
『おっと、その場で待って貰うぜ』
猛は追撃しようとするが行く手を遮るようにして新たな敵が現れる。
『お前は――』
『行け』
『あ、ああ――』
新たな敵は海野達を逃げるように促す。
様子を見た感じでは顔見知りのようだった。
「だ、誰!?」
『誰だって良いだろ――困るんだよな。張り切って正義の味方ごっこされちゃあ』
「君もブラックスカルの?」
声や背丈からして自分とそう歳は変わらない様に思えた。
バックルベルトが巻かれていて、バックル部分は横長方形で金でヘビのエンブレムが刻まれている。
白いヘビを連想させる、ダークヒーロー的な格好良さがあるスーツだ。
右手にはコブラを連想させるガントレットが付いている。
『あんなチンピラ集団とは違う。何か裏でコソコソと企んでるみたいだな知ったこっちゃないんだよ』
「なら――」
『だが俺にも立場ってもんがある。今日の所は引かせて貰うぜ』
そして右手のガントレットを向けて黒い煙を吹き出した。
『煙幕!?』
古典的な手段だ。
視界を塞がれては無闇に発砲する訳にはいかない。猛はある程度気配は感じ取れるが一般人かそうでないかの区別までは付かない。それに流れ弾で無関係な人間を巻き込む可能性もある。
毒霧も考えられたがバイザーには毒性が感じ取れない。
本当にただの煙らしい。
「引いてくれたか――」
念の為周囲を探りつつ、猛はアーカディアの面々と合流する事にした。
☆
猛と春歌はアーカディアの基地に戻った。
念の為猛は報告した上で体の治療中だ。
そして春歌はと言うと、昨日猛の過去を聞いた場所、白いエントランスルームのソファーに座り今度は側に舞がいた。
何だかんだで女性同士の方が打ち解け安いのだ。
「結局私、何も出来ませんでした」
「状況聞いた限りじゃ仕方ないわよ」
「でも――」
「あんまり深く思い詰めたダメよ」
「だけど、舞さんは戦えるから――」
「そうよね。見てるだけってのは本当に不安よね。だけどね。大切な人が傷付くのって本当に不安なのよ――」
「分かっているつもりでも、理解出来ないんです――今日なんか猛君一人で三人と戦って――」
「うん」
その時の事を思い出しながらうつむき、春歌は涙を流す。
昨日から本当に泣いてばかりだ。
「私、恐くて何も出来ませんでした」
「昨日今日で強くなれるわけじゃないわ。もし今の自分が嫌なら、強くなりなさい。心も体もね」
「え?」
「側で支えるだけがイヤだって言うなら戦うしかないわ。だけど猛君も今の貴方と同じ気持ちを背負わせる羽目になるわよ」
確かにそうだ。
それが分かっていたから以前は「例え戦わなくても支える事は出来る」と言ったのだ。
その点を指摘されるともう何をどうして良いのやら分からなくなった。
「・・・・・・舞さんはどうなんですか?」
「言わなくてもお互い理解しているわ。だけど、もし違っていて、衝突したら、戦ってでも自分の意思を貫き通すわ」
「そ、それで良いんですか?」
「良いのよ。お互い思う気持ちに最善の形なんて無いから。ただ私達はたぶんこれで良いって思うだけよ」
「強いんですね。羨ましいです・・・・・・」
やはり舞は格好いい憧れの先輩だと春歌は再認識させられた。
「人は誰しも最初から強く何て無いわ。それに強いから良いってわけでもない。なまじ力があるせいで災厄に巻き込まれる事もあるわ。今の私達みたいにね」
「賞金かけられてるんですよね?」
今日の戦い事を思い出して懸賞金と言うワードを出す。
「ええ。そろそろこの戦いも一区切りが近いのかも知れないわね」
賞金を掛けられたと言うのにとても落ち着いている。
内心ではどうかは分からないが少なくとも春歌にはそう見えた。
「ともかく、早まっちゃダメよ? よく考えなさい? いいわね」
「は、はい――」
そう言い残して舞はその場を立ち去る。
(先輩、やはり私は・・・・・・)
残された春歌は心の中である決心を出そうとした。
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