第五話「レヴァイザーサーガ」


 医療用カプセルから出た猛は春歌と二人きりになった。

 もう遅いからアーカディアの施設で泊まっていくつもりだ。


 流石に部屋は相部屋ではない。


 アーカディアの施設は天村財閥の施設を間借りしている状況であり、今いる宿泊施設も天村財閥の施設だ。

 その施設の白いエントランスルームのソファーで猛と春歌は隣同士、座っていた。

 そこで春歌は舞の過去、戦う理由を知った事を猛に話した。


「そうか・・・・・・そこまで聞いたんだ・・・・・・」


「うん。猛君はどうしてなんですか?」


 舞の話を聞き終えて、猛はどうなのだろうかと思った。


「そうだね。始まりはお父さんから貰ったベルトだったんだよ」


 昔から猛は変身ヒーローに憧れていた。

 セイントフェアリーと言う実物が居た分余計にだ。

 だから舞をセイントフェアリーだと知らずに同じ道場に通って体を鍛えていたりしていたのだ。


 何時か自分も変身ヒーローみたいになれると信じて。


 そんなある日――中学生一年の終わりが迫った頃。

 父親からベルトが届けられた。


「何かあったら頼む」と言う走り書きの手紙と共に。


「お父さんはたぶん事件を追っているんだと思う。」


「ジェネシスの爆発事件を?」


「そう。その為に行方を眩ませた」


「だけどどうしてベルトを――」


「分からないけど何となく分かる。お母さんも何だかんだで今の自分を認めてくれたし」


「そうなんですか?」


 普通は子供を危険な所から遠ざけるのが当たり前だと思った。

 だけどそう言う家族関係もあるんだなと春歌は今日何度目かになるか分からない困惑をした。


「キッカケは僕もデザイアメダルかな――当時クラスメイトの子にいたでしょ? 加島 直人君――」


「加島君ですか? まさか彼もデザイアメダルを?」


 その名前を出されてドキッとなる。


「うん・・・・・・加島君って悪い子じゃないけどちょっと変わってて良く分からない部分があったんだよね。趣味は合うんだけど・・・・・・後で知った事だけどイジメられてて、成績も悪いし部活でも人間関係が上手く行かなくて――だからデザイアメダルに手を出してしまったんだと思う」


「デザイアメダルってそんな簡単に手に入る物なんですか?」


 小学生の子供でも使ってしまうような状況だ。

 別に一介の高校性が持っていても不思議では無いが正直言って異常な状況にも思えるがそれでも疑問を感じてしまった。


「今日も倒したけど売人(舞が倒したコウモリ怪人)が売り捌いているんだよ。これも後から知ったけど加島君の場合はいじめられっ子に無理矢理・・・・・・実験台にされたんだね――」


「そんな――」


「だけど加島君は頑張った。崩壊する理性の中でなるべく人に迷惑が掛からないところに逃げ込んだんだ。メールで助けてって行って」


 今日の時と同じだと春歌は既視感を覚えた。


「場所は廃棄された工場だった。その時、僕ベルト持ってなかったんだ――戦う覚悟とか無かったからね。最初は変貌した加島君が恐かったけど――けど守らなきゃって思った」


「私の知らない時にそんな事が――」


 どうして教えてくれなかったのか?

 その理由は分かる。

 けれども教えて欲しかった。

 春歌はただそれだけの事でもまた泣きそうになる。


「だけどそんな時にあいつらが来た」


「あいつら?」


「加島君を苛めてた連中――まるでヒーローごっこ感覚で取り囲んで、加島君を一方的に痛め付けるんだ」


「酷い――」


「僕は必死に止めようとした。だけど無力だった――志郎君達が駆け付けてなかったら死んでたと思う」


「どうして猛君はそんな無茶するんですか・・・・・・」


 自分が知らない間にそんな事あったとは知らなかった。

 とてもとても悲しい気持ちになる。

 また涙が溢れそうになる。


「ごめんなさい」


「謝らないでください。私だって何を言えば良いのか・・・・・・」


 結局また春歌はまた涙が溢れてきてしまった。

 ちゃんと何があっても受け止めようとしたのに。


「どうにかいじめっ子達は倒されたよ。だけど加島君をどうするかで問題になった。その時、僕はデザイアメダルの事をよく理解してなかったから――だから最初、加島君が倒された時はショックだった」


「舞先輩の時と同じ――」


「うん。色々と酷い事を言ったよ。だけどあの二人からすれば偽善者――」


「そんな事はありません!!」


「春歌ちゃん・・・・・・」


「ただ人を大切に思う気持ちがあるから、だから猛さんは、間違ってなんか・・・・・・」


「ありがとう春歌ちゃん」


「猛さん――」


 そう言われただけで春歌は何故か顔が熱くなった。

 心も温かくなった。


「話を戻すよ――本当はこれでめでたし、めでたしで終わる筈だったんだけどね――」


「え?」


「明らかに背の高い大人で明らかに今迄の連中と違う、幹部格が現れた。普通デザイアメダルで変身する時はウォッチを使わなければならないんだけど、その人はベルトにメダルを入れて変身してドラゴンの怪人になったんだ」


「そ、それでどうなったんですか?」


「二人が頑張ってくれてどうにか撃退したけど――その戦いの最中に、加島君は僕を庇って――」


「・・・・・・・・・・・・」


 加島の名前が出た時には覚悟はしていた。

 表向きはイジメによる暴行と言う事で死んだ事になっている。

 だが春歌は猛がそこまで彼に深く関わっていたとは思わなかった。


「最後にこう言われたんだ。学校にヒーローはいないと思ってた。けど違った。君はヒーローだったって」


「それは・・・・・・」


 春歌は加島 直人の事は正直知らなかった。

 だが加島が死んでから一時期猛の様子がおかしかったのは良く覚えている。

 猛が何かしらのショックを感じていたのは分かっていたが、その理由までは分からなかった。

 段々と自分の目は節穴なんじゃ無いかと思い始めてきた。


「そんな資格なんてないって言いたかった。今でも偶にそう思うよ――そこからずっと塞ぎ込んでたでしょ? その時ずっとベルトを握って考えてたんだ。もしもこの力があったらもっと違った結末になったんじゃないかって――」


 もう、何て言えば良いのか分からなかった。涙ばかりが出て上手く言葉が出ない。


「だけどどうにか立ち直って、再びデザイアメダルの事件が起きた」


 猛は何度か遊び半分や力を試す為にレヴァイザーに変身していた。

 しかし戦う為にレヴァイザーに変身したのは初めてだった。

 加島 直人の死に踏ん切りを付ける為に変身した。また会った時に、何時か「学校にヒーローは居るんだよ」って言う為に。


「デザイアメダルを手にしたのは加島君の両親だったんだ」


「え?」


 いじめられっ子達が搬送された病院の前で戦った。

 大切な子供を失った両親との、悲しくて辛い戦いだった。


 春歌の涙腺は決壊した

 デザイアメダルに対する憤り。


 そして人殺しをさせない為に、その業を止めるためにどうして猛がそれを止めなければならないのか。


 あまりにもむごすぎる。


「結果は勝利だったよ――僕の心の中で、一区切りが付いて・・・・・・なのに、何でだろうね? 涙が・・・・・・また・・・・・・」


「猛君・・・・・・」


 ずっと抱え込んで来たんだろう。

 その気持ちがこぼれ落ちてしまったのか、顔を手で覆って泣き始めてしまった。

 どう言葉を投げかけてやればいいのか分からない。

 でもハッキリとした事がある。

 上手く言葉として形に出来ないが、こんな世界に踏み込んで欲しくなかったんだと思う。


「ドラゴンの怪人とも決着は付けた・・・・・・だけどまだ僕の戦いは終わってないんだ・・・・・・」


 そうして二人の間に長い長い沈黙が流れた。



 ――女の子はね、男の子を戦い以外で支えて挙げられるの。私は無理だけど春歌ちゃんにはそれが出来るわ。例えアーカディアに入らなくてもね。


 個室のベッドの中で春歌の頭の中に舞の言葉が反芻する。

 言葉の意味は分かる。

 だけど。

 それでも。


 ――だけど――それが無理だって言うなら手助けぐらいはしてあげられるわ。私の知ってる春歌ちゃんは賢い子だもん。


 春歌はアーカディアに入ろうと思った。

 大切な人の側に居るために――

 それが例え間違っていたとしても――

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