第四話「フェアリーサーガ」
揚羽 舞と天村 志郎は幼稚園時代からの腐れ縁だった。
その頃の舞は女児向けの変身ヒロインアニメに嵌まっていて、将来はあんな風に可愛らしい衣装を着て格好良くて強い女の子になりたいと思っていた。
だから家の道場で馬鹿の様に体を鍛えていた。
そして幸か不幸か天村 志郎は天才と言われる人種だった。
その頃から彼はもう中二病になるべくしてなる宿命の様な物があったかも知れない。
彼は誕生日プレゼントとして色々と女児向けアニメのアイテムをプレゼントしてくれた。
その当時の舞はたまらなく嬉しかった。
その中の一つが「セイントフェアリー」の変身アイテムである。
初めての変身は十歳の頃だった。
最初は力の制御で苦労したがとても喜んだ。
人々の役に立ちたいと言う使命感もあって色々やった。
それでインターネットやテレビで大騒ぎになって有頂天になったりもした。
特に印象的なエピソードは天村 志郎を誘拐から救った事だろう。
それで天村財閥の人に感謝されたと同時に、謝罪され、怒られた事だった。
最初は分からなかったが、子供が危険な事をするんじゃないと言う意味が込められていたのは後になって分かった。
更に歳が経つに連れて、女児向けアニメの女の子よりも今風の女の子に憧れるようになった。
セイントフェアリーに憧れる女子は周りにも増えて喜んだ。
しかし段々と活躍していくウチに周囲から揚羽 舞として見て欲しいと言うジレンマや志郎は自分の事をセイントフェアリーの都合の良い着せ替え人形として見ているのではないかと疑問を感じるようになった。
だから段々とセイントフェアリーであり続ける事に苦しみを感じるようになった。
「そんな悩みがあったんですか・・・・・・」
「ええ。勿論良いこともあったけど・・・・・・段々とそんな悩みを抱えるようになったの。この時点で、ある意味正義の味方としては失格だったかも知れないわね」
そう自嘲しながら話を続ける。
やがて中学に入った頃にはセイントフェアリーの活動を止めて女の子らしさを目指して新体操部に入部した。
別の意味で充実感を得た。
セイントフェアリーとしてではなく、揚羽 舞として見てくれる周囲の目が。
志郎も変わらずに接してくれる事に安心感を得ていた。
「大会にも出たし、本当に平穏な日々だった――だがあのメダルが全てを変えた」
「デザイアメダルが?」
「そう――」
デザイアメダルは誰でも使える強力な力だが人の性格を攻撃的に変える。
当時新体操部の後輩で伸び悩んでいた生徒がいた。
その子がデザイアメダルを使用して暴れ回ったのだ。
「それで再びセイントフェアリーになったんですね?」
「ええ。ブレスレットがまるで意思を持っているのかの様に吸い寄せられて来てね――」
復帰戦の舞台は体育館だった。
だが実際は戦いと言うよりも必死になって、暴れるのを止めようとした。
当時はデザイアメダルの特性を理解していなかった。
その為、舞は暴力で解決手段を見出そうとはしなかった。
「だけど、志郎が来てくれた」
志郎が黒いパワードスーツを着て駆け付けてくれた。
銀の各部プロテクターに金のライン、赤い双眼に昆虫の様な触覚が付いた黒いヘルメット、バックルベルト、黒のベーススーツ。
全体的にヴィジュアル的なデザインだ。
それであっと言う間に怪人化した後輩を倒した。
「最初ね――私は・・・・・・その後輩が志郎に殺されたと思ったの――だから私は無茶苦茶にキレて、アイツに襲いかかったの――」
「それは――」
舞が本気で殺そうとしたのはあの時が初めてだった。
中身が志郎とも知らず、ただ怒りに任せて全力で力を振るって倒した。
「あいつ、何も言い訳しなかった。避けようともしなかった。ただ一方的に殴られて、死ぬかも知れないのに必殺技を受けて――気が付いた時にはもう遅かった・・・・・・正気に戻ったのは倒したのが志郎だって分かった後だった。私はその場から逃げた。わけが分からなかった」
「そんな事が・・・・・・」
壮絶な話だった。
春歌はどう言えば良いのか分からなかった。
「もう死んじゃいたいぐらい悲しかった。ううん、本気で死のうと思った。だけどアイツは――志郎傷付いた体で後輩のアイリを連れて、一緒になって説得してくれたの。だけど私はそれを撥ね除けた」
「それでどうなったんですか?」
「志郎に引っぱたかれた」
「引っぱたかれた?」
「あいつは――志郎はこう言ったわ。セイントフェアリーとしての役割が、責任があるって。そして自分もそれから逃げないって――」
「逃げない――」
その短い志郎の言葉には様々な感情が含まれているであろう事は春歌には容易に想像出来た。
「だけど私はね。強情な女だったの。それでも嫌だって言ったの――」
「・・・・・・」
確かに舞の気持ちは最もだ。
もしも自分が誤解とは言え、猛を殺しかけたら?
もう二度と変身したくなくなる。舞も普通の少女だったの。
「そんな時にまたデザイアメダルの怪人が現れたの。しかもアイリにメダルを渡した奴だった。当時の次期生徒会長候補のお嬢様だった。実験を邪魔されたって怒ってたわ――」
「酷い――」
ただの実験。
それだけで人の人生を平然と狂わせるその感性は春歌には理解し難く、そして恐ろしい物だった。
「私は――変身したわ。格好いい理由なんてない。ただ復讐のために。ケジメのために」
相手はチョウチョ型の怪人で空中戦になった。
ブランクがあったが、負けるわけには行かなかった。
最後は地上戦にもつれ込み、剣同士をぶつけ合って戦った。
「そして倒した――正直このままあの女を殺そうと思ったわ」
「そんな事が・・・・・・」
「だけど志郎やアイリに止められて、教えられた。セイントフェアリーは、揚羽 舞が変身してこそセイントフェアリーでいられるんだって・・・・・・戦いが終わった後、志郎の胸元で馬鹿みたいに泣いて――最後にキスした――」
重たい空気緩和するつもりだったのか舞は恥ずかしげも無くノロケ話を平然と暴露する。
笑ったりそれを恥ずかしい事だと指摘するつもりはなかった。
春歌は知った。
舞は遊び半分で戦っているわけじゃないのだと。
これ以上同じ苦しみを味わって欲しくないから戦っているのだと。
あの怪人と化した小学生を見た後だから分かる。
自然と春歌も涙が溢れていた。
「不思議ね。何度も接しているのに、こうして胸の内を晒すと今迄以上に親近感を感じられるわ」
「そう――ですね――不思議です。私も舞先輩の事、大人っぽい格好いい先輩だと思ってました。だけど何故だか今迄よりもいつも以上に格好いい先輩に見えてきました」
「その歳であの格好は恥ずかしいとか言ったのに?」
「あ、あれは・・・・・・」
先程のやり取りを引っ張り出されて春歌は困ったが舞は笑みを浮かべて「意地悪だったわね」と笑みを浮かべた。
その時春歌はとても舞が輝いて見えてしまっていた。
「後から知ったけど、志郎もね、アイツその場のノリで生きている節があるけど真面目なところもあるのよ――アイツ、自分の手で変身ヒーローを産み出すのが夢だったの。だけどその夢は何者かの手で悪用される形になった。それを阻止する為に半ば親の反対を振り切って戦ってるんだって」
「夢を利用された?」
「若葉 佐恵さんと一緒、極秘研究機関ジェネシスのメンバーなのよ。ジェネシスは超常的な科学力を持った犯罪組織に立ち向かう為に産み出された研究機関でね。その為にアイツ、色々と協力してたのよ。だけど私の動力源であるFストーンはジェネシスにも極秘にしてたから難を逃れたってわけ」
天村 志郎にもそんな過去があったのは初耳だった。
だけどそれで志郎がどうして戦いに参加したのかにも合点が行った。
「じゃあ猛さんは?」
「それは私から話すべき内容じゃないわね」
「そ、そうですよね・・・・・・」
「ねえ春歌ちゃん」
「は、はい」
「女の子はね、男の子を戦い以外で支えて挙げられるの。私は無理だけど春歌ちゃんにはそれが出来るわ。」
「それは・・・・・・」
「だけど――それが無理だって言うなら手助けぐらいはしてあげられるわ。私の知ってる春歌ちゃんは賢い子だもん」
「え?」
「私が言いたい事はこれで全部かな?愚痴だかのろけ話だが何だか分からない話聞いてくれてありがとね」
そう言い残して舞は去って行った。
彼女の言いたい事は分かる。
だが自分に出来るのだろうかと不安が渦巻いた。
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