第三話「真実」


 あの後、猛に不満にぶつけて家に帰った春歌は宿題をこなしつつ、ある日課をこなしていた。


(話題に付いていくためとは言え、何だかしんどいですね)


 城咲 春歌は何時も猛に付きっ切りであるが他にも友達が多い方である。

 家に帰ってもSNSを通してやり取りをする機会が多い。


 今日も宿題を片付け、テレビを見ながらSNSをしている。

 テレビは最近面白く無いと言われているが、やはり話題に挙がるのは何だかんだでテレビの話題なのだ。特に芸能人関連の話題が主流だ。


(だけど最近は怪人だけでなくヒーローの事も話題になってるんですね)


 しかし何事にも例外はある。

 身の回りで起きている事。

 天照学園の怪人の事だろうか。


 話のネタとして使えそうだなと言うより猛との会話に付いていく為に調べていた。

 そして興味本位でもあり、何時しか日課になっていた。


(セイントフェアリーまだ活動していたんだ・・・・・・)


 怪人と同じぐらいヒーローの目撃例は多く、その中にはセイントフェアリーがいる。

 まだ中学生ぐらいの背丈の男の子がヒーローになって戦っている姿も動画サイトにUPロードされていた。

 その戦いの一部始終も、「本当にこんな事が身近で起きているのか?」と信じ難い内容だった。


(それにしても――)


 ふと部屋を見渡してみる。

 女の子らしさに憧れて、一頭身のウサギ型のマスコットであるグモたんのぬいぐるみなどを飾っている。

 しかしそれ以外は本棚にはラノべや漫画、ゲームを少々。デフォルメされたスタイルのロボットのプラモデルが飾られていた。

 一応文学少女らしいそれらしい本を割合的に多く置いてあるがあんまり面白く無かったり、好みに合わなかったりと様々だ。


(私の部屋って普通の部屋なんでしょうか?)


 ちょっと不安になって来る。

 何度か女子を部屋に見せた事があるが特に何ともおかしい様子は思われなかった。

 それよりも猛との関係とかに突っ込まれたりしている。


(そう言えば猛さん――最近何だか変ですね――)


 様子がおかしいと感じた。

 今日は特に顕著だった。

 気のせいかと思うが無理しているように、そんな風に思えた。


(猛君は――)


 ふと窓を見る。窓の向こう側は隣の、猛の部屋の明かりが付いていた。

 それを見て何故だかホッとした。


(あれ? 誰からだろう?)


 スマフォが鳴り響く。

 それを手に取る。

 友人の柊 友香――同じクラスメイトの可愛らしいピンク髪のショートヘアの女の子。

 SNSの、仲の良いグループ同士でしか入れないネットのコミ二ティルームを通して「誰か助けてください」と表示されていた。

「怪人が暴れている」と「逃げようにも身動きが取れない」と色々表示されていた。


 何時の間にか春歌は駆け出していた。

 そして家の前に立つ。

 そこで同時に天野 猛も家の前に出ていた。


「変身」


 特撮ヒーローよろしく猛は青いスーツを着たヒーローへと変身した。遂さっきまで動画サイトで見たヒーローの一人と外見が一致している。

 まさか猛が? と思って驚愕した。

 そうこうしているウチにガレージが開き、青いスクーターがやってくる。


「た、猛君!?」


「え? 春歌ちゃん?」


「これはどう言う事なんですか!?」


「え、と、とにかく行かなくちゃ!!」


「何処へですか!?」


 そう言って春歌は猛を引き留めてスクーターに二人乗りを試みようとする。


「まずよいノーヘルで行くなんて――てか何処に向かうか分かってるの!?」


「学園のショッピングモールに向かうんでしょ!?」


「え? 何処でそれを――」


 殆ど直感で言ったがやはり怪人の所に行くらしいと春歌は思った。

「お願いです! このまま連れてってください!!」



 柊 友香が騒動に巻き込まれたのは偶然だった。

 学園島の東側、商業区で騒動に巻き込まれたのである。

 トラックを人型にしたような外観の怪人がショッピングモールで暴れ回っていた。

 まるで破壊その物が目的のようだ。


 怪我した友達を介抱する為に物陰に隠れて友香逃げ出す様子を伺っている。

 もしもテロリストに遭遇したらと言う過程があるが今が正にそんな状況なんだろう。


(まさか怪人が実在していたなんて・・・・・・)


 テレビで連日報道されている。

 しかし直で見るまで半信半疑だった。

 だが現実に遭遇してみれば、例え特撮物に出て来そうな外観であってもデタラメに振りまく破壊行為は恐ろしい物だった。


 学園の警備部門の人間も圧倒的なパワーの前に為す術無く吹き飛ばされ、まるで歯が立たない。

 逃げ出したいが自分を庇ってくれた友達を放っておけない。

 それに逃げ出すと此方に気付かれそうで恐かった。


「猛君飛ばし過ぎです!! 無免許でしょ!?」


「名前で呼ばないで! それと学園内なら一応特例として許可貰ってますから!」


 ふと、大きな青いスクーターがショッピングモール内を爆走してやって来た。

 ネットで見た事がある青い戦士と、普段着の城咲 春歌がいた。


「止めてください!!」


「わ、分かった!」


 そうしてスクーターは勢いよく急ブレーキし、車体後部を右九十度に回転させて止まった。


「春歌ちゃん!?」


「友香ちゃん!? それに葵ちゃんも!?」


「葵ちゃんは私を庇って――」


 友香は必死になって状況説明しようとした。

 まさかスクーターに乗って来るのは予想外だったが。

 ともかく平静を取り戻す事が出来た。



 猛はトラック型の怪人に目をやる。

 もう一人の揚羽 舞も現場に急行中らしい。あの人の場合、そのまま飛んで向かった方が速いだろうからそうしているだろう。


(今は一刻も争う状態だから早めに決めないと――)


 トラック怪人の外観は胴体がトラック、頭部もトラック。

 両腕両足は四角く角張った昭和のロボットによくあるデザインをしている。

 身の桁3m近くで見るからにパワーファイターと言った感じだ。


『ぐぉおおおおおおおお!!』


 胴体のガラス部分から光線を発車。

 派手に爆発が起きる。


 今のレヴァイザーは青い基本形態で、スピードを活かした攻撃が得意な基本フォームだ。

 少々吹き飛ばされながらも回避した。

 気を付ければ早々当たらないが、周囲にはまだ傷ついた警備部門の人間や避難に遅れた民間人がいる。


 ここから叩き出すなり、直ぐにケリを付けないと傷つく人間が増える一方だ。


(ノーマルのレヴァイザーじゃ無理。フレイムフォームでもたぶんパワー負けする。だったらここは――)


 レヴァイザーのカラーが黄色に変わる。

 バチバチと全身から火花を散らしていた。

 そして大きく角張った、玩具のピコピコハンマーをサイバーチックにした様な外観の、身の桁以上の長さと大きさを誇る大槌を構える。


「うおおおおおおおおおおおおお!!」


 レヴァイザーライトニングフォーム。

 動きがやや鈍くなるがその分パワーや防御力が上がる。

 相手の巨体を活かした拳の一撃を受ける。

 しかし怯まずにハンマーで叩き返す。


『グォオオ!?』


 直撃して相手のボディに火花が散り、凹みが生じる。

 怯んだ隙に何度も叩き付ける。

 ごり押しとも言えるその光景にその場に居合わせた人々は皆息を飲んだ。


「どおおおりゃああああああああああ!!」


 下から振り上げるようにハンマーを振るう。轟音と共に相手の巨体が吹き飛ぶ。

 怪人のボディはボロボロに凹み、軽くスパークを起こしていた。

 だが胴体部のガラスから再び光線を乱射してくる。

 猛はそれを全て受け止めた。


「猛さぁあああああああああああん!?」


 春歌は思わず叫ぶ。

 煙に包まれて見えない。

 だが猛はこの時勝負に出ていた。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


 レヴァイザーはフォームチェンジを解除。

 元の形態に戻る。

 驚異的な脚力、跳躍力で距離を詰め、相手の巨体の肩に飛び乗る。

 そしてジャンプした。ショッピングモールは一部吹き抜けでそれを利用し、上の階まで高く飛べる。


「レヴァイザーキック!!」

 

 落下しつつ蹴りの体勢を取る。

 無限の記号を表すベルトが発光し、蹴りに碧の光が宿る。

 それがボロボロに破壊し尽くされた胴体に直撃。

 爆発が起こった。


(何とかなったね・・・・・・)


 後ろに一回転しながらレヴァイザーはフローリングの床に着地する。

 普通にレヴァイザーキックを放っても弾かれただろうが、ハンマーで大ダメージを負った状態の胴体なら突き破れると思ったのだ。


 だから勝負に出る事も出来た。


 またフォームチェンジはある程度体力を消耗する。

 なるべく性能を活かした戦い方はしたくないと言うのが本音だが、人の命が懸かっているのだ。四の五の言わずに性能を活かして早急に勝負を決めねばならないのが実情である。


 そして巨体の怪人の姿から元の人間対に戻り――


(まさか・・・・・・嘘でしょ?)


 猛は驚愕した。

 倒れていたのは小学生ぐらいのまだ小さな男の子である。

 腕に蒔かれたウォッチの側には砕けたメダルが置かれている。

 こんな危険な代物が小学生にも出回っている状況に猛はショックを受けた。


「そんな――こんな子供があの怪人だったんですか?」


 春歌がおそるおそるやって来る。怪人の正体を知ったせいか驚きで目を見開いている。

 事件に巻き込まれたクラスメイトの友香もショックを受けているのか顔を青くしていた。


「うん、そうみたい――」


 猛は両目を瞑って戦いの終わりを告げる。


 二人はじっとその光景を見詰めていた。



 その後、城咲 春歌は友人達を見送った後に揚羽 舞、天村 志郎、そして若葉 佐恵にアーカディアの事の説明を受けた。


 春歌は自分でも気付いていない様だが猛が絡むと見境が無くなると言うか、人が変わる性格らしい。

 ブリーフィングルームで一通りの説明を受けた後、不満タラタラになって春歌は席に座り込んだ。


「つまり貴方達は学園公認でヒーローごっこやっているわけですね」


「ヒーローごっこって言うか命懸けのやり取りしてるんだけどね」


 春歌の皮肉に舞も皮肉気に返した。


「舞先輩も茶化さないでください!! てか中学三年にもなってあのコスチュームはどうなんですか!? 女児向けアニメじゃあるまいし!!」


「ちょっと春歌、私だって気にしてるのよ!? 出来るならライダー系とかある程度歳食っても許される戦隊スーツとかが良いのに志郎の野郎がこのスーツが良いって言うから・・・・・・」


 二人とも顔を真っ赤にして口論をする。

 その論争に舞は志郎を巻き込んで指を指し、志郎本人は「え? 私のせいですか?」と困惑していた。


 春歌はどう思ったのか「ハァ」とため息をついた。


「ともかくその活動、私も参加させて貰います」

 

 春歌は迷い無く決断した。


「ちょっと散々扱き下ろしておいて参加する気なの?」


「だって猛君が・・・・・・」

 

 舞の言う事も最もなのだがそれでも(猛君が参加しているのなら私だって・・・・・・)と言う気持ちが強くなった。


「言っちゃ悪いけど参加しても足手纏いになるだけじゃ――」


「え、えとそれは――」


 その点を舞に指摘されて春歌は困惑するが――


「二人ともストップ」


 若葉  佐恵がストップした。


「まあ春歌ちゃんの気持ちも受け取って置くけど舞さんの言う通り命懸けだから、参加は認められないわね。だけど今晩猛君の付き添いするなら別に構わないわ。負担が大きくて今メディカルルームで寝ている状態よ」


「負担って・・・・・・」


「戦える力は用意できるけど、貴方に覚悟はある? その辺りしっかり考えて頂戴」


 佐恵の正論にグウの音も出なかった。

 特に――あの数分にも満たなかったが、ショッピングモールでの激しい戦いを直で見た後だと、何も言えなかった。

 春歌は落ち込みながらもメディカルルームへと向かった。



 アーカディアの施設は天村財閥保有の施設である。

 大型トレーラーなども天村財閥の物である。

 そして学園島のスポンサーであり、設立に大きく関わったのも天村財閥である。

 学園島内ではほぼ絶対的権力があると言っていい。

 メディカルルームでは天野 猛が寝ていた。

 培養液などで満たされ、SF物とかに出て来るご都合的な回復カプセルを連想させる。


「入るわよ」


「舞先輩」


 舞が現れた。


「・・・・・・お邪魔だったかしら」


「あの――」


「何?」


「どうして戦ってるんですか?」


 疑問を正直にぶつける。

 

「そうね。デザイアメダルに関わったのが全ての原因ね――ようは復讐かしら」


「復讐?」


 正直、舞のキャラクターをよく知る春歌からすれば想像もつかない話だった。


「ちょっと長い話になるわよ」


「ええ――」


 そうして舞は語り始めた。

 自分がどうしてアーカディアに入ったのかを。

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