第八話「新たなる戦士達」
城咲 春歌は今思いだにしない問題にぶつかっていた。
今更戦いが恐くなったとかそう言うのではない。
ただ単純にどう言う格好で戦うかが問題であるのだ。
自分の容姿は美少女だとは思ってはいないがとんでもない不細工だとは思ってはいない。
いや、それよりも顔出しで戦うのはNGだ。
揚羽 舞のセイントフェアリーのようなヘルメットを付けたセーラー戦士みたいな格好もウーンとなった。
想像しただけで恥ずかしい。
だからって男らしいライダーもどうかと思うし、戦隊系も正直ダサいと思う
一方で本来なら一般人には想像出来ないであろう程に高いスーツをタダで作って貰っている分あーだこーだ言うのは本来なら筋違いである。
逆の立場だったら「そんなに嫌なら自分で創れよ!!」と怒られても仕方が無いと思っている。
しかし一応若葉 佐恵さんや天村 志郎先輩の二人にデザインに付いて要望があったら聞くと言われた。
(ど、どうしましょう?)
そうして考えた末にお任せになった。
「そう。実はある程度、デザインは纏まっているの。変なデザインにはならないと思うわ」
「え? そうなんですか?」
「志郎君も何となく予感はしてたみたい」
との事だったらしく、一晩で完成した。
そうして試しに変身しようかと思った。
アーカディア内の訓練施設。
広いドームの内側の様な空間。
バスケットコート二つ分ぐらいはありそうだ。
(これが私の変身アイテム)
左手にあるハートのブレスレットに目をやる。
セイントフェアリー
日曜の朝方の女児向け変身ヒロインアニメの変身アイテムみたいだ。
そして白いマネキン人形の様なロボットが控えている。
いわゆる怪人役である。
『じゃ、試験を始めるわよ。変身して』
「は、はい」
そうして彼女は変身した――
☆
天野 猛は精密検査中で休み。
天村 志郎と揚羽 舞の両先輩は登校している。
春歌も一応今日は学校に通った後は久し振りに自宅に帰る予定だ。
(良いんですか?)
と志郎に尋ねる。
(大丈夫です。アーカディアは我々だけではありませんから。影ながら自分達と同じスーツを身に纏って護衛に付いている方とかもおりますし)
との事だった。
天村 志郎がそう言うのだから信用して良いだろう。
天照学園の創設には天村財閥が関わっていて、そして代表が理事長でもあり、さらに天村財閥事態が日本や海外の政財界に高い影響力を持っている。
現在起きている事件も特殊過ぎる案件なために民間の手も借りている状況であろうが、そうでなければ例え事件の黒幕に政府が絡んでいても天村財閥単独でも解決出来ただろう。
もしかすると天村財閥は身内すら疑っているかもしれない。
何度も語るがアーカディアは現在起きている事件の始まり、ジェネシスの爆発事件に学園の上層部に裏切り者がいると前提で動いている。
その中に天村財閥の人間が関わっているかも知れないと考えるのは自然な流れかもしれない。
(誰が敵で誰が味方なのやら――)
正直春歌には分からなかった。
つい先日までただの女の子だったのだ。
変身アイテムも渡されたが悪魔で護身用、時間稼ぎ程度と言われた。
(何だか久し振りな気がしますね)
そうして学校の教室に辿り着く。
そもそも懸賞金掛けられている身分で今日学校に来たのは周囲に正体を悟られない為だ。
(自分の例もありますし、これ以上知られるわけには・・・・・・)
春歌の場合、既にレヴァイザーと行動を共にしたと言う目撃例がある。
もう手遅れ感があるが一度顔を出してクラスメイトを安心させるのもあった。
そうする事で正体探しをする為に行動を始めるクラスメイトの活動を抑制するのが最大の目的があった。
学生と言うのは勉強漬けの毎日で何かと刺激に飢えている生き物であるから尚更だ。
「あ、春歌」
「久し振りです~」
とクラスメイト達に温かく迎えられた。
勿論レヴァイザーと、そしてアーカディアと引き合わせる結果を作った二人、柊 友香や橘 葵の二人もいた。
橘 葵はトラックの怪人で負傷して病院で入院していたが退院したらしい。
柊 友香も元気そうだ。
「ふんふーん♪」
「え?」
「ちょっとこの娘借りて行くわね」
「え? え? え?」
唐突に現れた何者かに手を引っ張られた。
とても可愛らしく目鼻立ち整って瞳も大きく、ピンク髪のボブカットのヘアースタイルが特徴的な学生服の美少女。
そこそこ胸のボリュームもある。
無邪気な笑みを浮かべて元気そうに鼻歌を歌いながらかなりの力で引っ張ってゆく。
チャイムが鳴っても気にした様子を見せず構わず外へ出て、そのまま中等部の生徒会にまで案内された。
天照学園では生徒会専用の施設を作るために一つの建築物が作られている。
これは初等部、高等部も同じだ。
ガラス張りで先進感溢れる未来的な建築物、まるでヒーローの秘密基地としても通用しそうな外観でいながらダサくない建築物。
そこに案内された。
「はーい、夕映ちゃん。連れて来たわよ」
「生徒会長!?」
生徒会室に案内された。
他の学校の生徒会室はどうかは知らないがまるでIT会社の社長のオフィスルームの様だった。
壁一面ガラス張りで大きなモニターがあり、来客に対応するためにソファーまである。
そこに待ち構えていたのは長い黒髪の大人びた少女、生徒会長の三日月 夕映が生徒会長の椅子に座っていた。
「ご苦労でした、凜さん」
「いえいえ~」
「凜さん?」
「私は姫路 凜。よろしくね♪」
「こ、こちらこそ。私は城咲 春歌と申します」
ここまで連れて来たピンク髪の少女がピースして名乗った。
「単刀直入に言います。アーカディアの事について教えてください」
「ええ!?」
そして一息付く間もなく三日月 夕映が速攻で話を切り出した。
「私も姫路家の人間として、理事会の役員の娘として現状を把握したいんだよね」
「理事会? まさか姫路さんも理事会の人間なんですか?」
「そう言うこと。だから色々と情報の伝手はあるの♪」
姫路 凜も理事会の人間だという。
「ならどうして私に? 同じ理事会の息子である天村先輩の方が」
春歌はそう意見を述べるが――
「それも考えたんだけど、あの人飄々としているけど意外と頭がキレる所があるし、何考えているか分からない部分があるのよね」
それを聞いて春歌は「成る程~」と思った。
「そうですか? 私はただ欲望に忠実なだけの方だと思うんですが・・・・・・凜さんも大概ですよ?」
と、夕映が凜に苦言を呈した。
苦言を呈された本人は自覚があるのかワザとなのか「え~? そう?」と不満げな顔をしていた。
「そうですよ。ただ面白がって首をツッコミたがってるだけでは?」
その一言を聞いて春歌はどうしようか決まった。
「私帰らせて貰います」
「え? 帰っちゃうの?」
「当然です。私はどうなのかは自分でも良く分かりませんが、少なくともあの人達は真剣に戦っています! ちゃんとした戦う理由もあります!」
猛や舞が明かしてくれた過去を思い出しながらハッキリと述べた。
「やはり知っているのですね」
「・・・・・・みたいだね」
「あ」
しまったと思った。
これでは自分は深く関わっていますと言っている様な物だ。
「その話は是非興味がありますね」
メガネを掛けたスーツ姿の男。
そして用務員らしき男が現れた。
二人とも左手首にはウォッチが捲かれている。
銀色のデザイアメダルが挿入された。
『あまり理事会の人間同士が協力して動かれると迷惑なのですよ』
スーツ姿の男はトゲトゲした鞭を持った、紅色の虫の怪人となった。
用務員の男はクラゲの様な頭部をした水色の怪人となる。
「どうやら私達真相に近づけたみたいね」
「ええ、そうですね・・・・・・」
夕映と凜はとても落ち着いていた。
少なくとも自分よりも度胸はあると春歌は思い、ヒヤヒヤしつつも感心してしまう。
『痛い目に合わせたくはない。一緒に来て貰いますよ?』
「私もスーツぐらいは持ってるのよ」
と、姫路 凜はとんでも事実を暴露する。
『なに?』
「へ?」
そして姫路 凜は変身した。
アンテナが付いたヘッドギア。
ミニスカで肩パッド、コートにプロテクターを随所に設ける。
SFチックな純白の騎士様と言った所だろうか。
格好いい今風のデザインの変身ヒロインだが正体は一気にばれるだろう。
手には剣が握られた。
「ほら、ボサッとしないで貴方も変身しなさい!」
「は、はい!」
そして春歌も慌てて変身した。
左手首のブレスレットを掲げる。
そしてピンク色の、額にハートマークが付いており、てリボンを羽根飾りの様に付け、ヘルメットから黒の長髪を伸ばしたミニスカのレヴァイザーが誕生した。
肩のプロテクターとアーマとが一体化し、装甲が一部オミットされている。
首回りや二の腕と太ももは暗いピンク色のタイツで覆われており、腰回りはベルトもあって、左腰のホルスターには専用の銃が納められている。
ガントレットとグリーブはそれぞれ純白のロンググローブとロングブーツに置き換えられていた。
元となったレヴァイザーはライダーとメタルヒーローの相の子の様な外見だったが、此方は何だかレヴァイザーを戦隊ピンクに、それも番組後半に出て来るような強化フォーム風にした感じになっていた。
「これが春歌さんの変身したお姿・・・・・・」
夕映は戸惑っていた。
対する怪人も同じ反応だ。
『アーカディアと関わりのあるらしい少女が変身するのは想定内でしたが、まさか君まで・・・・・・』
まさかの城咲 春歌の変身はともかく姫路 凜の変身は想定外だったらしい。
「取り合えずあの二体を叩き出すわよ!!」
「は、はい!」
すっかり凜の指示に従って、初の怪人戦に挑んでいる。
羞恥心もあったが取り合えず舞の教え通りクラゲの怪人をぶん殴った。
だが弾み良く、逆に後ろずさる。
「そいつクラゲ型だからたぶん、打撃体制があるのよ!」
SFチックなビームの両刃剣で相手の鞭を弾きながらアドバイスを送る。
成る程と思った。
「だったらこれで!!」
そして銃を取り出したが腕が伸びて鞭の様に銃をはたかれた。
「きゃっ!?」
そしてもう片方の手も伸びる。
次々乱打が繰り出された。
「あ、くっ!! い、いやあ!!」
叩かれる度に殴打の痛みが何度も何度も体を襲った。
これに耐えながら戦っていたのかと春歌は思う。
そして吹き飛ばされ、ガラス張りの生徒会部屋の窓をぶち破る。
生徒会部屋は二階の高さだ。後頭部、背中、両腕、両足に落下した衝撃。そして全身を叩かれた痛みが襲う。
(こんなところで私は負けられない――私は決めたの――猛くんを支えるんだって――)
戦いで猛を支えようなど無謀だと思ったのは何度もある。
しかしその考えを振り払って今ここに立っている。
よろめきながらどうにか立ち上がる。
(しまった・・・・・・)
目に付いたのは攫われようとしている三日月 夕映の姿だった。
「夕映ちゃん!?」
『余所見している暇はあるんですか?』
「クッ」
姫路 凜が助けに行こうとしたが相手をしていて無理だった。
(誰か――)
春歌は周囲をキョロキョロした。
誰か助け・・・・・・
――貴方は何の為に戦っているの?
頭の中で自分の声がした。
春歌は右の平手で頬を打つ。
(助けて貰うんじゃない! 自分が助けるの!)
そして胸部を相手に向けた。
レヴァイザーは胸部の中央に球体の出っ張りが付いている。
アレは未だに何なのか分からないが、この春歌のレヴァイザーはある兵器として起動する。
「ハートバスター!!」
ピンク色の光線が放たれた。
クラゲ怪人に直撃する。
咄嗟に腕でガードしたが大きく後ずさった。
そして一気に二階まで跳躍。
制御をミスって天井ギリギリの高さまで跳躍してしまう。
倒れ伏したクラゲの怪人。
そして戦っている紅色の虫の怪人と姫路 凜の姿があった。
「レヴァイザーパンチ!!」
右手にエネルギーが収束される。
桜色の発光と共に拳がよろめいているクラゲ怪人の胸部に当たった。
吹き飛び、ドアを抜けて廊下側のガラスを破って外へと叩き出される。
次いで大爆発が起きた。
『引き際ですね――』
「逃がすか!」
『こう言う手ならどうですか?』
鞭を春歌に向けた。
足下がふらついていて誰の目から見ても避けられる感じではない。
凜は咄嗟に春歌を庇うように立ちふさがり、相手のムチの攻撃を剣でガードする。
『ははははははは!!』
そして鞭を何度何度も叩き付けて凜を吹き飛ばし、そして後ろにいた春歌と共に倒れ込む。
その隙に紅色の昆虫の怪人は逃げ出した。
ドアを抜け、割れたガラスの窓から飛び降りる。
「ヤレヤレ――何事かと思って来てみればこんな事になっていとは」
『あ、天村 志郎!? 揚羽 舞!?』
外に出ると制服姿の天村 志郎と揚羽 舞の二人がいた。
二人の登場は怪人にとっても想定外だったようで『どうしてここに!?』と皆の気持ちを代弁するように尋ねた。
「新しく誕生した戦士のデビュー戦を見守りに来ました・・・・・・危なかったですが見事に試練を乗り越えたようですね」
「そうね・・・・・・本当に危なかったら手を出すつもりだったけど必要なかったみたいね」
との事だった。
「その割には何度か助けに行こうとしてましたよね?」
「ま、まあね。一応後輩になるわけだし・・・・・・」
志郎の問い掛けに舞は顔を赤くさせる。
何だかんだで面倒見が良くて心配性な先輩なようだ。
「と、ともかく――どっちが戦う?」
舞が照れ隠しするかのように話題を変えた。
「では久々に私が――変身――」
天村 志郎は変身した。
あらかじめ制服の下にバックルベルトを巻いていたのだ。
触覚が付いた赤い双眼の黒き金縁のパワードスーツ、インペリアスは志郎が開発した中でもとても強力な部類のスーツである。
SFチックな銃剣、インペリアスブレイカーを主軸として戦う。遠目から見ればスペースファンタジーな片刃の大剣に見えるが、実際はエネルギーの刃と銃身とが混合している武器で距離を関係なく戦える。
他にも様々な機能を備えているガチ戦闘スーツである。
ちなみに一度揚羽 舞に破壊されたため、(*第四話参照)それまでの戦闘データーをフィードバックした上で改良も加えられている。
『と言っても手負いですから直ぐにカタが付きますけどね』
『舐めるな!!』
戦いは早くも志郎が押している。
付かず離れずの距離で戦い、上手く武器を活用して怪人相手に戦っている。
揚羽 舞とかも大概だが、志郎もまた身体能力、反射神経が常人離れしている。
『ふむ。久し振りですが衰えていませんね』
『クソ――』
インペリアスブレイカーは特に特殊な操作は必要せずに光弾を発射出来る。
強いて言えば剣先を向ける様にして銃口を的に合わせなければならないぐらいか。
時折近接戦闘に持ち込みながら志郎は射撃で狙い撃つ。
相手の鞭も打ち落とし、叩き落としで防ぐ。
戦いは完全に志郎のペースだった。
『グア・・・・・・あ・・・・・・ああ・・・・・・』
怪人の体に徐ダメージは蓄積していき、動きはドンドン鈍くなっていく。
先程まで凜と戦っていた上に志郎との二連戦だ。
体中から火花が出始める程、体に限界が来ていた。
『トドメですよ』
インペリアスブレイカーの側面にあるレバーを回す。
銃剣の刀身部分が発光し、構える。
剣を両手で持ち、グリップを顔の側面に持って来て、左足を前にする。
そして右足、腰、右肩、右腕の順で体を動かすと同時にトリガーを引いた。
『うわああああああ!?』
銃剣から勢いよく放たれた金色の剣型のエネルギーの刀身がそのまま胴体を突き抜けて行き、最後の一人も爆発する。
戦いはほぼ天村 志郎のワンサイドゲームで終わった。
☆
その後春歌は事の顛末を聞かされ、舞に話した。
体中打撲で医療カプセル送りになって今はベッドで横になっている。
傍には本人の希望で猛ではなく、舞がいた。
「初めて戦いました」
「ええ、頑張ったわね」
舞は微笑みを浮かべていたがとても無理して作っている感じがする。
それが何だか春歌にはとても面白く見えた。
「凜さんの指示のまま戦いましたけど、本当は凄く恐かったです――」
「うん。分かる」
「それに・・・・・・本心では猛さんの為だけに戦い続けようと思いました。ですがそれだけじゃダメだって気付かされましたから」
それはクラゲ怪人が生徒会長に迫り来るあの時に気付いた事だった。
「で? どうする? これからも戦い続けるの?」
「正直分からなくなりました。本当に今している事が正しいのか。でも私は戦うつもりです。でなければ猛君を理解する事も止めることも出来ませんから」
「そう。羨ましいわね」
「え?」
不意に舞から出た言葉にキョトンとなる。
「私の場合、自分の意思なんて無いから。ただの贖罪みたいなものね」
「先輩・・・・・・」
春歌は舞の戦う理由は聞いている。
その過程で天村 志郎を殺しかけた事が未だに心の中で突き刺さっているのだろうと思った。
「でも春歌ちゃんの言いたい事も分かる。今の理由で戦って良いのか・・・・・・いや、本当はただ日頃のストレスとかそう言う物を発散させるために戦ってるんじゃ無いかっ、賞賛を浴びたいから戦ってるんじゃないかって思う時とかあるから」
「そう・・・・・・ですか・・・・・・」
「だから私も戦い続けようと思う。たぶん親や大人は反対って言うけど、けどそうしないと春歌ちゃんの言う通りセイントフェアリーとしての自分と、どう向き合えば良いのか分からなくなると思うから」
「私も頑張ります」
「うん。がんばろっか」
そうしてお互い笑い合った。
☆
アーカディアの執務室。
そこで天村志郎、三日月 夕映、姫路 凜の三人が揃っていた。
「で? こうして理事会の子供達が三人集まったわけですが――貴方達もアーカディアに参加すると?」
「当然。私も参加するわ。夕映ちゃんもそうだよね?」
「私もです。戦う事は出来なくても戦場が天照学園である限り、政治的に援助は出来ますから」
「ほうほう――」
概ね参加には一致する構えのようだ。
「取り合えず敵も良い具合に危険視しているみたいだし、そろそろ大きく動くと思う」
「それは私も同じ意見です。理事会で怪しい動きをしている人間も掴めましたし」
姫路 凜の意見に生徒会長の三日月 夕映は賛同する一方で重要な情報を掴んだようだ。
「怪しい動きですか・・・・・・限り無くグレーでありますが巳堂家の人間でしょうか?」
志郎は巳堂の名を出した。
「ま、弱味を握られている可能性もあるから迂闊には断定出来ないけど何かしらの形で関わっていると思うわ」
凜は特に否定せずに巳堂家が黒である事に同意する。
「私も凜さんと同じ意見です。巳堂家は警備部門に影響力を持っています」
と、凜の意見に夕映も肯定する。
「まあそれを言うなら天村家もそうなんだけど――直接的な影響力で言えば警備部門は巳堂家がトップよ」
理事会の中でも巳堂家は警備部門に深く関わっている。
そして圧力が掛けている以上疑うのは当然であるが凜が言う通り何かしらの弱味を握られているだけの可能性もある。
「思ったけどジェネシスの爆発事件が大分時間が経過しているけど調査進んでないの? それともそこにも妨害が入ってるの?」
ふと凜はその点を指摘した。
この一連の騒動の発端となった爆発事件から結構な月日が経過している。
アレだけの大事件だ。
本来ならとっくに何かしらの手掛かりは掴めているのが普通だった。
「ええ、そもそもあの当時の事件の把握するのに大分時間が掛かりましたし平行して消えた研究物の品の行方なども追っていました。そしてアーカディアを創って人選選びに手間暇掛けて、さらに怪人退治などもしていたから情報が中々集める暇が無かったと言う情けない体たらくでして・・・・・・」
「まあその辺は私達も同じよね」
「凜さんに同じく」
権力者の子供とは言え、所詮は子供である。
色々と限界があった。
「若葉 佐恵さんは?」
「あの人は一応体裁的に代表者と言う役割ですが実質研究者としての側面が強いですね。重要な意思決定には私が補佐している感じです」
「だったらいっそアンタが代表になれば?」
と、凜は身も蓋も無い提案をするが。
「私も戦闘要員として回らなければならないぐらいアーカディアは人手不足なモンでして。それに何度も言いますが誰が裏切り者なのか分からない以上人員を増やすと言う選択肢もないわけでして。一時期私が倒された時はアーカディアはほぼ機能停止寸前の状態まで行きましたし」
「ふーん、そんな事があったのね・・・・・・」
激昂した舞に倒された時の事だ。
あの時は本当に大変で、戦えるのは舞や有志の協力者ぐらいだった。
時には現在も裏方に回っている人間すらも戦いに参加した程である。
「で、私から聞きたいんですが凜さんが纏っているスーツはやはり玩具屋の?」
「ああ志郎も知ってるんだあの玩具屋」
「ええ、店主とは顔見知りですよ」
ふと志郎は戦隊レッドの仮面を付けた店主の顔を思い出す。
「霧の玩具屋――学園内に度々登場するヒーロー達も彼に関わりがあると見て間違いないでしょう」
「ですね。あの玩具屋、破格の値段で変身アイテム売り捌いてますし本当になんなんでしょうか」
夕映の意見はこの場の三人の気持ちの総意だ。
霧の玩具屋と言うのは一種の都市伝説で選ばれた人間しか入店する事が出来る秘密の玩具屋だ。
そこでは様々な変身アイテムや武器、乗り物までもが玩具ぐらいの値段で購入出来る22世紀の猫型ロボットが利用している未来デパート並にクレイジーなお店だ。
ただ先にも語った通り入店出来る人間はかなり厳選されており、今の所悪用する人間は出て来ていないらしい。
姫路 凜のスーツはそこで購入された物だろう。
「テッキリ黒の魔法使い辺りから渡された物だとばかり・・・・・・」
「あの子に頼む事も考えたけどね~」
志郎の言葉に凜は目を泳がせる。
「黒の魔法使い?」
夕映は首を捻る。
「あ、夕映ちゃんは知らないか。中等部に志郎と同じぐらいの大天才がいるのよ。その子も変身アイテム創れるの。ただし女の子限定だけどね」
「どうしてですか?」
「その人可愛い女の子が好きな女の子なのよ」
遠回しに凜は「身の危険を感じたから止めておいた」と言う。
「ちなみにその人今アーカディアの裏方にいます」
志郎がそう言って凜は「ゲッ!?」となった。
「そうなんですか・・・・・・こうして聞くと何だか変身アイテムの入手ルートは色々とあるんですね」
確かに本当に色々と方法がある。
改めて考えてみると正直異常な状況だ。
「まあ、ともかく・・・・・・先程凜さんが言った通り敵も大きく動くでしょう」
「一体何を仕掛けてくるのやら・・・・・・」
「やれる事をやるしかないでしょう」
こうして新たな参加者と共にアーカディアは動き出すのであった。
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