エピローグ『きせき』

 10年間についての内容を1日で話したのか。僕は聞いているだけだったけれど、結構充実していた1日だった気がする。

 話してくれた美来は……とても嬉しそうな表情をしていた。この10年間で色々なことがあったけど、それらは全て今に繋がっているので、こういった表情を見せられるのかもしれない。


「智也さん」

「うん?」

「……今、とっても幸せな気分です」


 美来はゆっくりと腕を絡ませてきて、頭を僕の肩に乗せる。そのことで美来の優しい温かさと甘い匂いが感じられる。


「今日、10年分の話をしましたけれど、全てはこの瞬間のためにあったんですね」

「そういう風に言われると、もうすぐ結婚式が始まるみたいだな」

「確かにそんな感じかも。いつか、絶対に結婚式をしましょうね」

「もちろんだよ」


 そのときがいつになるかは分からないけど、そのときは必ずやって来るだろう。


「じゃあ、早く結婚式を挙げられるように、子供はいかがですか?」

「そんなことになったら、大事な高校生活を返上することになるよ。僕は美来にきちんと高校生活や大学生活を送ってほしいんだ。少なくとも高校生活は……」


 まったく、美来は。僕と早く結婚したい気持ちは十分に分かるけれどさ。


「ふふっ、智也さんったら。真面目ですね。でも、いつかは結婚して、私達の子供を作りましょうね」

「まったく、再会した当初は美来がこんなにも変態さんだとは思わなかったよ」


 再会してから最も意外だったことがそれかもしれない。ただ、今日の話を聞いて納得したけれど。数年くらい、僕のことを想像して自分のことを慰めていたそうだから。


「驚きましたか?」

「……うん」

「ふふっ」


 美来は楽しそうに笑って、上目遣いで僕のことを見ながら、


「智也さん。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それともわ・た・し?」


 幸福な3択問題を出してきた。こういう風に訊かれたのも、随分とひさしぶりのような気がするな。美来と付き合うと決めた直後に温泉へ行ったとき以来かな。

 夕ご飯の用意はできていない。

 お風呂の準備もできていない。

 となると、必然的に美来を選ぶことになる。それを見越して美来は僕に訊いてきたのかな。今夜、ゆっくりと営むことを約束したのに。こうなったら、

 

「お風呂で美来と……したいかな」


 以前に美来は自分のことをデザートと言ったくらいだ。今のように答えたっていいだろう? ただ、僕の言った答えの真意が伝わっていなかったら物凄く恥ずかしい。


「智也さん……」


 僕の名前を口にすると、美来の顔は見る見るうちに赤くなっていき、


「もう、智也さんったら。私が想像したよりも斜め上の答えを言ってくださるなんて。今すぐに準備してきますね!」


 どうやら、僕の答えの意味をきちんと汲み取ってくれたようで、美来はリビングを飛び出していった。さすがは美来だな。


「お風呂とその他諸々の準備を終えました! あと15分もすれば私と色々なことができますよ」

「……さすがは美来だね」


 僕がそう言うと、美来は僕のことをぎゅっと抱きしめ、そっとキスしてくる。美来は僕とこうすることを夢見て10年も待っていたんだな。

 僕と美来はこの10年間、別々の道を歩いていたけれど、これからは同じ道を一緒に歩いて行くんだ。ちょっと歩幅は違うかもしれないけど、手を繋いで。大人として美来のことを引っ張っていかないと。


「智也さん、お風呂の準備ができたようです。行きましょう!」

「そうだね」


 時々は今のように美来に手を引かれることもあるだろうけど。

 そんな僕と美来が歩いて行く道では色々なことがきっと……いや、必ず待ち受けていることだろう。




特別編-Looking back 10 years of LOVE- おわり

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