第2話





「…何で、それを…」


「丁度通りかかって。ちらっと見ちまった」


「………」


「あ。いや、最後までは見てねーよ?」


「…いや、うん…。見てても良いよ…。そっか、あんた其処に居たのか…」



ふー・・・と大きく息を吐いた彼は、ソファーに上体を深く沈めた。


…これは不味かったやつか?

見られたくなかったやつか?

そもそも、見たとしても普通言わないでおくべきだったのか?


昔から何でもかんでもズバズバ言ってしまう自分は、今更ながら顔を青ざめた。



「ほんと、何とも思ってないからさ。うん」


「…それはそれで嫌だな」



慌ててフォローを入れてみるも、顔を顰められた。

何故だ。

これは難し過ぎる。俺にどうしろと?



「…何とも思わないの?」


「あぁ」


「どうして?」


「……?」


「俺の事、他に告られてても気にならない位どうでも良くなった?」





息が、止まるかと思った。





「…ちがう」



息を吐いて、唇をぎゅっと噛んだ。

俺は、俺はなんて馬鹿なんだろう。


彼の揺れた瞳が苦しくて。

両手で強く抱き締めた。



「大好き。俺はお前が大好き」


「え…」



一秒でも不安にさせた自分が憎い。

不甲斐ない。馬鹿みたいだ。



「どうでも良くなんか無い」


「…ん」


「…信じとるから、普通に見れたとよ」


「……っ」


「俺、よー考えもせんで物ば言うけん。ごめん」


「…うん」



耳元で、ぐずっと鼻を啜る音がする。


あぁ。泣かせてしまった。

滅多に泣かない此奴を、一番愛している俺が泣かせてしまった。

優しくて、器用に何でも出来て、誰もを大事にする此奴が泣いている。

それは、とても胸が締め付けられるものだった。


目の前の光景が、ぐるぐると頭から離れない。



見た目に似合わず猫舌な俺が、彼の煎れる飲み物だけは安心して飲める。

火傷しない温度。


彼がそれを理解する位には、俺らは一緒に居た。

それなのに、泣かせた。

俺は、何も解っちゃいなかったんだ。



「……んっ」



首元に舌を這わせれば、腕の中で身体を捩る愛しい人。


ごめん。ごめんね。



「…ちょ、もう止め…」



泣かないで。笑って。



「…ふはっ…あんた、犬みたいだよ…」



可愛いなぁ。もう。

そう言って、俺の頭をくしくしと撫でてくれた。


可愛いって言われんのはどうかと思ったけど、お前が笑ってくれるんなら、それでも良いや。



「大好きだよ」


「…うん。俺もだよ」






また一口、お茶を飲んだ。


それは、やっぱり美味かった。







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