二人部屋 (スパダリ×男前/恋人同士)
第1話
「…ずっと好きだったの」
擦り寄る女の甘い声。
目の前で恋人が、知らない女と抱き合っていた。
「…あつッ」
がやがやと騒がしい食堂に、俺の声が滲んだ。
「なした」
「ちょっと火傷。このお茶、熱すぎだろ」
左隣の友人に水を取ってもらい、コップに注がれた冷えたそれに舌を突っ込む。
じんじんする。
こりゃ一時、食事の際や喋る時に舌が痛むな…。
ムスッと眉間に皺を寄せると、俺を心配そうに見ていた目の前の友人が吹き出した。
「おまえ、ほんと熱いの駄目な」
「…ん」
そんな面白そうに言われたって。
事実なんだから、仕方が無いだろう。
と云うか代わってくれ。
俺もこんな目に遭うのは、そろそろもういやだ。
「そういえば、昨日の合コンでさー・・・」
誰ともなく話し始める、いつも通りの話。
美人の話。
眠気を誘う教授の話。
そろそろ期限がやばいレポートの話。
どれもこれも、掬い上げる程のことではない。
あぁ。あいつに会いたいなぁ…。
俺のぼやきは、胸の奥に消えていった。
「はい、どうぞ」
目の前に置かれた、湯気のないお茶。
俺は食後の微睡んだ雰囲気にうつらうつらしていたが、彼の差し出したそれを見ると、じんわりと胸が温かくなった。
「ん。ありがとう」
ソファーから上体を起こし、有難く受け取る。
素手で持っても支障のない温度。
それは、正しく俺に合わせた温度だった。
たぶん、幸せってこういう事なんだと思う。
二人で家賃を半分にして借りている古いアパートの小さな部屋。
横に腰掛けたのは、俺の最愛の人。
俺もこいつも、同じ大学で同じ歳で。
同じ性別。
周りには言えない関係。
それでも俺は、彼が好きで。この距離が欲しくて。
手を伸ばした事を、後悔したことは無い。
「…なぁ」
「うん?」
「今日、告られてただろ」
カレー美味かったな。
それとまるで同じテンションで告げた俺の言葉に、彼は目を見開いた。
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