食卓に並ぶのは (幼馴染み)

第1話





僕は、人と食事が出来ない。





「お前、それだけしか食わねーの?」


「うん」


「もっと食えって。ぶっ倒れるぞ」


「うん」



昼休みの教室。

まだ皆が弁当を食べている中食事を終えた僕に、目の前に座る友人は溜め息を吐いた。


どうやら呆れたらしい。

その俯いた首の角度と吐き出された息の量に、へこみそうになるから、止めてほしいんだけど。


まぁ、良いか。



食べないんじゃない。


食べれないんだ。



そこには確かな差があるように思うのだけど、それを相手も感じているかは分からない。


だから、僕はそれをわざわざ否定する事が出来ない。


誰にも理解されなくても良い。

そう思っていたんだけど











「相変わらず、お前は変な物を食べるよな」


「うん」


「美味いか?」


「うん」


「そうか」



目の前の彼は溜め息を向けてくるのではなく、僕の頭に手を乗せてくしゃくしゃとかき混ぜた。



人から向けられる、負ではない感情。

嬉しい。嬉しい。


僕は思わずふにゃりと笑って、目の前のご馳走を口に運んだ。



僕の今日の晩御飯は、焼きそば。

確かにそうなのだが、その中に一緒に混ざっているのは



フルーツポンチだ。



僕は、おそらく人と味覚がズレている。

人はこんな物食べられないだろう。


それは分かっている。

分かっているのだが、こうしないと美味しく感じられないのだ。



自分の異変に気づいたのは、小学生の時だった。

給食で大きなおかずと小さなおかずを全て混ぜて、コッペパンの中に詰め込んで食べる。


これが、自分の中では普通だった。



でも周りには自分と同じ事をしている人は誰もいなくて。

皆から嫌な顔をされた。


どうやら、見ていて気持ちが悪いらしい。


それは、家族も同じだった。



ファミレスで、僕が納豆パスタにチョコパフェをぶち込んでしまった時。

それはそれはとんでもなく叫ばれた。


僕の『美味しい食事』には、理解者は疎か反対する人ばかりだったのだ。



彼を除いて。



「一口くれ」


「うん」


「……別々に食べた方が美味くねーか?」


「ううん」


「そうか」



ぶんぶんと首を横に振る僕に、そうかと頷く彼は、僕の素敵な素敵な幼馴染み君だ。


因みに今食べているのは、鯖の味噌煮に吹雪饅頭を混ぜた物で。

僕は今、これにはまっている。



人を不快にさせてしまう僕の食事。

なので人前では普通の物を食べるようにしていた。


美味しくない普通の食物。

当然食欲なんか湧く訳もなく、僕はいつも人前での食事は僅かだ。



けれども彼の前では



「おかわり」


「おう」



嫌な顔をせず、同感しないが受け入れてくれる彼の前では、僕は食事をする事が出来るんだ。



「美味いか?」


「うん」


「良かったな」


「うん!」




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