第3話




「甘ったるい」


「え?」



もう一度目を合わせた田崎君は、僕の口元をついと指差した。



「あぁ。チョコ食べてるから」


「何で持ってんのさ」



うげぇと顔を顰められた。

何その顔。可愛い。



「僕、甘いの切らすと駄目だから。常にポケットにイン」


「太るぞ」


「食べても太んないもん」



ほら、と体操服を捲って腹を見せた。


もれなく僕の腹は、肋が出でいる。

いやん恥ずかしい。



「見せんな。見苦しい」


「わぁ辛辣」



本当に嫌そうな顔をされたので、僕は大人しく腹を仕舞う。

悲しいかなしい。



「チョコ、いる?」


「いらない」


「あーん」


「は?——むぐ」



田崎君の口の中に入った一つのチョコレート。

僕はそれを見て、にっこりと笑った。



「僕たち、同じ匂いだね」


「…死ね」



田崎君は、相変わらず僕に冷たい。



「ねぇ、田崎君」



真面目な声を出した僕に、目の前の彼の肩が少し揺れる。



「どうして倒れたの?」



じわりと首を絞めるような僕の質問。


触れてはいけないようなそれに、僕は思い切り踏み込んだ。

土足で。真っ向から彼を見て。


田崎君の瞳が揺れた。



「………」


「………」



沈黙。

それは、想像通りの空間だった。


廊下でチャイムの音が聞こえる。

それが授業の終わりを告げるものなのか、始まりを告げるものなのか。


僕にはどちらでも良かった。



「…朝食わずに思い切り走ったから。たぶん」


「…へぇ」



田崎君の言葉に、僕は目をぱちくりとさせた。


まさか答えてくれるとは、思わなかったのだ。

案外素直な彼は、益々可愛い。


もしかしたら、誰かに話したかったのかもしれない。



「何でそんな事したの?」



もう一度、僕は踏み込んだ。


彼の手が、ぎゅっと布団を握る。






「…死にたかったから」






ぽつりと呟いた彼の声は、消えてしまいそうだった。





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