ヨーイドン (高校生/死にたがり)

第1話





走りすぎて倒れるとは、どういう事だろう。







あまり訪れた事の無い、保健室。

全体的に白いその空間は、何だか落ち着かない。


きちんとしなきゃ。

そう思えて、何時もより少し良い子に座る。



カーテンの閉められたベッドの中。

僕はその傍に置かれたパイプ椅子に腰掛け、ぼんやりと目の前の彼を見詰めた。



同じクラスの田崎君。

見た目を気にしていなさそうな黒髪と、健康的には見えない白い肌。


あ。

今倒れたんだから、そりゃそうか。



目の前に居るのは、何処にでも居そうなクラスメイト君。

僕らは特に親しくもない。

と云うか、田崎君は誰とも親しくない。


そこら辺は中々デリケートな話なんだけど、早い話がぼっち。

彼はぼっちだ。



Q.では何故、倒れた彼を此処まで運び、今も尚彼のお目覚めを待っているのか。


A.僕が保健委員で、そして授業をサボりたいからでーす。



という訳で、僕は絶賛サボり中だ。

保健委員万歳。


欠伸を一つ洩らす俺と、未だに目覚めない田崎君。

彼が倒れたのは、今から二十分程前になる。










四時間目。皆大好き体育の時間。

帰宅部の僕は、特に得意でもないから嫌いだけどね。

汗かくのとか、うざったいし。


ウォーミングアップを兼ねた一キロ走。

全然ウォーミングアップじゃない。

普通に完全なる運動だ。きつい。


女子は小さいトラックに、男子は大きなトラックに。

皆で並んで、ヨーイドン。



怒られない程度に手を抜きながら、僕は先頭集団をちらりと見る。


一番早いのは、隣のクラスのサッカー部かうちのクラスの野球部——うちの学校はぶっちゃけ、陸上部ってそんなに早くない。野球部とかサッカー部の方が、よっぽど早い。——ってところかな。


と思っていたら。



彼らの後ろから迫ってくる男子が一人。

…嘘だろ。無気力男の田崎君じゃん。


休み時間も基本自分の席に着き、ぼけーっとしてる彼がこんなに一生懸命に走っているだなんて。

僕は軽く感動を感じた。



そして全力疾走の田崎君が先頭集団を抜いた瞬間。






彼は倒れた。





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