どうして僕は (恋人持ちに片想い)

第1話






その日は、暖かな雨の日だった。



僕の傍に腰を下ろした彼。

泣いているようにも見えたけど、もしかしたら雨水だったのかもな。


膝を抱えて小さくなる彼に、僕は「大丈夫だよ」と言いたかった。








「中橋ー」



僕の傍に今日も腰掛けた彼を呼ぶ、明るい声。

走り寄って来るその人は、全身で彼を好いていて。



「雅春」



そう言ってその人を抱き締める彼の声も、また優しい。


中橋君。

どうやら彼の名前は、『中橋』らしい。


それを知ったのは、随分前の事になる。



「今日はバイト?」


「いや、休み」


「じゃあ一緒に帰ろう!あと、夕飯の買い物も」


「そうだね」



二つはどうやら恋姫同士で、一緒に住んでいるらしい。


それを知ったのも、最近の事ではない。



中橋君の膝に上に跨る雅春君。

名前の呼び方が違うのは、性格上なのか。


僕は尋ねる事が出来ないから、知る事も出来ない。



中橋君の声は良い声だ。

低くて、よく響く。


雅春君は逆に、男にしては少し高くて幼い声。

それもまた可愛らしいんだけど。


僕の下でぽつりぽつりと話す二人の声は優しくて、楽しそうで。

羨ましいって言ったら、可笑しいかもしれないな。



僕は、そんな立場に居ないんだから。



二人を見ていると、あの日の中橋君をたまに思い出す。


初めて出会ったあの日。

彼が雨の中、膝を抱えていた日を。


今の彼を見ていれば、もう心配は要らないようだけどね。

幸せそうで、何よりだ。



「雅春」


「うん?」


「好きだよ」


「…俺もだよ」



首に回される手。後頭部に回される手。

重なる唇。

その距離は、ゼロ。



あぁ。

やっぱり羨ましいな。


僕は、彼らから目を逸らした。



中橋君に愛される君が、羨ましい。

その身体に触れる事が、羨ましい。

彼と会も話出来る君が、羨ましい。


あぁ。何で、どうして















どうして僕は、木なんだろう。







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