第4話





滲んだ視界がみっともない。


情けなくて、更に涙腺が馬鹿になる。



何処から間違えたんだろう。

俺は、何を選択したんだろう。


欲しくて手を伸ばしたのは、『彼』か『人』か。


あんただって、欲しいのは『俺』なのか?



「俺みたいに底辺で生きた死に損ないなら、彼処に腐る程居るよ」


「………」


「絵を描ける奴なんて、こっちの場所の方が沢山居るだろう?」


「………」


「色々してもらって、此処まで連れて来てもらって悪いけど…辞めておこうよ。な?」


「………」


「俺、帰りたい」



俺がボソリと呟くと、男は車のドアを重く叩いた。







「却下」







冷ややかな雰囲気と鋭い目線。

俺はそんな男を見て、ゴクッと生唾を飲み込んだ。


な、何か、怒ってる?



「私たちには、決定的な違いがあるようだね」


「……ちがい?」


「求められればホイホイ付いて行く君と、欲しくて堪らない物にしか手を出さない私。お互いの、求める度合いだよ」


「……そんな事」


「ない?」


「………」


「それは、どちらの事を言っているんだろうね」



小さく笑う、目の前の男。

しかし機嫌が良い訳では無いからことは、明白だった。


男が左手で俺の右頬を、するりと撫でる。



「残念だけど、君を帰したりしないよ」


「……え」


「欲しいんだよね。君が、全部」



どうして。


その言葉は、喉の奥で死んでいった。


俺は肯定以外を飲み込んだ。



「難しい仕事は無いよ。私の隣に居れば良い」


「………」


「君は私を利用すれば良いよ」


「………」



抱き寄せられる、俺の身体。

抗わず俺は彼の胸で頬を濡らした。



孤独を恐れたのか、彼の居ない彼処を恐れたのか。



考え込む俺にこいつは、どちらでも良いよと優しく笑った。






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