第3話





俺が、秘書?


生きていく小遣いを稼ぐので必死だった俺が、そんな真っ当な仕事を?


そんなの…



「…無理だ……」



今までの生活と、違いすぎる。


ぐらりと視界が揺れた。



「あんたは、死体を見た事があるか?その死体を運んだ事もあるか?」



俺の今までの生活は、死と隣り合わせだった。



糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちる死体。

線で固定された骨格は確かにあるけれども、関節毎にぶらんぶらんと揺れるそれは、幼い時に見たカラカラと動く人形達を思い浮かべさせた。


人は死ぬと、物になっていた。



死人を見つけては、それを処理して金にする奴の所へ持って行く時もあった。


そうすると、気持ち程度の小遣いにありつけるのだ。






…死人を触って過ごしたこの手で、俺はあんたの世話をするのか?






それは、余りにも穢らわしいことではないか?



「…無いだろ。そんな綺麗な姿形をして、立派な地位もあって。そんなあんたと」



一緒に居れる訳がない。



途端に身体が冷えていくのを感じた。


あぁ、俺は何て事をしてしまったんだ。

手を伸ばした先は、縋り付いた先は、恐ろしく綺麗だった。



「却下」


「……っ」


「君の手は、美しいよ」


「そんな訳…っ」


「触ってきた物で、穢れる訳ではないだろう。それに、あんなに綺麗な絵を描く手なんだ。」


「でも…」



あんたは何でもない様に言うけど、そんな簡単な事ではない。



自分の汚さが気になるのは、相手が大切だからだ。


この人と釣り合いたい。

この人の隣で居られる様になりたい。



その気持ちに気付いてしまった俺は、とても臆病だ。



「生きてきた環境が違うのは、分かっている。…君には辛い思いをさせてしまうかもしれない。でも、それでも、ずっと傍に居てほしいんだ」



却下。却下。却下。


その判決は、一体何なんだ。



「い、今までずっと来なかったくせに」


「………」


「急に現れては、距離をゼロにしたがって…」


「………」


「…あんたは、俺を馬鹿にしてんのか…?」



あ。駄目だ。


なんか、泣きそう。





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