第2話





あいつはとんでもない奴だった。



「…は?俺の戸籍弄ったの?」


「そうだよ。君は私の家族だ」


「…よく見つけたな」



いや、そうじゃないだろう。


注目すべきは、そこじゃない。

人の戸籍を探し出し、勝手に弄った。

そしていつの間にか家族というものにされていた事だ。



何故?


何を考えているんだ。

けろりと言ってのけるこの男が、異様に思えて仕方が無い。


やっぱりこの男は狂ってやがる。



「…何処に向かっているんだ?」



黒くてデカイ車。

見るからに高そうで、乗り込むのに躊躇したのは内緒だ。


それに乗せられて、俺は下の場所からどんどん遠ざかっている。



底辺。死に場所。

そんな糞みたいな所なのに、離れると不安になるのは…何とも滑稽だ。


俺は、根っからの底辺らしい。



「私の家だよ」



左隣に座る男を意識しながらも運転手を見る。

あの場所に訪れるのに相応しくない人物。

ぴっしりと整えられた髪が、神経質そうだ。


こんな小汚い餓鬼を車に乗せて、その為に動かされるなんて…内心腸煮えくり返ってるのではないか。


そう思えて仕方がなかった。



男の言葉が、遅れて頭の中に入ってくる。



「…家?」


「そう」


「…どうして…」


「一緒に住むからに決まっているだろう?」



そこまでは考えていなかった。



あんたと会えなくなるのは嫌だったけど、離れたくない訳ではなかった。


会える。俺を必要としてくれる。


その確証が欲しかっただけなのに。



「…いや、そこまでは…別に」


「却下」


「は?」


「この件に関しては、君の意義を聞けない。悪いけど、私と家族になって一緒に住んでもらう」


「………」



それは、どういう義務なのだろうか。



「あぁそれと、君には私の秘書をやってほしいな」


「はぁ!?ちょ、ちょっと待て」



何を言っている。

何を言っている。


男の言葉に、俺の心臓は悲鳴をあげた。





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