俺にだけ (高校生/一方通行)

第1話 支配者




こいつは、俺にだけ反応する。



「……ッ」



鈍い音と共に、誰もいない放課後の教室の床に倒れるそれは、見上げてゆらゆら揺れる瞳に俺を映す。



「痛いか?」


「………」



楽しそうに聞く俺に、こいつは口を閉ざして項垂れた。


当たり前の質問、痛いに決まっている。

でも、俺は話しかけるのを止められなかった。



「痣だらけだな。人前で着替えなんて、出来ないだろう?」


「………分かってるなら、何でするのかな……」





そんなの、瞳に溜まる涙も震える小さな声も、全部が全部好きだからに決まっているだろう?






こいつは、自分を痛めつけられた時にだけ、痛めつけた相手にだけ、反応をする。

その事を知った時、俺は即座にそれにしがみついた。


無言無表情が常で、何事にも興味を示さないこいつを、俺は目で追うようになっていき。

終いには、自分を認識してほしいと思うようになった。



向こうからしたら、迷惑極まりない話だろう。


勝手に興味を持たれて、自分を見てほしいという欲求を向けられて。

そして今現在、理不尽な暴力を受けている。


世の中は理不尽で成り立っていて、それによって人は進歩していくとか何とか言われても、これは酷い話だろうな。

果たして、この理不尽でこいつは何を得るんだろうか。



「……もう、いい?」



痛む身体に鞭を打ち、立ち上がるこいつは顔を洗いに行く。

知ってはいるが、止めようとは思わない。


もう、十分満たされたから。

あいつが俺と言葉と目線を交わしてくれれば、それで満足なのだ。



白い肌に映える鮮やかな痣達。

それをうっとりと見つめながら、俺は鞄を手に取り、靴箱へと向かう。



あぁ。

明日もこいつは、俺にだけ反応するのだ。





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