第2話
綺麗はまま死んでいく僕を、警察や病院の人は嫌な顔せずに処理してくれるだろう。
それが良かった。
死んでも尚、人に嫌悪感を向けられちゃ堪んない。
それは、少ない方が良い。
僕の手には、この世で一番の宝物がある。
押されると一瞬で命を絶つ事の出来るこのスイッチのデメリットは、事故が多い事だ。
その数は、決して少なくない。
だから、このスイッチを家の金庫等に保管している人も多い。
それはそれは、厳重に。
僕は、そんな事をしなくて良かったなぁ。
家に帰ったら、この絶望が薄れてしまうだろうから。
そしたら、死ぬ事の恐怖に負けて、スイッチを押せなくなる。
そんなの嫌だ。
今すぐ死にたい。
手元のスイッチを、じっと見つめる。
…よし、押すぞ。
最近の若者は、何て簡単に命を捨ててしまうのでしょうか?
誰かが言ってた気がする。
僕も知らない。
でも、分かる気がした。
右手の親指を動かそうとした時。
「――倉田!」
ビクッ。
大きい声で名前を呼ばれ、体が跳ねた。
驚いて声のした方を見ると、そこに居たのは僕の愛しい人。
「…ヨコ…何で…」
「倉田!俺も倉田のことが好きなんだ!」
「…え…?」
「昨日、言えなくてごめん。皆に、倉田だけをホモとか言わせてごめん。俺も一緒、一緒なんだ。…俺、倉田とだったら周りから何を言われても良い。倉田と一緒に居たい。…皆の所に、二人で戻ろう?」
僕の目の前にしゃがみ込んで、頭を撫でてくれるヨコ。
…そういうところに、僕は惚れたんだ。
「うん、うん、うん」
僕は顔をぐしゃぐしゃにして、ヨコに抱きついた。
ヨコは僕を立ち上がらせ、嬉しそうに笑う。
「ありがとう、倉田」
そして二人で歩き出した瞬間。
ヨコのポケットから、彼のスイッチが落ちた。
そのまま地面に転がるスイッチ。
僕らの人工心臓の、スイッチ。
それを踏もうとする、彼の足。
「――あ」
カチッ。
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