君のスイッチ (高校生/死別)

第1話




予防接種を受けましょう。


まるでそんな身軽さで、僕らは全員人工心臓にさせられた。









部屋の明かりを消すかの様に、スイッチ一つで死ねないだろうか。


そのような事を、思ったことはありますか?

僕は、あります。

今まさに思っています。



「倉田~。お前ホモだったのかよ~!」


「昨日聞いたぞ!『僕…ずっとヨコの事が好きで…』って言ってただろ!」


「ベタ!めっちゃベタ!ぎゃははは!」



今世紀最大のイベント、告白を実行した翌日。


教室は朝から地獄と化していた。



な、なんで、何で?

誰が聞いてたの?

何でバレちゃったの?


やっぱり放課後の教室で告白なんて、止めておけば良かった…!



「そういえば昨日、ヨコは返事してなかったよな?」


「ここでしちゃえよ~」


「ぶっは!公開処刑じゃん!」



愉快で不愉快なクラスメイトの声。

何で、どうして、こんな事に?


嫌な視線から逃れる様に周りをゆるゆると見渡すと、目が合うのは青ざめた僕の好きな人。








そんな目で見ないでくれ。









気づいたら、僕は教室を飛び出していた。


シューズのまま外に出て、誰も居ない校舎裏にしゃがみ込むと、じわりと視界が歪んでいく。



あぁ、今すぐ死んでしまいたい。

今すぐ全てを終えてしまえたら、どんなに良いだろう。


ポケットの中にある人工心臓のスイッチを、ぎゅっと握った。



僕らが幼い頃に取り付けられた人工心臓は、このスイッチ一つで停止する。


故に僕らは、指先一つ、それも一瞬で命を絶つ事が出来るのだ。



首吊りで身体中の穴から垂れ流す事も、舌が長く伸び出す事もない。

手首を切り、多量の血液を目撃する事もない。

飛び降りで落下した身体が、叩き潰される事もない。


これからは、スイッチ一つで痛みも苦しみもなく、綺麗なまま死ぬ事が出来る。

自殺者に優しい世の中にしよう。



そう言い出したのは、どこの狂ったお偉いさんだっけ?


でも今、僕はこんな狂った世の中に感謝している。







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