合法的監禁方法 (社会人×引き篭もり)

第1話






残念だけど、達也さんは馬鹿なんだと思う。








「只今戻りました」


「あ、おかえりなさい」



帰って来たこの家の主こと、達也さん。

彼の声が聞こえたと共に、温もりに包まれる。


いつもの様に彼に抱きしめられて、俺は夢中になっていたパソコンの手を止めた。



「今日も、何もありませんでしたか?」



尋ねながら、達也さんは俺が脱いだ寝間着を、綺麗に畳む。


あ。

今日こそは、片付けておこうと思っていたのに。

すっかりと忘れていた。


そう思っている間にも、机の上に置きっぱなしだったコップや飲料水等も、達也さんの手によって、片付けられる。



あ、あー・・・。

それも、やろうとして忘れてたやつ…。


俺が口を出す間もなく綺麗になっていく部屋の中。

何て素早いんだ。

達也さん、すげぇ。


俺は心の中で、彼に盛大な拍手を送った。



「…早川さん?何かあったんですか?」



いつまで経っても答えない俺に、焦れたのだろうか。

表情を無くした達也さんは、片付ける手を止めて、俺の肩をがしっと掴んだ。



「な、ない!今日も平和!」


「…本当に?」


「まじです!」


「なら良かったです」



ふわっと笑った達也さんは、直ぐに両手を離してくれた。


い、痛かった…。

思わず俺は顔を引き攣らせる。


見た目も中身も底抜けに優しい達也さんは、たまに怖い。








そして、俺を異常な程に閉じ込めたがるのだ。







俺の靴が全て捨てられた事も、窓に鉄格子が付けられた事も、玄関の鍵が彼の指紋でしか開かない事も、全て知っている。



達也さんは、本当に馬鹿なんだと思う。


だってこんな事をしなくても、俺は此処から出て行かないのだから。



俺は一日中パソコンと睨めっこし、仕事もしていない、所謂ひきこもりだ。

そんな俺が生きていられるのは、彼のお陰。



もう彼なしでは、生きていけない。

此処から出て、生きていける訳無いのに。


一体全体、何が心配なんだろう?



「…あれ?早川さん、メールしていたんですか?」


「あ」



目敏い彼が見ているのは、開きっぱなしにしていたパソコンの画面。



「『今度呑みに行きましょう』…?」



それを読み上げる恐ろしく低い、彼の声。

あ…失敗した。


最近ネット上で親しくなった男からの、誘いのメールを見られてしまった。

これは、やばい。

達也さんは、俺が他人と関わる事を、酷く嫌うのだ。



「…やっぱり、パソコンなんか壊してしまいましょうか?」


「…あ、いや…えっと……」



達也さんは、馬鹿っていうより





少し頭が、イカれてるのかもしれない。






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