第2話
便器になんか、吐き出さなければ良いのに。
不快を生み出す奴等に、拒絶の意を伝えれば良いのに。
ううん。それよりも
僕に零してくれたら良いのに。
他人に優しすぎる兄さんは、全て自分で抱えてしまう。
それを知りながらも、僕は手を差し伸べたりしない。
だって兄さんは、本当にそれを必要としていないのだから。
今の兄さんに、誰かが優しくしてみなよ。
きっと兄さんは、死んでしまうから。
兄さんは隠す事によって、今の精神状態を保っている。
それなのに。
助けたい。
救われてほしい。
どうか、どうか。
そんな感情で兄さんに優しさを振りまく奴等を、僕は全て排除してきた。
馬鹿じゃないの?
やっぱり、誰も兄さんの事を解っていない。
自分のエゴを押し付けてどうするの、偽善者達よ。
それが兄さんにとっては、重荷でしかないのに。
どうして気づかないんだろう。
「あ…」
目の前には自室の扉があって、それが少し開かれている事に気づいた。
僕はその事に泣きそうになりながらも笑顔を作り、ドアノブを回す。
「…兄さん、また来たの?」
「あ…叶汰…」
僕のベッドの上で丸くなっていた兄さんは、僕の声でこちらへと顔を向けた。
月明かりが射し込むだけの部屋の明るさでも、解る。
光が反射するその目元は、泣いたからでしょう?
言葉が上手く出てこないその喉は、まだ痛いんでしょう?
胃液でぐちゃぐちゃになった吐瀉物よりも、その心はボロボロなんでしょう?
兄さんが、他人を責める事が出来る人だったら良かったのに。
僕は兄さんに覆いかぶさって、その薄い身体を優しく、けれども目一杯抱きしめた。
「…叶汰…」
僕の名を呟く兄さんの息は、歯磨き粉の匂いがする。
ああ、ほら。
この人は、こんなにも気付かれたくないんだ。
流れ落ちそうになる涙を飲み込む様に、僕は兄さんに口付けた。
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