赤い桜

明 未来

第1話 都市伝説

午後の授業は眠い。学生を襲う抗い難い脳の欲求。これに身を任せてしまうとどんなに楽かということを俺は、知っている。そして、耐える辛さも。

「なあ、瞬」

隣で俺と同じく眠気と格闘している中学からの親友、上川政夜の姿がある。よく焼けた茶色い肌の如何にもスポーツマンっといった男だ。

「どうした?遺言なら聞こうか?」

「実は...俺には重大な秘密が...って違う。そうじゃなくて、現文の授業ってなんでこんなに眠くなるんだろうな」

「全くだよ。まるで数え歌だ」

現代文の授業を担当する教師は、佐野という。しかしこれが恐ろしくつまらない。その言葉一つ一つが子守唄のように聞こえてきて穏やかな声とリズムと共に眠気を誘う。

5時間目の授業。この時間帯は昼食後のせいもあり、特に眠くなる。

周りを見ても5人ほど気持ち良さそうな顔をしている。

一方の佐野先生はというと、寝ている生徒など何処吹く風といったチョークさばきで黒板と向かい合っている。

「なな、瞬よ。都市伝説に興味ないか?」

「いきなりなんだ、藪から棒に」

「気を紛らす為だって。で、どうなんだ?」

政夜は、イタズラ好きの少年のような笑顔で聞いてくる。

答えようとしたところで後ろから肩をつつかれた。

「ちょっと二人とも。今は授業中。そういう話は後にしてよ?」

振り返ると、端正な顔の女子が形の良い眉を潜めていた。

「何だよ紅葉。寝ないよう耐える努力している俺にそんなこと言っていいのかい?」

「眠いのはあなたが集中してないからでしょ。それにそんなことは努力とは言わないの」

「そんなに正論言わんでも...」

すっかりしょげてしまった政夜を呆れたように見てからあなたも、と紅葉は続けた。

「瞬、上川君のこと止めないでどうするのよ。私も小言は好きじゃないんだから」

(いつもの事だろ。)

「悪かったよ...」

俺が言い終わるか終わらないかの時に、終業のチャイムが鳴った。

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赤い桜 明 未来 @sakura0428

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