第10話

「置いていきなさい!これは命令よ!」

「いいから、黙ってください、先輩!」

 嫌がる先輩を無理矢理背負って、僕は地下道を走り出した。神と世界と自分の非力さを呪いながら、それでも弾当たるなよコケるなよと祈りながら僕は走る。

 背後から敵の足音と怒号、そして銃声が響く。先輩も時折背後に腕を伸ばして応射する。さっきの死体から奪った3丁のトカレフは全て先輩が持っている。

 もっともっと速く走りたいのにそうもいかないもどかしさで全身を焼かれるようだ。肺も喉も焼けつくような痛みを訴えるが、この数分だけ保てば後は潰れてもいいと身体の警報を全て無視してひたすら走り続けた。

「今回の行動目標はキミが得た情報を本部に持ち帰る事よ!忘れたの!私を置いていきなさい!」

「背負って、なかったら、口、ふさいでますよ」

「……キミねえ」

「僕は、先輩と、脱出、した後、エッチな事、したいから、走ってます。文句は、ここ、出てから、聞きます」

 息切れはまだしも、涙声になってしまうのは情けなかった。

 応射を続けながら、先輩は言った。

「キミ、今言ったこと、忘れるな……査問にかけるから……」

「カギの、かかる、部屋で」

「……バカ」


 前方から婆さんがもの凄い勢いで駆け戻ってきた。

「ドア!」

 それだけ言うとそのまま追手に向かって婆さんは走る。手には残り1つの調味料缶を抱えて。自爆特攻なんて婆さんがするわけないから振り返らずにそのまま走り続けた。前方左側に縦に細く小さな矩形の光!扉だ!出られる!


 背後から爆発音が響いた。婆さんが最後の調味料缶を敵に投げつけたのは見ないでもわかる。今回は不意をついてないから殺傷は期待できないが、とにかくこれで時間が稼げる。


 僕は白い光に飛び込んだ。

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