北野坂
@usapon44
第1話北野坂
かみさまはいるんやろか・・・・・・。
そんなことを考えながらわたしは坂を登っていった。GOD(かみさま)とGOOD(よい)は一字違いだ、と想う。GOOD、GOOD、といってもらいたがりすぎたら、かみさまは遠くに遠くにいってしまい、その厳しさを知るようになるのだろうか。
昔よくいっていた店を外からみた。雑貨屋だ。かつてこの近くで働いていたころのことを思い出す。今となって想うと、午後からはじまる仕事の前に、あちらこちら、このあたりを歩いたことが、わたしの思い出となっている。そのとき、そのときの今をすごしているとそのうち、それが思い出となる。その頃、途中からカフェとなった、洋館の前を通り過ぎる。よく仕事の後、ここでゆったりとした時間を過ごしたものだ。洋館たちは、日本の大工さんが図面をみながらつくったそうだ。中は豊かな空間となっている。ものすごく多くの人が列をなしている。坂を登りつづける。土産物屋をちらっとみる。そうしてようやく風見鶏の館の下にたどり着く。
風見鶏の館。
何十年前となんら変わらぬ館。風見鶏というNHKの朝の連続ドラマで一躍有名になった館だ。このあたりは、洋館が立ち並び、おしゃれな観光スポットとなった。昔、友達が神戸観光をしたいといえばよくこのあたりに来ていた。扮装をしてパンをつくっている人の格好をして友達と写真におさまったこともあった。風見鶏というNHKの朝の連続ドラマはパン職人のドイツ人と日本人が一緒にパンを焼き、夫婦となり、苦労を伴にするという話だ。
パンが焼けましたよ。
二人が顔を見合わせる。日本人女性とドイツ人男性の初めての共同作業です。そのようなナレーションを思い出す。そのシーンはいつおもいかえしてもなつかしい。そのドイツ人男性を演じていたのは、実はロシア人男性だったそうな。
ロシアと神戸。大好きなロシア料理。ロシアには実在しないロシアンティ。薔薇の花がコップの底で花開く。寒い日には暖をとるかわりにウォッカを飲んでいた。ウォッカは湯たんぽがわり。ウォッカを一杯飲むと、足のつま先まで温かくなったものだった。チェ―ブラーシカ。ロシアの人形劇。その人形劇がつくられたのは、わたしが子供の頃だったようで、その人形劇をみると、当時の人のちょっとしたしぐさが再現されているようで、わたしは、なぜ、なぜ、どうして、といっているチェ―ブラーシカだったような気持ちもする。それに出てくる水色の列車という歌を聴くのは好きだ。
ピアノを習っていた少女だった頃、くるみ割り人形の曲を聴いて、クルミ割を買った三宮のみっちゃん。当時はみっちゃんにいけばなんでも海外のようなものは手に入った。いつしか町は移ろい、みっちゃんも町から姿を消した。いろんな格好をして歩いていた人たち。わたしの子供の頃は、ヒッピーのようなかっこうをした外国人がジーパンをはいて、自分でつくったアクセサリーを並べて売っていた。
風見鶏の館前にある階段を上り切り、風見鶏の館の前の公園から海をみる。神戸だ。わたしのふるさと。わたしは神戸が好きだ。おしゃれだから。髪を結ぶのもどうやったらおしゃれになるか考えた少女時代。ベートーベンに恋をしたあの頃。なんにもかわってない。そう想いながら神戸を愛していた人たちのことを思い出す。この公園はパリのモンパルトルの丘をイメージしてつくったそうだ。この街を愛していた一人の画家のことを思い出す。エネルギッシュな人だった。その頃、わたしは少女だった。あの頃、わたしを取り巻いていたすべてのもののことを神戸の街をみながら思い出す。そうして今度は北野神社に向かう。階段を上る。この階段を上り切れば、ここから風見鶏の館が綺麗にみえる場所がある。そこにたどり着く。
なんにもかわってないやん。そう想いながらシャッターを切る。静かな落ち着いた景色。誰かが、ここが一番風見鶏の館が綺麗にみえる場所やで。そう置手紙のように置いて行ってくれた場所のような気持ちがする。
その人がかみさまやったのかもしれへん。
そう想いながら景色をみる。ここにはじめてきたとき、わたしは十九歳だった。あのころはなにもかも不安定だった。大学進学のためにこの街を離れるとわかったときにやってきたのだ。そんな頃のことを思い出す。今となれば十九歳の若さをもっと思う存分楽しんでいたらよかったのに、勉強ができないこと、志望校に入れないこと、やら、でわたしは想い悩んでいた。それだからだろうか。余計に北野坂はきらきら輝いて見えた。北野坂はやさしく包み込んでくれるような包容力がある。北野坂にたくさんいはるねえさんみたい。
心の中で、外見は19歳なのに、うまくいかないことで思い悩んでいた自分のことを大切に想う。そしたらきっと誰かのなにもかもうまくいかないときのせつない気持ちもわかるから。そんなときは北野神社の上から風見鶏の館みたらいいよ。そういいたくなるような場所だ。おだやかな時間がそこには流れていた。
北野坂 @usapon44
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