第114話 、





「俺ん家は、拓夢の所みたいじゃないから」



そう言った真琴の声は軽かった。

俺の所みたいじゃないって、どういう事?

姉に背中を切られるって、どういう事?


何で、そんなに受け入れてんの。



「元から家族から好かれてなくて…特に姉から。で、向こうの我慢の限界が来ちゃってさ」



家族から好かれてない?

家族なのに?

姉の我慢って、なに?

沢山我慢したから、弟を切っても仕方ない。

そんな風に聞こえるのは、何で?


真琴は、何でそれを当然だと思ってんの。



「此処に居られないって思って、外に出た。動けなくなって、寒いし痛いしもう死んじゃうと思った。…そしたら洋介さんが拾ってくれたんだ」



月が雲に隠れたのか、真っ暗になる部屋の中。

あぁ、やっぱり豆電球でも点けておけば良かった。

真琴がどんな表情をして喋っているのか、全く解らない。


なぁ真琴、今この話をどんな気持ちで話している?

俺、無理させてない?


話を聞きたいけど、聞いて良いのか解らなくなってしまった。



「其処に住まわせてくれて、何から何まで世話してくれた」


「………何で、会わなくなったの?」



そんなに良くしてくれた人と、どうして一年位で縁が切れたんだ。

普通なら、今も変わらず一緒に居るかもしれないのに。


そしたらきっと今より仲が良くて、俺の入る隙なんか無かったかもしれない。

考えるとぞっとした。


今此処に真琴は居なかったかもしれないんだ。






「……洋介さんが、結婚相手を見つけたからだよ」






——あ、泣く。


思わずそう思った。

真琴の声は、小さく震えていた。



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