第113話 過去の話





命の恩人。そう言って、真琴は目を閉じた。


何それ。なにそれ。

そんなの聞いてないし、そもそも男誘ったってどういう事?

やっぱり俺じゃ、無理って事?

俺だけじゃ、真琴の今までを埋められないって事?



「…どういう事?」


「………」


「……真琴!」



ビクッ。

俺が声を大きくすると、真琴は身体を震えさせた。

怒鳴りたくなんかなかったけど、何だか焦る。

俺から離れて行くんじゃないのかって。



「………ごめん」



でもそれは、俺の只の嫉妬と云うやつで。

言った途端に後悔して、小さく謝った。



「…俺もごめん」


「………」


「洋介さんとは、中1の時からの付き合いなんだ。…と言っても、中2の時には会わなくなったけど」


「…そんな前から…何で知り合ったの?」



中1だなんて。

そんな昔からの付き合いだなんて。

思ったよりも関係が深そうだ。

でも、一年後には会わなくなったとか、何で?


質問が止まらない。

教えてほしい。


なぁ真琴、俺の知らなかった事一つひとつ教えてよ。





「…姉から背中を包丁で切られて、家を飛び出したところを拾われたんだ」





「………え?」



俺は、言われた言葉を上手く理解出来なかった。

…今、真琴は、何て言った…?


合わせられる視線。

其処には何の感情も映っていなくて。


俺は頭が真っ白になった。



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