第112話 ちゃんと話そう



「良い匂い」



俺は、拓夢の頭に鼻を埋めた。

ちょっとピクッて身体が揺れて、拒否されるかと思ったけど、逆にぎゅっと抱きしめてくれて。



「…そうか?」


「ん」



すんすんと嗅ぐと、不思議そうにされた。

良い匂い。

シャンプーかな。あれだ、女物のシャンプーだ。



「これ、好き」



大体の匂いって嫌いなんだけど、これは本当に好きだな…。

何時も何かの香りがすると、具合が悪くなるんだけど。不思議だな。

好きな香り=無臭だったんだけど、このシャンプーになりそう。


…冗談です。



「なぁ、真琴」


「ん?」





「今日どうしたの」





「………」



ひゅっと喉がなり、顔が青ざめていくのが分かる。


聞かれた。

やっぱり聞かれるよな。



俺は目をぎゅっと瞑った。



「…洋介さんって人の部屋に居た」


「うん」


「公園で男誘って、でも止められて…」


「…男誘ったの?」


「……うん」


「………」


「………」


「…で、そこを洋介さんって人に止められたの?」


「…うん」


「知り合い?」


「……違う」


「え?」


「…俺の、命の恩人…」





閉じた目蓋から、いつの間にか涙が溢れていた。





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