第111話 一緒の布団




「電気消すぞ」


「ん」



あの後、当たり障りのない会話をし、俺は拓夢と一緒にリビングを退出した。

初対面の奴が、何時もは家族だけと云う安心感に溢れる場所に長居するのは、どうかと思っていたし。

それに、やっぱり彼処は居心地が悪かった。


何だかあの時間だけで、自分のコンプレックスを抉られた様な気分だ。

出来ることなら、知りたくなかった現実だった。



そして今現在、俺は拓夢の部屋に居る。

来客用の布団とかは無いらしく——俺の家にも無いし、割とそれが普通だと思っている——彼のベッドで一緒に寝る事に。


照明を消した拓夢が、布団に入ってくる。

俺は壁側へと身体をごろりと向けた。

微妙な距離感。

背を向けても、隣の存在を感じる。

やっぱり男同士だと、一つのベッドじゃ狭いな…。


少しでも身じろぎすれば、足先でも触れてしまいそうだ。



「電気」


「ん?」


「全部消しても大丈夫なのか?」


「え…?…うん」


「そうか。…紗智は豆電球がないと怖がるから」


「…俺を小学生と同じに扱わないでくれる?」



豆電球て…。無くても全然平気だわ。

真っ暗が怖いわけあるかよ。

ムッとすると、後ろから拓夢に抱きしめられる。



「真琴、可愛い」


「……っ」


「怒ってるの、何か可愛い」


「……悪趣味」


「そうか?」


「ん」


「……あのさ」


「ん?」


「急に家に泊まらせたりして悪かった」


「………別に良い」


「煩かったし、嫌な思いもさせたんじゃ…」



その言葉に、俺は首をふるふると振った。




——『じゃあ俺のとこ来いよ。…やっと会えたのに、もう帰るとか嫌だ』——




そう言われて嬉しかった。

一緒の布団に入って、温かくて、抱きしめてもらって。

本当は、凄くすごく嬉しい。



「…俺は、今此処に居れて良かったと思っているよ」



背を向けていた身体を拓夢の方へと向き直すと、俺はその背中に腕をぎゅっと回した。






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