第94話 真っ直ぐな眼と危険信号






特に、何か特徴のある顔とい訳では無い。

ただ。

その目は、嫌になる程真っ直ぐと、こちらを向いていて。


それだけが、物凄く印象的だった。



曇りひとつない、その瞳。

そこに、不信感や嫌悪感は無くて。

どうやら、俺は不審者だと認定されていないらしい。


その事に対して安心する反面、どうしても落ち着かなかった。



彼に対して何か、後ろめたい事がある訳でも無いのに。

俺は思わず、それから目を逸らした。



「…待っている人が居るので。まだ帰りません」


「もうすぐ来るの?」


「いえ。恐らく、来ないと思います」


「…は?」



彼の返答に、俺は素っ頓狂な声を上げた。


人を待っているが、彼はその人が来ない事を知っている?

ど、どうしよう。

意味が解らない。



…というか、何故俺は、この男子高校生に構っているんだろう。

赤の他人の事なんて、放っておけばいいのに。


どうして。

どうして、ここを離れる気にならないんだろう。



何か、感じるんだよな。

頭の奥で、危険信号が鳴っている。



「待っているのって、好きな奴?」


「…一応、恋人です」


「へぇ。…大事なんだな、そいつの事」


「大事ですよ。あいつ以外、要らねーのに…」



そう言うと、彼は缶をベンチに置いて、片手で自分の髪を、ぐしゃりと掴んだ。






「真琴に会いたくて、仕方が無いんです」






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