第93話 優しいのは







「…そういえば」



頭上でする、洋介さんの声。


俺は、頭に乗っていた彼の手を退かし、その顔を見上げた。



洋介さんは、俺が脱いだ学ランの上着を、手に取っている。

じっとそれを見つめては、不思議そうな顔をした。



「…何?」


「君、猫を触るのを辞めたのか?」


「え。どうして…」


「猫の毛。全く付いていないから」






…覚えていたんだ。


俺が、いつも猫を外で触っていた事を。





「ああ…。クラスに猫アレルギーの人が居るから、触るの辞めました」


「なるほど…。相変わらず、君は優しいね」


「違う。俺は、優しくなんかない。…面倒事が嫌なだけです」



俺は、一つ溜息を吐く。

そして再び、洋介さんの腹に抱き着いた。



「それなら、私が捨て猫でも拾って来ようか?そうすれば、君が此処に来た時に、いくらでも気兼ね無く、触れるよ?」


「…此処に猫を、住まわせるって事ですか?」


「そうだよ」


「…いいです」



俺は、ゆるゆると首を振って、拒否を示した。



「どうして?」


「…猫には、自由に過ごしてほしい。向こうが好きで住み付けば、話は別だけど。無理に閉じ込めておきたくない…」



自分の欲求の為だけに、相手の行動を制限したくなくて。

好きなものには、ただただ自由に過ごしてほしい。


この手の中に、ずっと閉じ込めるのは、とてつもなく恐ろしかった。



「…君は、やっぱり優しいよ」



そんな俺を、洋介さんは優しいと言う。

けれども。


あんたの、そう言ったその声の方が、ずっとずっと優しいよ。







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