第95話 同じ『真琴』を求めてる









「…真琴?」



俺は、小さな音を口から零した。


真琴って、真琴?

名前だけ同じの、ただの他人?



予想外の名前が頭に入って来て、何かが抜け落ちてしまった。

はくはく、と口を動かすが。

何の音も、出てくれやしない。

そもそも、何を言いたいのかも解らなかった。



「あ…。真琴っていうのは、俺の恋人の名前なんです」



恋人。俺の、恋人。

真琴。


俺の好きな人だって、『真琴』だった。



頭の中を、ざあっと流れていく何か。

あ。わかった。







この男は、真琴と呼吸が同じなのだ。






一つひとつ落ちて行くのは、望み?

もしかしたら、真琴と、もう一度。


そんなもの、本当は最初から失っていたのに。



あの日。

真琴をめちゃくちゃに抱いた、あの日。

もうこの手から、彼はすり抜けてしまったのに。


確信を得た訳では無いけど。

いや、確かめたくなんか、ないんだけど。

もう、解る。



「…ちょっと、すいません」



目の前の男は、携帯を取り出して。

電話を掛け始めた。


相手は、きっと彼だ。







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