第八章

第85話 2回目







…何で、こんな事になったんだ?





「君には、危機感と言うものが無いのかな?」


「さぁ…どうでしょう」



ゆったりとソファーに腰掛けて、脚を組む洋介さん。


そんな彼の足元のカーペットに、座り込む俺。

…しかも、正座。

何故か、正座。



「…少しは、真面目に考えようか?」


「…すいません」



ゆらっと揺れた、彼の瞳。

思わず、びくっと揺れる肩。


俺は、大人しく反省しべき事を考える。

…ように努力したのだけれど。



どうして洋介さんが怒り気味なのか、さっぱりわからなかった。



「あー・・・。という事は、君はあの行為に馴れている訳か」


「……」



無言は、肯定。

よく言ったものだ。





「禁止」





「え?」


「男に身体を差し渡す行為など、その他諸々。これからは、禁止」



きっぱりと言い切る、洋介さん。


俺は、口をあんぐりと開いた。



「…何で?」


「それは普通、聞かないんじゃないかな」



聞き返す俺に、洋介さんは困った様な顔をする。

けれども、そんな顔をされたところで、質問を取り消す気にはなれなかった。



「理由も知らずには、従えませんよ」


「…嫌だから、だよ」


「え…?」



小さく呟かれた、洋介さんの言葉。

それを聞いた俺は、ある出来事を思い出す。







——「離せ…っ」


「お前、そんなに溜まってんの?」


「…そうだよ。やっと相手がみつかったのに…」


「セックス禁止」


「はっ?」



俺は唖然として、拓夢を見つめた。

今、こいつ何て言った?

セックス禁止?ふざけるな。



「何であんたにそんなこと言われなきゃいけないんだ」


「嫌だから」


「あんたに関係ないだろ」


「ある」


「…ないってば」——





おじさんの手を取ろうとした俺を、抱き締めた拓夢。


男とイイことをしようとした俺を、抱き締めた洋介さん。




——「禁止」——



——「嫌だから」——




抱き締められたのも、その言葉を言われたのも。


不思議なことに、二回目だった。






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