第83話 帰る場所はこっちだろう?






ゆったりした動きで、俺は相手の首へと、腕を回す。


急に抱き着いてきた俺に、男は驚いたようで。

動きを一瞬、止めた。



「…ちょっと奥、行きませんか?そこの路地の所」


「え?」







「彼処で、イイことしよう?」







「……っ!」



開かれた目と、上下に動いた喉仏。

わかりやすい欲情の表れに、思わず笑ってしまった。


若い人の反応だ。

いや、俺の方が若いんだけど。



笑われて、男は少し機嫌を悪くしたみたいで。

グイッと乱暴に、腕を引っ張られる。



…あ。


これは、めちゃくちゃに抱いてもらえるんじゃないんだろうか?



「…ふは。最高」



ぶっ飛ぶくらい、ヤりたかったから。

少し腕が痛いけど、丁度良いくらいだ。



「さっきから、よく笑うんだね」


「…嫌ですか?」


「あー・・・。いや、別に」






嘘だな。





フイッと顔を背けた彼に、そう思う。

馬鹿にされている、と感じたようだ。



違うのに。

今笑ったのは、自分になのに。


自暴自棄になって、馬鹿みたいな事をしている。

そんな自分を笑ったんだけど…。



まぁ、この人に解ってもらわなくても良いし。

俺はそれ以上、何も言わずに着いて行く。


すると、急に視界が真っ暗になった。



「——っ、!?」



目を、後ろから誰かの手で塞がれて。

俺は思わず、足を止めた。







「君の帰る場所は、私の所だろう?」






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