第82話 刃物の代わりに抱いてほしい








あー・・・。寒いなぁ…。



俺は独り、夜の街に来ていた。

あの日から、裕也とは気まずくなり。

そして、拓夢とは会っていない。


上手く、顔が見れないから。

それがわかっているから。

拓夢へと送る、『会えない』の返信。

そればかりが、増えていった。



何だか、何もかもがどうでも良くて。

ここ数日は、学校も休みがちになった。


欠席、遅刻、早退。

そろそろ、進級が危うい。

…いや、まだ大丈夫か?



確か、我が校は意外と緩かった気がする。



「君、ちょっと遊ぼうよ」


「……俺ですか?」



ゆっくりとした足取りで、歩いていた時。

後ろから声を掛けられ、振り向いた。


目の前に立っているのは、大学生くらいのヘラヘラ笑っている男。

一人だけだった。






いいや。


この人に、めちゃくちゃにしてもらおう。





俺にとってセックスは、自傷行為に近くなっていってる気がする。


でも、それでも良かった。

刃物を手に取って、己の身体を刻んでいくよりは。



精神的に、楽だった。


あれさ。風呂に入った時に、馬鹿な事をしたなーって思う。



手を這わせれば、傷があるのがわかって。

お湯が染みて、めちゃくちゃ痛い。

これがしばらく続くんだから、辞めときゃ良かったって、物凄く思う。


…まぁ、それで救われる時も、あるんだけど。



だから、セックスの方が良い。

死にそうなくらい、抱いてほしい。




俺は、知らない男に笑いかけた。






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