第72話 お預けみたいで





ぞっとした。


その目にも、その言葉にも。

何より





言われた意味が、解らなかった。





「………な、に…」



身体が固まって、動かない。

掠れた俺の声が、頼りなく呟かれる。

顔を少し離した裕也は、俺をじっと見つめては、こてん、と首を傾げた。



「俺もよくわかんない。何でか知らないけど、まこちゃん見てると、ウズウズする」


「…ウズウズ…?」


「目の前にご飯があるのに、お預けにされてる感じ?そんなとこかも」


「………」



前から変な奴だとは、思っていたけど。

こんなに訳がわからない事を、言うとは思ってなかった。

ご飯?お預け?





——お前は犬か!





そしてその感情が、俺に向いてることが厄介だ。

勝手に他所でやってくれ…。



「ねぇ。まこちゃん」


「……なに」


「本当に彼氏が出来たの?」


「………」



はぁ…と溜息が出た。

再度繰り返される質問。

しつこい。

けれどもこれは、答えなければまた聞かれるんだろう。


早々と理解した俺は、重い口を開いた。







「…そうだけど」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る