第73話 開いた釦






「…そう」



ゆっくりと呟かれた言葉。

そろそろ離れてほしいくて、それを伝えようとした瞬間。

バッと学ランの首元を捕まれ、左右に引っ張られた。





シャララララ——





簡単に外れていく釦が、軽い音を立てていく。



「……え?」



唖然として、自分の胸元を見つめる。

え、え、え?

慌てる俺とは対称的に、裕也は落ち着いていて、さらにはカッターシャツの釦にも、手を掛けた。



「え、ちょっ…。裕也! やめろって…」


「うるさいなぁ」


「——っ…!」



俺が抵抗すると、上から聞こえる低い声。

思わず、身体が震えた。





だ、れだよ…こいつ。

こんな裕也、知らない…。


怖い、怖い。

逃げたい…!






「白いよね…まこちゃんって」



裕也の歌う様な声。

それによって、俺は我に返った。

言われた意味を、理解しようとするけれど。

鈍くなった頭は、上手く考えられなかった。


何も言えず、何も出来ない。

ただ、浅く息を吐いていると、裕也の指が俺の鎖骨をなぞっていく。



「…ひっ…!」


「うーん、可愛いなぁ。そんな怯えないで?」



いつの間にか、露わになっていた俺の首元。

そこを、裕也の熱い指がなぞっていく。


喉が、ひゅっとなって呼吸が、益々上手く出来なくなった。

ぐらぐらする。

身体は、どんどん冷えていく。






「どうせなら、俺のものになって欲しかったな」





…え?



ぽつりと呟かれた言葉に、聞き返そうとした瞬間。



「——っ、あっ——!」






首元に、激痛が走った。



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