第51話 狂いそうで痛くなくて、目を閉じる






…え?


今、何て言った?



返してくださいって言った…?


…拓夢は、俺を見捨てないでくれた、のか…?




「え、なにこいつ」


「お友達?」


「彼氏とか?」


「おホモだち!?」



ギャハハと品の無い笑い声。


五月蝿い。うるさい。

嫌な声を聞きたくない。



拓夢の声を何度も頭の中で再生させて、体の震え何とかを止める。






そうしないと、気が狂いそうだった。






「うぜーな…。こいつ、少し黙らせるか」



そのうち、男の1人が俺から離れて、拓夢の方へと歩き出す。


サッと血の気が引くのを感じた。



「違う…!その人は関係ないから…っ」



俺は、必死になって叫んだ。

お願いだから、拓夢に何もしないでくれ…!


駆け寄ろうとした俺を、残りの男達が抑える。



「危ないから行っちゃ駄目だよー」


「邪魔すんなよ」



ニヤニヤ笑うその顔を、殴ってしまいたい。

何も出来ない。

そんな自分が、憎い。


どうして、俺はこんなに無力なんだろう。

何も出来ない。

噛み締める唇から、血の味が広がる。





痛いなんて、感じなかった。





それまで、微動だにしなかった拓夢が、ことりと缶を下に置いた。



まるで、男達のことなんか目に入ってないかの様な、ゆったりとした動き。

拓夢の元に向かった男が、イラッとしたのがわかった。



「いいから!早くどっか行けって…!」



焦る俺を、拓夢が捉える。







「まこと、目瞑ってろよ」







「…え?」






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