第52話 あっという間に





そこからは一瞬だった。




拓夢と男の距離がゼロになる、と思った時。

もう男は、地面に崩れ落ちていた。



…は?



呆気に取られたのは、俺だけでは無いと思う。

周りにいた男達も同じじゃないかな。


固まっていた男達も、我に返ったように慌ててそっちに駆け寄った。

でも、結果は同じで。





――無音だ。



俺は目を瞑らず、へたり込んでその光景を見つめる。



殴り合いをしてる筈なのに、荒々しさなんて感じられない。

声を上げることもせず、拓夢は相手の急所を一撃で仕留める。






無駄の無いその一連の動きを、綺麗だとも感じた。





喧嘩なんてした事無いし、ろくに見たことも無いけど。

それでも、拓夢は強いんだとわかった。





俺がぼんやりとしている内に終わったようで。


倒れた男達を跨いで、拓夢がこっちにやってくる。




あっ…!俺、服――!



気づいた時には遅かった。


はだけたシャツと脱がされた下着とズボン。

それを拓夢に直され、着せられる。



全く躊躇しないその手に、じんわりと目頭が熱くなっていく。





…泣きそうだ。






こんなに汚らわしい俺なのに。

温かい手に触れてもらえた。


それが、堪らなく嬉しい。





さっきまで散々泣いていた癖に。

懲りずに俺の目からは、涙が溢れた。






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