第34話 碌な事がない






――ブブッ。


鈍く振動する音に体がびくつく。

ポケットへと入れてた携帯が振動したようで。



俺は、さっと頭が冷めるのを感じた。


…流されるところだった。


ぐっと拓夢の肩を押し、距離をとる。

ロックを外して見てみると、弘樹からの連絡が入っていた。



[悪い!バイト入って抜けられなくなった]



「――クソっ…」



俺は返信を返さず、また携帯を仕舞った。



来られないなら、呼び出したりするなよ。

そしたら…そしたら拓夢には会わなかったのに。


…こんなことにならなかったのに。



熱い。顔が熱い。

頭がくらくらする。


俺はさっき、何をした?

何でこんなに動揺してるんだ。



「…相手来ないのか?」


「………」


「セフレ?」


「……違う」





「じゃあ…彼氏、とか?」





「………」



俺が黙ると、拓夢が息を呑むのがわかった。


そうだよ。彼氏だよ。

俺はもう、他人のものなんだ。



「もうふらふら男引っ掛けたりしないから。俺のことは気にしないで。ほっといてくれ…」


「…嫌だ」


「は…?」


「嫌だ」


「…何言ってんの?」


「わかんない。わかんないけど…なんか嫌なんだよ」


「そんな理由でとやかく言われたくない」



俺はサッと立ち上がる。


帰ろう。

弘樹が来ないなら、こんな所にいる必要はない。



「…じゃあ」



チラリと拓夢を見ると、向こうは何も言わずに俯いた。


目が合った時に見えた悲しそうに揺らいだ瞳。

こいつのそんな目よく見るな、とぼんやりと思った。



チクリと胸が痛んだ。

けれど俺はそれを知らないふりして、公園から出る。



…最近、この公園では碌な事がないな。



俺は溜息を吐くと、早歩きで家へと帰った。




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