第33話 二度目のキスは浮気の味





――夜に外にいたから、当然冷たい唇。

少しカサついているけど、柔らかくて――




俺は、お前にキスしたんだよ?

なのに。

何で、そんなに普通に出来るんだ?




――「…これ以上、俺に関わるな。今度またデタラメなことを言ってみろよ」――


――「犯してやるからな」――




俺、そう言ったよな?

なのに。


何で、俺に話しかけるんだよ。



「…あんた、何がしたいんだよ…」



俺は俯き、前髪をぐしゃりと握る。

どうしようもなく、泣きたくなった。



「俺、まことに会いたかった」


「…は?」


「あれで終わりになんか、したくなかった」


「…何で」


「…わかんない」



そう言った拓夢は、俺の前へとしゃがみこんだ。

手が伸びてきて、頬を撫でられる。


もうすぐ冬へとなるし、もう暗くて寒いのに。

その手は、温かかった。



「あんた…俺に犯されたいの?」


「…いや、違うけど」



軽く揶揄うと、真面目な顔して否定される。

俺は、思わず吹き出した。



「なら何で俺に構ったりするかなー・・・」


「別に犯されたくは、ないけど」



そこで途切れる拓夢の言葉。

近づく顔。



あ、と思った頃には、もう触れていた。





「――お前と離れたくない」





すぐ側で動く唇。

言葉を1つ発する度に、拓夢の唇が俺の唇に擦れる。


ぞくりと鈍く体が疼いた。




何を、何を言ってるんだろう。


確かにその言葉は聞き取れたけれど。

少しも理解なんか、出来なかった。



だけど、鈍く動く頭でわかっているのは、俺は拓夢にキスされたということ。



あの時とは違って熱いけど、あの時と同じで少しカサついて柔らかいそれ。


俺は、付き合ってる人がいるのに。

その人を待ってるのに。



まだ唇に残るその感覚が、確かにキスされたことを知らしめた。




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