第31話 おそらくだけど





――『真琴ってやつ知らない?お前と同じ制服着てたんだけど』――



「智紀?」


「――えっ?」



昼休み。


真琴と裕也とお弁当を食べていた僕は、真琴に声をかけられ、慌てて返事をした。



「なんか、ぼーっとしてたけど…」


「あ、ううん。大丈夫だよ」



心配そうに見てくる真琴。

僕はその視線から逃れるように、食事を再開した。



…真琴、か。

やっぱり拓夢が言ってたのは、今目の前にいる真琴のことだろうな。


昨日の夜、幼馴染みの拓夢からの電話を、思い出す。



――『もう1回会いたいんだ。…なぁ、知らね?小柄で色白で黒髪で…目がすっげー茶色なやつ』――



あんなにも切なげな拓夢の声を、僕は初めて聞いたよ。


自然と会いたいということが、どういう感情から来るものか、わかってしまった。



拓夢が挙げた、探してる真琴の特徴。

それはまさに、目の前にいる真琴の特徴と全て一致する。


拓夢が会いたい人物は、偶然にも僕の友人だった。






おそらくだけど、拓夢は真琴を好きなんじゃないだろうか。


きっと、本人は気づいていないだろうけど。





…なんて美味しい状況なんだろう。

まさか身の回りで、男同士の恋愛が起こるなんて。



実は、僕は腐男子というものだったりする。

あくまでも、見る専門だけど。


なので友人が男に走っても、引かないし。

むしろ、ありがとうございますって感じ…。



そんな僕にとって、朝の光景は素晴らしすぎて、発狂しそうだった。


裕也に壁へと抑えつけられた真琴。

可愛いかったです。萌えました。

こっそり写真撮らせてもらいました。


ごちそうさまです。



「…智紀、聞いてる?」


「えっ?」



またもや僕は、自分の世界に入って話を聞いていなかったみたいだ。

少し眉を寄せて見てくる真琴に、慌てた。



「俺、数学当たってるのに、やってくるの忘れてさー。智紀見してくんない?」


「あ、うん。いいよ」



裕也の言葉に、僕は二つ返事で答えた。


…そういえば、裕也は真琴が好きなんだろうか。

朝の光景を思い出しながら、ふと疑問に思った。



裕也っていまいち感情がわかんないだよね…。

単純そうに見えて、読めない。



もし、裕也も真琴が好きだとしたら。

拓夢と裕也、どちらも友人である僕としては、複雑になるな…。




僕は、何も気づいていないであろう真琴をチラリと見て、小さくため息をついた。





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