第23話 馬鹿で馬鹿で可哀想






「…そんなに俺が好き?」


「…好きだよ」


「馬鹿だね」


「悪いかよ」


「俺なら絶対やめとく」


「俺だってやめてぇよ…」




ぎゅうっと抱きしめてくる弘樹の腕。


痛い。痛いよ。

でも離さないでほしい。


俺だって十分馬鹿だ。



一体俺の何が、弘樹をそんな気持ちにさせたんだろう。


俺は、自分が嫌いで堪らない。

好かれる理由なんて、さっぱりわからない。





可哀想に。

変な男に捕まって、変な感情を持ってしまって。





「ねぇ弘樹」


「ん?」


「俺の名前、まことじゃないんだ」


「…え」


「平仮名じゃなくて、漢字なんだ。真実の真に楽器の琴で、真琴」


「…そうか」



弘樹は今、何を思っているだろうか。


嘘の名前を教えたことを、怒っているだろうか。

本当の名前を教えたことを、喜んでくれただろうか。



「…俺の名前は、嘘じゃねーから」


「…うん。そうだよね」


「真琴…」


「なに?」


「好きだよ…好きだ」



低くて掠れた声。

あぁ…ゾクゾクする。

弘樹の声は腰にくる。


俺はそっと耳元に近づいた。






「弘樹――めちゃくちゃに抱いて」






頷いた弘樹に手を引かれる。


俺はやっぱり最低だ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る